第29話 フリーニャとの面会
「体に気をつけて、しっかり休養をとるように」
「アラス様もお気をつけて」
そしてアラス様は帰国の途につきました。帰り着くまで一月はかかることでしょう。移動手段をどうにかならないかしらね。エイリー・グレーネとエードラム帝国の同盟は望むところですからね。
フォルティスお兄様も朝夕に様子を訊ねてくだる。私は外出どころか部屋から出ることも禁止されていた。
「リルア、調子はどうだい?」
「さっきも訊ねられましたわ。お兄様。そんなに急には変わりませんけれど少し退屈しています」
体の方は特に悪い所はないけれど魔術は使えなかった。
「そうだな。体はもう大丈夫だろう。ファルク司祭に相談してみようか」
あの後ファルク様には話を聞かれてかなり叱られた。
もしかしたら、私が使ったのは癒しの光ではないことに気がついているのかもしれない。
「ふうむ。やはり王女様の魔力はまだ枯渇していますね。それに体の魔力回路が一部壊れたままですね。だから術は使えそうにありませんが、日常生活にはさほど影響はないでしょう。魔力が戻れば初級ぐらいは……」
「ではもういつも通りに生活しても良いのですね」
「ええ、では今日の分のお薬を」
私は嬉しくて渡されたお薬を一気に飲み干した。
あのいつも飲んでいた健康汁に加え、魔力回復とかいう成分を含む汁も増やされている。
こちらは透き通った光る水のようなもので飲みやすいというか飲むと調子が良くなる。これもファルク様のお手製らしい。
ファルク様は正しく見た目は白いローブのイケメンだからマッドサイエンティストという役どころかしら。
でもファルク様は『薔薇伝』に出てくるキャラではないからどういう役回りなのか分からない。
「アナベル。早速行きたいところがあるのよ。お兄様に行って良いか聞いてくれないかしら?」
そして、私が向かったのは城の外壁とお城の間にある王宮騎士団の訓練場だった。
そこではえいやあと勇ましい声が響いていた。
「リルア様」
訓練していたバルドがいち早く気が付いて私のところにやって来た。
「こんなところまでおいでになられて大丈夫なのですか?」
「ええ、きちんと司祭様とお兄様の許可はいただきましたのよ」
私は訓練場を見回す。目的の人は直ぐ見つかった。
私がフリーニャを見過ごすはずがない。ずっとプレイしてきたもの。
CGも美麗だったのよね。
均整がとれた体で繰り出す剣技。
大技を出すときはそれ用のアニメーションが差し込まれていたし。
「一刀流抜刀術!」
「いっとう……?」
バルドに怪訝そうにされたけれど後ろに控えてついてきた。
フリーニャが使っていたのは大剣の訓練用の物だった。
「フリーニャ」
私が声を掛けると彼女は直ぐに私の前で跪いた。
「王女殿下にはお命をお救いいただきどのようにお礼を申し上げたらよいのか。ましてや、追放されたこの身を雇っていただけるとは。このフリーニャ全力を持ってお仕えする所存でありまする」
――堅い。堅すぎる気がする。
すると訓練場の指揮官も私に近寄って礼をとった。
「王女殿下、騎士団長からフリーニャはもう護衛として勤務に就くことが出来ると申し渡されております。どうなさいますか?」
「まあ、そうなの。とても嬉しいわ。フリーニャが初めて私の専属護衛となるのね。では早速警護に当たってもらいましょう」
「えっ。は、はい」
フリーニャは最初とても驚いていたみたいだけどとても喜んでいた。
でも、私はその前に確認したいことがあった。
「……フリーニャは大剣を使うのですか?」
「あ、あれはその、自分の物はあのとき壊れてしまって、皆さんが大剣を使われていたので自分もそちらにしようかと……」
確かにアラス様は大剣、それも伝説の黒流剣だし、お兄様もそうだったわね。
お兄様は『薔薇伝』の設定では光の勇者の特典で片手剣でも大剣でもどちらでも強くなれた。今のお兄様は確か大剣を使っていた。アラス様の影響なのよね。
一度、お訊ねしてみようかしら。
「護衛騎士は騎士服や帯剣も支給されるはずですわね」
私の言葉に騎士団員が肯いてくれた。
「では、今は間に合いませんが、女性用のデザインを私がしてもいいかしら? ……剣も。あなたは刀がいいと思うの。あのときは素晴らしい動きでした」
私がうっとりと話すとフリーニャは目を輝かせていた。
本当にあのときは……。今でもよく生きて戻れたと思っている。
アラス様、お兄様、騎士団の方、そしてフリーニャの一撃、それぞれ皆が繋げて切り抜けることができた。
それにやっぱりフリーニャの装備は専用のでなくちゃ。
うふふ。滾るわぁ。
「それに部屋も私の隣の側付きへ移動をするように」
流石に誰でも城内に入れないものね。フリーニャは今まで騎士団員の寮でいたみたい。
フリーニャは元気に返事をすると他の騎士団員に連れられて去っていった。
「リルア様はフリーニャをとても気に入られておりますね」
「ええ。彼女も私の希望の光ですから」
「私では……」
バルドはそれ以上何も言わなかったけれど物憂げな様子だった。
フリーニャに出会えた私はそんなバルドの様子に気が回らなかった。
そして、いそいそと部屋へと戻る途中にマドラに遭遇してしまった。
「王女様! こんなところでふらふらと。休んでいないといけません!」
「マドラ。このようなところで大声を出すほうがいけないと思うわ。それに外出の許可は出ています」
あまり会いたくない人だけどマドラの結界の守護石のお陰で首の皮一枚繋がっていた恩がある。
私はマドラに礼をとった。淑女のではなくて、エイリー・グレーネ方式のもの。私は胸に手を当てると微笑んでみせた。
「ありがとう。まだお礼が言えていなかったわね。マドラのくれた結界の守護石のお陰で私はこうして生きて戻ることができたわ」
マドラはぽかんと暫く口を開けて私をまじまじと見ていた。それから突然顔を真っ赤に染めると、
「くっ、し、仕方ありませんね。また作って差し上げます。今度はフェンリル如き消し飛ばすようなものをね!」
そう叫ぶと何故か走り去って行ってしまった。何だか可愛いかもしれない。
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