第23話 マドラからの結界の守護石
マドラは馬車に乗り込もうとしている私達に追い縋った。
「何だ、マドラ。私達は公務に出るのだぞ。それを邪魔するとは何事だ」
「いいえ、違います。その王女こそが、フォルティス王子様の邪魔をしているのです!」
「まあ、マドラ。酷いわ。私の視察は宰相や陛下にもご許可いただいているものです。それをお遊びのように言われるのは心外です」
「……ですが、あんなところに王女様がおいでになる必要はありません」
「ええい、急いでいるのだ。遅くなるほど危険だ。それぐらい分かっているだろう? お前はいずれ筆頭魔術師になるのだから」
「そうです。だからこれを王女に、王子様も、ついでにバルドとアナベルにも。言っとくけどあくまでお前らはついでだからな!」
「これは……」
マドラから渡されたのは小さな布袋、中にはビー玉くらいの水晶球が入ってあった。
「ほう、結界の守護石だ。これは凄いな。流石はと言うところか」
お兄様とバルドが感嘆の声を上げると取り出して眺めている。
「身に着けておいてください。説明はしなくても分かりますよね。一回ぐらいしか持ちませんがないよりはましでしょう」
バルドとお兄様が喜んでいる姿を見てマドラも満足したようだった。
アナベルもお礼を述べていた。
もともと身分は違えどここにいる皆は幼少期からの幼馴染だった。
アナベルがお姉さんぶってマドラを揶揄っていた。
「ありがとう。マドラもこういうとこは気が利くんだから、もっと素直に言えばいいのにね」
するとマドラは顔を真っ赤にした。
「くっ。大きなお世話です! それでは失礼いたします」
「まあ、いろいろ暴走しがちであるが悪い奴ではない」
「そうかしら? そうだといいのですけど」
お兄様はそう言うけれど私はマドラには色々と嫌がらせじみたものをされてきたから素直に頷けない。
「リルアはまあ仕方ないところもあるだろうけどね」
「ありすぎです。けれどこの守護石で少しは考えを変えましょう」
――この結界の守護石はその名の通りその石の周囲に結界のようなものを張って守ってくれる。
エイリー・グレーネのお城や王都は大きな結界石で守られていた。
普通は闇も光の色々な魔力が混在し、悪しき負の力に飲み込まれると人も物も変質してしまうと言われている。
いわゆる樹海のモンスターも悪しき負の力によって普通の獣が生まれてくる時に変質されてしまったものだとされている。
モンスターと獣の違いは魔力を行使するかどうかで判断されていて、一般に家畜や獣は魔力がないものであった。
大きな町や村などは王国から結界の守護石を貸与して魔力があり人間に害するモンスターから守っている。
負の力に触れると石は魔力を消費していくので定期的に魔力の補充が必要になるので結界の守護石を個人で持つなど考えられないものだった。
アラス様から頂いた指輪もこれの応用で作られているようだった。国宝の秘宝クラスだから同じのはそう作れないみたい。
エードラム帝国の紋章が刻まれているし無くすと大変。国際問題になるかも。
見送るマドラを馬車の窓越しに見ながら、馬車は出発した。
途中何度か休憩を入れて夕方に差し掛かったところで西の樹海の街に到着したので、拍子が抜けるほど異常なことは何もなかった。
街道は整い街並みも続いている。
正直、王都から移動したという気にならないほどだった。
この西の樹海の街はエイリー・グレーネ王国の生命線のようなものだからいざという時に大軍を投入する必要があるために街道を整えてきた。
この経緯はエイリー・グレーネの王国の歴史で学んだ。
お父様の代にはまだそこまでのモンスターの氾濫はないけれど先代のお祖父様のときにはあったらしい。
だからその年代の人達からは事あるごとに備えるようにと言われている。パーティなど始まったら延々とその話を聞かされることになる。
西の街に着くと最初に騎士団の西の街分隊の駐屯地に向かった。
敷地では既に隊長を先頭に整列してお出迎えを受けた。
「フォルティス王子様、王女様がみえられました。一同、敬礼!」
「うむ。皆、良く務めてくれている。これからも頼んだぞ」
――何だかこの街に着いたときから視界が翳んでいるように思える。
体もふらふらする。
長時間馬車に揺られたせい?
体もだるく動くのが辛くなってきた。
それでも私は騎士団員達へお話するお兄様の隣で微笑んで立っていた。
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