第22話 西の樹海の街へ

「だけどリルアの体の方はどうなんだい? 今まで殆ど城から出たことはなかっただろう。疲れて倒れるようでは連れて行けないよ」 

 フォルティスお兄様に言われて私はにこりと微笑んだ。

「アラス様の特訓メニューで随分健康になりましたのよ。お兄様」

 ――そう、私は覚醒してから城内を歩くことから始めて今は軽く走れるくらいになっている。

 当時は息が直ぐ上がったものだったので随分進歩した。

 儚げな美少女風な雰囲気は変わらないようにしているけどね。

「じゃあ、準備もあるから、予定としては一週間後くらいに出発するよ」

「分かりました」

 ――これで私も西の街を実際に見に行けるのね。

「あ、そうですわ。お兄様にお訊ねしたいのですが、湿原地帯のアマゾナス国にフリーニャという将軍はいませんか?」

「さあ、そこまでは知らないな。いつになるか分からないけれど騎士団長に調べさせておこうか?」

「是非、お願いいたします」

 一度にしたいことができて私の機嫌はすこぶる良かった。王都を出るのは初めてだもの。

 アナベルを始めとする侍女達は急遽決まった視察旅行の準備に忙しそうだった。

 今まで出かけても大神殿くらいだったし、お店なんかに気軽にでかけられないからお店の方から商品を携えて訪問してくるものね。

 でも、私が一緒に西の樹海の街に視察に行くのは宰相を始め、お父様達からも良い顔をされなかった。

「でも、私だって大きくなったし、公務として視察くらい構わないのではないかしら?」

「しかし、それは王女様、我が国の後継者が同じ場所で何かあった場合のことを考えなければなりませんよ。それに王女様はエードラム帝国への輿入れが決まっております。何かありましたら、エイリー・グレーネ王国の多大なる損失は免れません」

「……」

 ――輿入れって今仰いましたよね? これはあくまで便宜上の婚約であって、そもそも本当に成婚になる確率はかなり低いと思います。

 そう正直に言いたいけれどその事実がマドラ達からの嫌がらせを激減させたし、その他にもいろいろと動き易くなったのもあるから何も言えない。

 溜息をつきつつ、何とか私もお兄様と同行できるようにお願いしてなんとか了承を得た。

 だけど、もう一方の知らせはあまり良くないものだった。

 アマゾネス国にはフリーニャなる女将軍はいないとのことだったのだ。

 既に追放されているのか、フリーニャが何処にいるのか、そもそもこの世界に彼女は本当に存在しているのか、全く分からなかった。

 『薔薇伝』でフリーニャの剣技は光の勇者であるフォルティスお兄様や皇帝で剣聖とも称されるアラス様に勝るとも劣らない。

 特にボス戦はなくてはならなかった。

 単体攻撃に対してボーナス特典が付く強力な必殺技があるし、剣技の集団技を持っているので雑魚モンスターを薙ぎ払うこともできて本当に使えるキャラだった。

 大剣使いのアラス様やフォルティスお兄様は大技の発動にクールタイムがあったり、消費魔力が多かったりで使い方を考えないといけないときがあったけれどフリーニャは柔軟に対応できたのよ。

 集団技はフリーニャでなければお話にならなかった。

 ただその分魔術系は余り振るわなかったけれど。

 絶大な力技を発揮するキャラだった。

 そして、見た目は凛として甲冑が似合う勇ましい美女。

『薔薇伝』のオープニングムービーに刀を腰に下げ紺色ストレートの髪を靡かせて甲冑姿で一人だけ断崖に立つシーンがあった。

 それがとても格好良くて好きだった。

 あの時は目まぐるしくてじっくり見られなかったけれどいたのかな。

 ――西の街から戻ったなら、アマゾナス国の湿地帯も調べるようにお父様にお願いしてみよう。実際に行ってもいいかな。

 私は自分でも西の樹海で使えそうな道具や魔術について一緒に確認した。



 そして、視察旅行の出発の日、昨夜から準備をして早朝に出る予定だった。王城から西の街はまでは半日ほどの日程になっている。

 騎士団の詰め所や冒険者ギルドの分室などを回り、最後に止まる予定の領主の館へ向かう予定となっていた。

「王女様が何故野蛮な西の街に視察になど行かれる必要があるのですか!」

 私がお兄様と一緒に用意された馬車へ乗り込もうとすると煩い声が聞こえてきた。

「おっと、そう言えばあいつも一緒に行くとか言い出したら厄介なので早く乗り込もう」

 そう促されたので私は大きく同意して馬車に乗り込んだ。

 ――それにしても野蛮なとかあんなに大きな声で言うなんて、西も街に住んでいる人達に失礼じゃないの。本当にマドラには一から我が国の歴史やマナーを教えて差し上げたいわね。

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