第21話  『薔薇伝』のキャラ

 私は大神殿から戻ると司祭長から聞いた聖女の存在について思い出そうとした。

 『薔薇伝』に出てくる聖女は二周目以降に選べる、所謂隠しキャラだった。だからパッケージには描かれていない。

 設定資料集には絵姿が出ているけどね。

 でも、ピンク色の瞳と髪をしていてあまり聖女っぽいイメージは無かったかもしれない。

 どちらかと言うと見た目は乙女ゲームのヒロイン系だったのよね。

 だから聖女と言う割には人気がイマイチだった。

 見た目だけだとあの中ではリルアが一番綺麗で可愛いと思う。

 自分のことだからあまり言えないけどね。

 『薔薇伝』のメインストーリーだと聖女が祈りを捧げているけれど闇の軍勢は広まっていく一方だった。

 でも、闇の神を倒し世界の安寧を願う場所として聖地と聖女は象徴的な役割を果たしていた。

 メインストーリーには聖女が現れて闇の手下を倒す強制のイベントシーンや光の加護をプレイヤーキャラに授ける。

 最後には世界が闇に満ちて、聖女が祈りを捧げていた聖地にしか光が残らず、残された聖地の大聖堂から天空に現れた闇の神の城へと皆で魔道船に乗って、攻め込む。

 実際にこの西の大陸から東の海上の海洋諸国にある一番大きい島が聖地と呼ばれ、そこに大聖堂があり聖女や大司祭様がいる。

 そして何より聖地は人々の信仰の拠り所となっていて、光を始めとする神々を敬う言わば中心的存在と言える場所だった。

 司祭長から聞いた聖女がどのような人なのかエイリー・グレーネ王国の存続のために会ってみたい。

 闇の眷属達とも戦うには光の加護は必要だと思う。

 あと『薔薇伝』のメインで選択できるキャラのアマゾナス国の追放された悲運の女将軍フリーニャ。

 彼女はパッケージ前列左側に刀を抜こうとした姿でメイン三人の一人として華を添えている。

 『薔薇伝』の設定ではエイリー・グレーネ王国から東に行ったところの湿原地帯にアマゾナス国はある。そこは女性が権力を持ち、また住民の多くは女性であるそうだ。

 その中で若くして将軍になったフリーニャはその若さと実力を嫉まれて無実の罪で追放されるのだった。

 フリーニャの追放は十八歳、だからフリーニャを選ぶと十八歳からゲームはスタートする。

 そういえばリルアよりフリーニャは六歳上だったはずだからもう追放されているかもしれない。

 他国の情報なんてどこで手に入れたら良いのだろう?

 それから『薔薇伝』のパッケージに描かれているメインキャラ三人の後ろに控えめに祈りを捧げるような姿をしているのがリルアで、その反対側で竪琴を持って歌っているのがハーフエルフのセレク。

 彼はエルフの末裔という設定なので麗しいほどの美形に描かれていた。 

 セレクは放浪の詩人という設定で始まる。

 でも、セレクで進めると神々とのやり取りが分かって世界観が分かり易いというメリットがあった。

「とりあえず、今できそうなのはアマゾナス国の将軍の名前を調べることね」

 アマゾナスも我がエイリー・グレーネ王国とは国交があったはずだからできないことは無いと思う。

 何せエイリー・グレーネ王国はモンスターの沸く樹海がある国でもあるから、冒険者とか貴重な資源を手に入れたいため、どの国も邪険にはしない。寧ろ友好国であろうとしてくれている。

「どうなされました? リルア様」

 神殿から帰って百面相をしながらお茶とお菓子を食べていたからアナベルに不審がられてしまった。

「いえ、何でもないわ」

 アラス様との婚約と言う後ろ盾を得てからマドラ達による嫌がらせが無くなったようで私の専属の護衛騎士の登用ができるようになった。

 今日の護衛は騎士団から男性の騎士が来てくられている。

 お兄様専門の侍従、護衛、私の侍女、護衛が分かれるようになった。

 それまでは特に決まってはいなかったのはいつも一緒にいられたからだ。

 当然バルドはお兄様の専属の護衛騎士に戻っている。

 家族同然だったバルドが側にいないのは少し寂しい。

 お兄様も十五歳になられる。

 もう少ししたら成人の儀式と共に光の勇者として認められるはず。

 お兄様は公務も任されるようになったので、下手したら夕食まで会えないという日もあった。それでもできるだけお互いの話を聞くようにしている。

「リルア、今度は日帰りばかりでなく泊りの公務を任せられるようになったよ」 

「まあ、それは大変寂しゅうございますわ。それでどのようなものですか?」

「ああ、西の街の視察だよ」

「それって、あの樹海の街の! ずるいわ。私も行きたいのに……」

「最近モンスターの沸く間隔が狭まって来たみたいだから、騎士団と見に行くことになった」

「むううぅ」

 上目遣いでお兄様を見ていると、フォルティスお兄様は相好を崩した。

「ふふっ、仕方ないな。リルアは僕がいないと寂しいんだね」

「そ、そうなのですわ。ですから私も一緒に」

 西の樹海は是非見ておきたい。

「じゃあ、父上と騎士団長に聞いてみるよ」

「お兄様、大好き!」

 私は精一杯可愛く言ってみた。お兄様はにこりと笑って肯いていた。

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