第20話 公式設定とのズレ
翌日に両親との夕食の席で話が進んだ。
「いや、まさか、リルアにエードラムの皇子が求婚するとは」
「でも悪いお話ではありませんわ」
「だけど、エードラムは遠いな。私は反対だ。リルアは体が弱いしなぁ」
お父様とお母様が話し合われている。そこにフォルティスお兄様も続ける。
「ですが、正式な立ち合いの下で行われておりますし、後日正式な使者を送るとのことでした。リルアが受け取ってしまったので認めない訳にはいかないでしょう」
……受け取ったら求婚を承諾したことになるなんて知らなかったの。
どうやら私とエードラム帝国のアラス皇子様と正式な婚約を結ぶことになってしまっていた。こんなの公式設定にあったか覚えてない。いや、無かった。
正直、婚約にするなんて思ってもみなかったけれど、やはりエイリー・グレーネ王国も世界を制覇するエードラムの意向は無視できないようだった。
「まあ、これでリルアの意に染まない相手との結婚は逃れられるだろうけどね」
「一部の者達からは苦情がでそうですけどね」
お父様とお母様が苦笑されていた。
誰のことを言っているのか分かる。
私は自分の指にあるアラス様の指輪を眺めた。
流石、エードラム魔道帝国の指輪だわ。
何と私の指に合うサイズに変わったのよ。
だから今は私の左手薬指にアラス様から貰った指輪がぴったりと納まっている。
そして、私の婚約はエイリー・グレーネ王国内でも早々に広められた。
主に誰に対してとは言わないけれど。
あれから直ぐ、マドラに会うと目聡くアラス様からもらった指輪を確認された。
「王女様! 私と言うものがありながら、エードラムの皇子の求婚を受けるなんて認めません!」
そう叫んで指輪を奪おうとした。だけど指輪にマドラが触れると、
「ふんギャ!」
バチッと火花が飛んでマドラが慌てて離れていった。
もちろん私には別に何も痛みは無い。
「な、なな、何ですか? 今のは!」
マドラは忌々し気に指輪を睨みつけるだけだった。
「へえ。便利な指輪ね。流石エードラム帝国の物だわ。守りの力が付与されているのね。これで私に対して害をなそうとする者は近寄れないわ」
私がそう言うとマドラは怒りを露わにしていた。
けれどさっきのように電撃を食らうと思うと躊躇していた。
――アラス様には感謝しかない。名を使えと言いつつこうして物理的にも使えるなんて。今度お会いしたらお礼を言おう。
それから、エードラム帝国も政情を安定させるため、アラス様が訪問されることはなく、丁寧な求婚の書状と贈り物が届いただけだった。
けれど半年後には第二皇子と第三皇子の争いに終止符が打たれ、落ち着いたのか、アラス様が正式に挨拶に訪れることになった。
盛大な歓迎会と婚約を祝う席を設けられた。
私はもう直ぐ十三歳になろうとしていた。
二つ上のフォルティスお兄様は十五歳に、今年成人の儀式がある。そして、光の勇者として認定されるはずだ。
五つ上のアラス様は十八歳になられた。
『薔薇伝』の公式でアラス様はこの歳に皇帝位に就いていた。
でも、彼はエードラム帝国の皇帝位にはまだ就いていない。
今は第一皇子の補佐という立場だった。
実質、第一皇子は病床であるので内情はアラス様がほぼ皇帝の執務の補佐を執り行い次の皇太子と目されているそうだ。
争いを起こした第二皇子と第三皇子は陛下に粛清されていた。
陛下はご健勝だけどこの政変で自身の息子達を処刑したことにより早めにアラス様に帝位を譲る予定になっている。
それがこれからのこの世界にどう影響を与えるのか分からない。
これがゲーム『薔薇伝』に倣っているのかどうかもまだ分からない。
そんな重要なことをアラス様から聞かせていただいていた。
「リルア王女。そなたの夢の予言はこれからどうなのだ?」
「ええとですね。アラス様が十八歳で皇帝になるということでしょうか」
「ふむ。だが皇帝になるとこうしてそなたに気安く会うことが出来ぬからもう少し父上や兄上に頑張ってもらいたいな。魔道船の試作も取り掛かっているので出来上がればもっと会うことが叶うようになる」
「まあ! 魔道船が、そうでしたの。それは素晴らしいことですわ」
――だって、闇の神との最終決戦では天空城に魔道船で乗り込まないといけないもの。
アラス様には是非とも魔道船を製作していただかないと。
私の喜びようにアラス様も気を良くされたようだった。
「しかし、あのようなところに黒流剣があったとは」
「でしょう? 目の前にあるのに気が付かない。そのミスリードが……」
以前にいらしたときにアラス様が黒流剣をまだ見つけていないと仰っていたので、私は攻略で得ていた知識からヒントを出してみた。
本当なら選択した主人公と一緒に見つけるはずなのだけどアラス様は順調に黒流剣を使いこなせているみたい。
それが当たっているかどうか不安だったけれどこうして本物の黒流剣を見せられると『薔薇伝』の設定と同じということを感じた。
そして、同じということはゲームの始まりと共に滅亡するエイリー・グレーネ王国の設定も同じだということも。
それから私は大神殿で司祭長とも相談をしていた。
そもそもファルク様が話してくれた光の使い手というのは『薔薇伝』の中には出てこなかった。
「光の使い手とは光の魔術の頂点にある存在である。息をするように光の魔術を使えるはずじゃ。そして光の魔術ならほとんど魔力を使わず行使できるといわれておる。王女様がそうだとは……」
「まだファルク様がそう言っただけで」
「いえいえ。ファルクがそう申したなら間違いないじゃろう。ただ……」
「ただ?」
「光の使い手は例外なく男性で勇者だった。女性は……」
そう言えばいないと話されていたわよね。
『薔薇伝』にはそんな言葉は無かった。
聖女ならいるけど『薔薇伝』では二周目以降に選べるキャラの中に聖女がいたわよね。
「聖女という存在になるかのう。いや、しかし、今聖地で聖女が降臨したと言われておるのじゃ。当代に勇者は一人、聖女もまた然り。王女様がもしそうなればあちらが偽物ということになりかねない」
「私はその光の使い手とかではありませんわ」
『薔薇伝』でもリルアはか弱くて使えないキャラだったもの。
私は司祭長に力強く申し上げた。
「ですから、大神殿でおられる方が聖女に間違いありません。それに光の勇者は……」
――フォルティスお兄様に決まっています。
「……そうですかのう。でもまあ、光の勇者候補は我がエイリー・グレーネ王国のフォルティス王子に間違いないじゃろう。幼い頃にあれだけの光の量は近年稀にしかみられなかったからのう」
私は司祭長の言葉に肯いた。
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