第17話 ライトソードとライトボール

 私の疑問にファルク様は答えてくれた。

「光の魔術は使いこなせても、本来の属性でない者は最上級の技を習得できません。フォルティス王子様は光属性の素質はありそうですが、発現まではまだ今少し成長を待たないとなりませんね」

 そう言えばお兄様が光の勇者の認定されたのは『薔薇伝』の公式設定では十五歳のときだったし。成人の儀式のとき光の勇者に認定されたのよね。

でも、それが闇の神へと伝わり、闇の神は眷属達に抹殺を下した。

そして、スタンビートが起こりエイリー・グレーネ王国は滅ぼされることになる。

「光の魔術の使い手が現れた。早速司祭長にお知らせしないと……」

 逸るファルク様を私は引き留めた。

「お待ちください。私はまだ使いこなせておりません。だから違うかもしれないのでまだ申し上げないでください」

 ライトボールもまだできそうになかった。指向性を持たせるのが難しい。

「しかし、王女様。光の神の加護が失われたこの王国で再び王家の者に強く光の力が出現するような一大事。私の一存では決めかねます」

 ファルク様は困ったように黙り込むとアスラン様を見遣った。

「それにしても、あなたのような一介の冒険者が王女様の魔術の暴走を止めることが出来るとは……」

「冒険者だから、緊急事態には慣れているだけだ。それに……」

 アスラン様はそう言うと私をじっとご覧になりファルク様から守ろうとしてくれた。

「ライトボールを剣のように振るおうとするならライトソードが正しい呪文形態だ。それを無理やり押し通そうとしたから反発してあのようになったのだろう」

「ほう、良く分かりましたね」

 私はアスラン様に庇われたままファルク様を見る。

 ――ライトソードは確かもう一段階上の呪文。『薔薇伝』のリルアが光の魔術でできる最高の技だったのよね。

 確か武器を光属性にできる。

 でも、ライトソード自体を光の剣のようにできないかしら。さっきのライトボールで攻撃系の威力からできそうな気がしもの。

 やっぱり魔術は面白そう。危険も多そうだけど。

 ファルク様がアスラン様を見つめて口を開いた。

「あなたからはその、あまりこの国には相応しくない力を感じます。だから、先程の王女様の暴走も止められたのでしょう?」

 それって……。

 そう言えばアスラン様の初期設定では闇魔術を使えたはず。

 でも公式で闇と光の魔術が稀な設定は無かった気がする。

 どのキャラ選んでもどの系統の魔術でも取得できたのよ。相反するものは同時に取得できないけどね。

「さて、何のことでしょう。たまたまですよ。何も闇魔術でなくてもあれくらいは消すことができます」

 アスラン様の言葉にファルク様は再び黙り込んでしまった。

 難しい理論になるので私はついていけそうになかった。

 前世か何かのことを思い出してもよく理解できない。


「ファルク様、必ず時が参りましたら神殿でご相談いたします。それまではまだこのことは内緒でいて欲しいのです。悪戯に世間を騒がせたくありませんもの」

「しかし……、分かりました。ただ」

「ただ?」

 リルアって本当に使えないキャラだったのよ。

 だから、派手に知らしめてハリボテだったなんてがっかりされたくない。

「この礼拝堂に光の痕跡は残ります。これだけの光跡なのですよ。司祭長にはいずれ誰だかお分かりになられるでしょう」

「そのときに私からいずれご説明を致します」

 『薔薇伝』では魔法屋とか道具屋で魔術が手に入った。

 カウンター越しに魔女の姿をした人からお金を払って買う。

 形は水晶玉でそれぞれの属性のものがあり、初級、中級、上級と分けて売ってあった。

 ここエイリー・グレーネ王国は始まりの場所でもあるので初級だけだけど全属性が手に入ったと思う。いくつか中級も扱っていた。

 上級とかになるとやっぱり海洋諸国にある聖地でないと手に入らなかった。

「……分かりました。王女様の仰せのままにいたしましょう。でもそれなら、一層魔力の制御と正確な発音の訓練をしなければなりません」

 にこりとファルク様が微笑まれると何だか部屋の温度が二、三度下がった気がした。残りの時間は魔術をコントロールする練習をした。


 その後は音楽に裁縫などをこなして、本日の日課は終わり休憩となる。

自室に戻ると勉強や公式行事もないときはお茶をしたり、大人しく刺繍をしたりしていた。だけど今は違う。

「アスラン様、剣技をお教えいただきたいのです」

「リルア王女様、護衛に様はいりませんよ。それにあなたのその手に剣は不向きでしょう」

 ――ぐぐ。

「今はアスラン様だけです。だから様はつけさせていただきますわ。それで剣をお教えいただけますか?」

 アナベルにはお茶の用意をするように言ったので部屋には二人だけ。

「率直に言わせていただければその手では細剣が精々といったところでしょう」

「やっぱり……」

「やはりとは、先程の光の魔術と言い、どうやらあなたは見た目のままの大人しい王女様ではないようだ。そしてまだ何か、夢とやらで我々の知らないことを知っている。それはあなたのような王女が剣を持たなければならないことがあるというのか?」

「……」

 流石、未来の皇帝陛下は鋭かった。

 実際、彼は公式設定ではもう直ぐ皇帝の座に就くのよね。

 どのような形でなるのか分からないけれど。

 ずっと傍にいてくれる方ではない。

 それまでに彼の剣技を見てみたい。

 だって、彼はのちに剣聖と称されるほどになるのだから。

 剣聖と皇帝位を持つアスラン様。

『薔薇伝』では一番人気キャラだったの。

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