第16話 光の魔術の授業 

 それにしてもアスラン様の護衛の許可が下りるのが早かったから、エイリー・グレーネ王国では私の護衛は直ぐには見つからないかもしれない。


 実際アスラン様だからこうして直ぐ雇えたのだと思う。


「アスラン殿のお陰で助かったな。このままリルアをお任せしたいところだ」

「残念ながら……」


 アスラン様が断りを入れたが、フォルティスお兄様は感心したようにアスラン様を見上げていた。お兄様にとっても頼れる存在に思えるのかもしれない。ガラハド卿はかなり年が上だし。


 『薔薇伝』の公式設定ではアスラン様は来年の十八歳で皇帝になるはず。


 そう、これから四年後のお兄様が十八歳の時、『薔薇伝』のゲームが始まり、エイリー・グレーネ王国は落城する。ゲームでアスラン様と出会うときには尊大な感じの皇帝様だった。


 滅亡までに私の専属護衛というか、仲間が欲しい。


 アスラン様にも絶対光の神々側について欲しい。闇落ちパターンもあったもの。その度やり直した記憶がある。光側か闇側か確率は半々。会話のパターンで分かるのでやり取りの前はセーブ必須だ。アスラン様の闇側は半端ない。


 だけどこれがゲームの設定と同じとは限らないから一番はエイリー・グレーネ王国の滅亡を阻止したい。


「では心当たりを幾つか当たっておきましょう」


 にこりとアスラン様は微笑んだ。今のアスラン様は物腰丁寧な青年で尊大な皇帝様ではなかった。昨夜は怖かったけれど。



 それからお兄様と周辺諸国の語学や経済について習う。


 これは王家の調査機関の精査された情報を基にして教えられる。大勢の貴族の通う学園とかでは教えられないことの一つ。


 エイリー・グレーネ王国にも貴族子弟や優秀な者が通う王立学園がある。本来なら十三歳から通える。貴族子弟は十三歳から二十歳の間、二年間在籍することができる。


 でも、私達は学園の分室扱いとして王宮にいながら授業を受けている。警備上などの問題があるからで、お茶会や行事に来賓として出席する形になっている。ただお兄様も十四歳だから週に数日ほど学園に顔を出している。



 あれからマドラはアスラン様がいると近寄ってこない。


 それにマドラとの婚約の噂は沈静化に向かっていて少し安心した。


 今はファルク様に初級魔法を教えていただいていて正直マドラに関わっている暇はない。


「では今日は魔法の成り立ちからご説明をいたしましょう」


 この時間にお兄様はダンカン卿に習うことになっている。


 私は礼拝堂で特別に行われる。正直お兄様もファルク様に習った方が良いかもしれないわね。またご相談しようかしら。


 そして、ファルク様からは古代文字による呪文の成り立ちを教えられた。


「ああ、だから、マドラの発音が良く分からなかったのですね」

「そうです。魔法は口伝なので師から弟子へと受け継ぐものです。それに同じ系統の魔術がやり易い」

「ライトボール」


 そう発音するとボボッと明るい光の玉が発生した。


「お見事です。それに指向性を持たせるためには……」


 構造式の解説をされると光の玉は動き始めた。


「わっ。建物を破壊することに……」

「大丈夫です。この部屋には魔術防御の結界を二重に張ってあります」

「ええ? そんなこともできるのですか?」

「これは系統魔術とは違います。今の王女様ではまだ難しいと思いますがいずれは……」


 結界という言葉ではないけれどそんな防御魔法は『薔薇伝』にはあった気がする。


 そのうちフィールドに出ることもあるのかしら。視察旅行と称して地方都市に行くことはあったけれど。


 私は自分の生み出した光の玉を誇らしげに眺めた。


「今のところ王女様のライトボールの威力は暗闇を照らすのとアンデッド系を寄せ付けないくらいの威力がありますね」


 いつか、ライトボールを剣に宿らせてみせるわ。


 誰も知らないかもしれないけど、闇の眷属はライトボールの光を剣に宿らせて切るとやっつけることが出来るのよ。


「やっ! ライトボール切りっ」


 私は手に剣を持ったつもりで振り回して見せた。すると眩い光の軌跡が現れた。


「え?」


「王女様! 危険でございます!」


――あれ? これってもしかして魔術の暴走とかしちゃった!

 礼拝堂内が光に満ちていく。


 魔術の暴走を打ち消そうとしていたファルク様がやや狂気じみた感嘆の声を上げて動きを止めた。


「なんとライトボールでこの威力! 実に素晴らしい!」

「くっ。危ない!」


 壁際で護衛をしていたアスラン様が駆け寄ってきて何かを詠唱した。

唐突に光の威力が衰えていく。


 アスラン様が私の手を取り怪我の有無を確認してくれた。


「ふう。お怪我はないみたいだ。しかし、司祭は光の魔術の暴走したことの危険性はご存じないのか」


 アスラン様はファルク様に問い詰めていた。


「申し訳ない。まさか初めてで発現まで至るとは思いませんでした。浅慮すぎました。先程のものは光属性の故の反応でしょう。我がエイリー・グレーネ王国でも長らく光の使い手は現れませんでしたので、喜びのあまりについ見惚れておりました」


 ――え? 光の魔術はフォルティスお兄様とかマドラだって使えますよね?

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