第9話 封印された力
しかしながら、私とマドラの婚約話は光の速さで周囲に広まっていた。行く先々で祝福の言葉が贈られてしまう。
……勘弁してちょうだいな。まだ、打診段階ですから。
私が必死で違うと訂正してもどこからか再びその話が沸いてくる。何かの害虫のよう……。
ガラハド卿が護衛予定を私達に確認してくるときにお兄様の側にマドラはいないことにほっとした。
マドラが最近では婚約者気取りで私のすることに口出しをしてくるから困る。
「今日は王都の大神殿で司祭長にお会いするのですね。そのあと冒険者ギルドのエイリー・グレーネ支部で視察ということでよろしいか?」
冒険者ギルドの総元締めは現在はエードラム帝国にある冒険者ギルドが本部と呼ばれ、国ごとに支部、ある程度の規模の街にあるのは分室と呼ばれている。昔はここ、エイリー・グレーネ王国に冒険者ギルドの総本部があったみたいだけど帝国の威光により随分昔にエードラム帝国に移動したそうだ。
「ああ、頼む。人数は厳選して目立たぬように」
「それで、本当に王女様も冒険者ギルドに参られるのですか?」
「少しギルドに頼みたいことがあって、私の護衛のこともありますから」
「護衛、ああ、あれは……」
ガラハド卿は何かを知っている様子だった。もう少し聞きたがったが、予定の時間だということでお兄様と馬車に乗り込んだ。
お兄様も気になる様子だったので馬車の中で話を聞いた。
「まあ、マドラと王女様の婚約話が整ったのでもういいかと思いますが、王女様の護衛は候補者にそれとなく辞退するようあの親子が圧力をかけていたからですよ」
「そんな、何故」
「王女様の護衛が手薄だということで護衛兼婚約者としてマドラがその席に着こうとしていたからです」
「だって、私はお兄様と違って王女だから何も権限はありませんよ」
「ですが、降嫁されて王家の血筋が自分達一族に入る。それは大変名誉なことです。それに王子様が立太子なさり、次代を決めるまでは王女様は第一位の後継者であらせられますよ。彼らは国の中枢にいることができます」
「そんな……」
「まあ、あの権力志向は味方にすれば心強いですよ。マドラもそれなりに見目も良いし、次の王宮筆頭には間違いないでしょう」
――問題ありありです。何より私が嫌なの。例え国のためとはいえ。
一般的に見ればマドラはややキツイ顔立ちをしているけれど整っているし、青色の髪に薄茶の瞳で見た目はそれなりに良いとは思う。けれど根本的な相性がどうも好きになれない。弱いものに容赦がないところとかあるし、自慢げなところとか苦手。王女と生まれたからには政略結婚も仕方ないとは思うけれど。
そんなことを考えつつ、王都の大神殿に着いた。事前に知らせてあるので司祭長との面会はスムーズに行われた。
「おお、リルア王女様。今日は魔力量の測定にいらしたとか」
「はい。司祭長様。先日ダンカン卿に魔力が無くて魔術が使えないと言われたので」
「ほっほっほっ。ダンカン卿がそう申しましたか、いや、王女様方は生まれたときなのでご存じないでしょうな……」
そこから司祭長様から聞かされたのは――。
「……王女様の命名式のとき、ここにお妃様と参られました。そして、発現した魔力はこの大神殿が光に包まれるほどでした。多すぎる魔力は色々なものを惹きつける。また多すぎるのも体に負担となる。それで、王女様の魔力を封印したのです」
「多すぎたのですか……、封印したことは聞いておりますが」
お兄様が私と司祭長をご覧になった。この部屋にいるのは司祭長とお兄様、私だけだった。ガラハド卿、アナベル達は控室にいる。司祭長はお兄様の言葉に肯いた。
「ええ、フォルティス王子様をも凌ぐほどのものでした」
「そんなことが……、母上からお聞きしていたけれど。そうですか……」
そう言って何か考え込み始めたお兄様を私は見遣った。
「王女様。何事も過ぎるのはよろしくないのです。何事もほどほどがね。あれほどの光は、……闇の者それも上位の者を呼び寄せかねませんでしたから」
「闇の者……」
――そうあの『薔薇伝』のサブタイは光の神と闇の神々の聖戦なのよね。そもそもこのエイリー・グレーネが滅びたとされるのもフォルティスお兄様が光の勇者だと聖地の大神殿で認められたからだし。
「光あるところに闇ありです。王女様」
「では、使い方もお教えいただけますか?」
「ふむ。こちらに暫くお通いなさるのは難しいでしょうから。封印を解いて魔術について指導するものを王宮の礼拝堂に行かせることにしましょう。ああ、ファルクを呼んできてくれないか」
司祭長が呼びに行かせてやってきたのは銀髪ストレート長髪を背中で束ねた、琥珀の瞳の氷の彫像のような美少年でした。少年というより青年に近い。お兄様よりは年上に見える。
それにしても美形率が何気に凄いんですけど。それにこんなキャラはいなかったと思う。ひょっとして隠しキャラだったとか?
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