第10話 出番が早すぎる

「お呼びですか、司祭長様」


 しっとりとした落ち着いた声でファルクと呼ばれた青年が話した。


「おお、紹介しよう。王子様、王女様。この者はファルクと申します。我が神殿でも特筆する魔力を持っておりますのじゃ。この者なら王女様に何かとお教えすることができましょう」


「私はリルアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。ファルク様」


「ファルクで結構です。王女様に敬称で呼ばれる訳にはまいりません」


「じゃあ、よろしくね。ファルク」


「畏まりました」


「早速じゃが、リルア様の体内を廻る魔力と封印を確認してみなさい」


 ファルクは司祭長の言葉を受けて私をじっと眺めた。


「……かなり複雑に織り込んでおられますね」


「そうじゃろう。私の当時最高技術を持って封印しておったのじゃ。これを解くことはそなたの昇格試験も兼ねておるぞ」


 二人がそんなことを言いながらファルクが腰に下げているタクトを手に取って何やらブツブツと唱えた。そして、徐に私の額に切っ先を向けると光の滴のようなものが流れ出て私の額へとぶつかった。


「熱いっ」


「ああ、王女様。少しの辛抱してください。これで第一段階の封印は解けたようです。あとはゆっくりと王宮で調整いたしましょう」


 司祭長がダンカン卿がしたようにタクトを出して私の魔力とやらを確かめていた。


「これでリルアにも魔法が使えるのですね」


「でも、なんだか、気分が悪くなって……」


「そうですね。少し乗り物に酔ったような気がする方がいると言われておりますが、それは魔力酔いと呼ばれるのもです。急に強い魔力を感じるとそう言う症状が現れることがあるみたいです。直治まるでしょう」


 司祭長様の言葉にお兄様が安心したように微笑んだ。


 でも額が熱くて、全身なんだか熱でも出たみたいになってきた。


 挨拶をして今度は王都の冒険者ギルドの支部へと向かった。


 確かに直後は酔ったような感じがしていたけれど冒険者ギルドには行きたいので我慢しているうちに治ってきた。



 ギルドに着くと別の扉から中へ案内されて明らかに特別室と分かる部屋に通された。部屋の中には既にギルド長らしき人が待っていた。


「王子様並びに王女様、わざわざのお運びいただき、光栄でございます」


「うむ、堅苦しいのは抜きにして、早速なのだが頼みたいことがあって……」


 ギルド長にお兄様が私の護衛として女性冒険者の推薦をお願いした。


「冒険者を王女様の専属護衛にですか? それこそ王家の騎士団からの方が」


「それが……」


 お兄様と私の顔色を読み取ったのかギルド長が気まずそうにしていた。


「あ、ああ、あの噂は本当だったのですか、……分かりました。ではそれとなく声を掛けておきましょう」


「お願いいたします」


 それからお兄様とギルド長は先日のモンスターの氾濫の被害状況について二人で話をする。それが終わったので、


「帰りにギルドの受付を見てみたいのですが……」


 私の要望はすんなりと受け入れられて、ギルド長に連れられて冒険者ギルドの受付カウンターへと向かった。広い空間に受付カウンターや薬草などの売店、買取カウンター、待合場所用に軽食コーナーまであった。


「これが冒険者ギルドね」


 私はギルドの外側や内部が『薔薇伝』のゲームのスチル絵そっくりだったのでつい感嘆の声を上げてしまった。


 お兄様は喜ぶ私を暖かい目で見守ってくれていた。


 昼間なので人はそれなりに多かったが、ギルド長がいるのでこちらには値踏みするような視線だけが送られてきていた。


 その中でひと際鋭い視線を感じて見遣るとそこには――。


「え? ありえない。どうして……」


 王女としての言葉使いも忘れて叫びそうになった。


「リルア、どうしたんだ?」


「どうして、あなたがここにいるの」


 視線の主に向かった呟いていた。やや、ざわついた中で私の声が届いたかどうかまでは分からない。


「王女様、お知り合いでもいましたか?」


「いえ、その、あの方は?」


 ギルド長が私の視線の先を確かめるようにした。


「ああ、彼は一級の冒険者のアスランですね。王女様はご存じでしたか。王宮までその名が広まっているとは」


「リルアが知っているって?」


 不思議そうにお兄様が私を見遣る。


 ――彼の存在感は半端ない。ゲーム時より若いけど、あの存在感。間違いない。どうしてエードラム魔道帝国の皇帝がエイリー・グレーネ王国の冒険者ギルドにいるのよ。それも一級冒険者ですって?


「おお、そうだ。彼を護衛騎士にどうですか? 女性でないといけないのでしょうが、彼なら護衛としても十分務まると思いますよ」


 ――うう、魔道帝国の皇帝を私の護衛騎士にできる訳はないと思うけど。


 ギルド長が手招きしたので、アスランとやらが私達の方へとやってきた。


 彼はキャラデザの通り、細マッチョで、黒髪の紅い瞳の持ち主、でもまだ長髪では無かった。肩につくくらい。それにしても、近づくにつれてひしひしと圧倒的な存在感に気おされる。


「お呼びですか?」


 彼は私達より設定では八歳上のはず、だから現在十六歳だろう。やんちゃな子どもぽいところは瞳の中にありそうだけど。この状況を絶対面白がっている様子が窺える。


「おお、アスラン、実は護衛を探していて、どうだろうか顔の広い君に誰か心当たりはいないかね。なんなら君でもいいがな」


「ご冗談を、ギルド長。やはり、私は男性より同性の方が……」


 私が慌てた声を出すのもアスラン様は興味深げに見ていた。


「ふむ、残念ながら、女性ではありませんのでご希望に添えそうにありませんね。確かめていただいてもかまいませんが……」


 にやりと笑う、アスランことエードラム帝国の皇帝様。


 それでも私の前に跪いた。皇帝が跪いたのよ。私は慌てて彼を立たせようと近寄った。


「あ、あのお立ち下さい。目立ちますので困ります。それに……」


 ――あなたがこんな簡単に膝をついてはダメでしょうが。


「ふっ。レディはどうやら私のことをご存知のようだ。興味深い」


 アスラン様は立ち上がりながら周囲には聞かれないように私の耳に囁いてきた。


「――では、代わりに、宜しければ護衛騎士が見つかるまで、不肖私めが務めさせていただきましょう」


 ――えええぇぇ?


「おお。そうですか。それは良かった。アスランなら人格も能力も当ギルドが保障いたしますよ」


 驚きのあまり口を開けそうになるのを必死で我慢して微笑みを浮かべた。フォルティスお兄様はアスランをやや警戒していた。


「アスランはどちらの出身だ?」


「東の大陸砂漠のジプラです」


「……そうか。東大陸には黒髪が多いと聞く。ただ、この件は検討して後に連絡させていただこう」


 お兄様がそうギルド長とアスラン様に話すと彼らは了承していた。

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