第7話 虚弱王女様

「せめて、冒険者ギルドとか酒場で情報を得たいの」


「……姫様。それより、今日の刺繍の課題が終わられていませんよ。お茶会までに仕上げておかないといけなかったのに」


「ふぇっ」


 私の奇声にアナベルやバルドが不思議そうにした。


「何だか、今日の姫様はいつもとは違って……」


「そうですね。お倒れになった際、どこか打ちどころが悪かったのかもしれない。やはりあのときリルア様の侍医に診せるべきだったかもしれませんね」


「あ、あ、あの私は元気よ。ほら?」


 ラジオ体操の初めの方をやってみると二人からはますます奇妙な視線を感じた。それに何だか体に違和感を覚えた。


「あ、あれ?」


 くらりとして倒れそうになるところをバルドが抱えてくれた。


「ほら、やっぱり、侍医を呼んでまいりましょうか?」


 ――うーん。やっぱりか弱い王女の設定はゲームと変わらないか。


「いいえ、大丈夫少しふらついただけよ」


「さあ、姫様、着替えてお休みになって、バルド様は御退出を」

 

 アナベルがバルドを促すと渋い顔をした。


「分かりました。それにしても、やはり、リルア様にも専属護衛に女性騎士が必要ですね。今まではフォルティス様とほぼご一緒だったので、私が控えていられましたが……」


「でしょ! だから、酒場でパーティメンバー、じゃなくて護衛を探そうと」


「酒場? そんなところで護衛なんて見つかりませんよ。精々酔っぱらってクダを巻く破落戸くらいしかいません。陛下と騎士団長にご相談しておきましょう」


 バルドが呆れたように言うと出て行った。


 私はアナベルに寝間着に着替えさせられると寝台で横になり目を閉じた。


 そう言えば私に専属の護衛はいなかった。


 そもそも、小さい頃に女騎士を募集していたし、側に居てくれたように思う。だけど直ぐに結婚していなくなった。その内、志願する人が少なくなって、お兄様の護衛のバルドが兼任するようになって……。




 翌日も私は寝込んでしまった。アナベルは既に私がお茶会のあとは寝込むことを予想していたみたい


 ――弱い。弱すぎる。この体。これはラジオ体操から始めるしか……。


「ふむむ」


「姫様。また奇妙な言葉を仰って。さあ、お薬ですよ」


「うへぇ。それ苦くて飲みたくない」


「……本当におかしな姫様。今までの黙って飲まれておりましたのに」


 私はアナベルの言葉にぎくりとして慌ててそれを飲んだ。


 ――とにかく苦い緑の汁。とてももう一杯とは言えません。


 そこへ扉を叩く音がして、お兄様が部屋にみえられた。


「やあ、今朝は少し顔色はマシになったようだね」


「フォルティスお兄様」


 ここは城の王族の住居区域の中で子ども部屋に位置する。


 今のところ、居間などの共通部分とお兄様の寝室とは別で居間を挟んで繋がっている。他にも客間や資料室にそれぞれ側仕えや護衛の部屋も連なっていた。同じ城の中でも両親の私室はまた別の王族の区域にあった。


「お兄様、昨日はどうでしたか?」


「特に大したことはないよ。顔見せの程度の挨拶だけだよ」


「でも、私も冒険者ギルドに行ってみたかったな」


「うーん。そうだな。王都のエイリー・グレーネ本局の冒険者ギルドならリルアを連れて行っても大丈夫かな」


「本当ですか! 嬉しい。それと私も魔術を学びたいと思うのです」


「それはいいけど大丈夫なのか? 前にダンカン先生の顔で泣いてたじゃないか」


「私も大きくなりましたわ。怖いお顔くらいで泣いたりしません」


「大きくねぇ。それなら先生に伝えておくよ」


「私も魔術を習って、それに護衛も必要よね」


「確かにそうだな。僕も立太子すればここから移動することになるしね」



 授業は基本王宮に講師の先生を招いてお兄様と二人で受けていた。もちろん進度は別々になる。授業枠は同じでも個別指導という形式だ。


 それから数日後に魔術の授業を受けるようになった。


 ――今度は泣いたりしないもの。



 魔術を習う部屋はやや薄暗い。暗くするのは魔力を知覚し易いためにしてあるそうな。


「ご機嫌よう。フォルティス王子様。リルア王女様」


 恭しく礼をしてくる我が我が国の筆頭魔術師のダンカン卿とその後ろにマドラも胸を逸らせて立っていた。


 マドラも一緒に授業を受けるのかしら?


「今日はリルア王女様が再び魔術のご講義を受けられるとか。では久しぶりなので今日は魔力量から計り直しましょう。子どもの頃は魔力量も成長なさるのでその都度測定しなければ。では、失礼して」


 私は彼の差し出したタクトに手を差し出した。


 ダンカン卿の持つ杖の上部にはアメジストの水晶がはめ込まれていてとても綺麗なものだった。


 ――魔術師になったらこんなものを使えるのね。ああ、なんだか見覚えあると思ったら、魔法ステッキだ! イケオジな魔術師の持つ杖が魔法少女のタクト……。


「ふぉふぉおおお、きぃえぇぇぇい!」


 ダンカン卿が私以上に奇妙な唸り声を上げるとタクトが淡く光り私の前で球体になると直ぐ消えてしまった。


「――うむむむ。残念ながらリルア王女様には魔力はあまりありませんね。頑張っても精々初級のものしか使えないかと」


 それは再び私にあのゲーム設定を思い出す羽目になる言葉だった。


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