第4話

 ハンスさんの作り方は変わっていました。

晴れた夜の月に照らしたみ水で洗った木苺達、木苺の葉と一緒に一晩寝かせた砂糖、木の一番下に実った檸檬。

他に鍋や皿などがテーブルに並んでいます。

そのテーブルを挟んで俺達は座って、水気が切られた木苺達の中に住む白い綿とやらを一つ一つ取っています。


「これ、全部ジャムに?」


 からの瓶沢山あります。


「一部は僕が生きる分」


 前に作ったやつの味見、とハンスさんは半分残った木苺の瓶を投げてよこしました。

スプーンですくって──。


「──うっわ、うまー……」


 瓶ごと全部、独り占めにしたくなる味で驚きました。

変わったひと手間がこうしたのでしょうか、とすぐに答えが飛んできました。


「魔法をかけてるからね」


「まじですか、凄ぇ……」


 そう俺が言うと、ハンスさんは目を丸くさせて止まりました。


「……君は不思議だな」


 噂の魔女の森で、魔法、なんて言葉が出たら驚くもの、とでも思ったのでしょうか。

俺が今まで回った国の中に、少ぉし人と違った、魔術染みた事をする人もいました。

それと近しいものかとすんなり受け入れたのが今です。


「いや、不気味だな。ルカ、本当は幽霊かい?」


「んー……幽霊は生きようとしないのでは」


 俺は普通に返しました。

足はまだ痛いし、ちまちまとした作業も疲れます。


「腹もきますし」


 そう言うとハンスさんは喉を鳴らすように笑いました。


「そっか、そうだね。悪かった。君は生きている」


「あんたもですよね?」


「さぁ、どうかな」


 飄々ひょうひょうと返されましたが、ハンスさんのからかいは慣れてきました。


「そういえばこれ、商人が取りに来るんですか?」


 瓶何十個分にもなりそうな量の木苺達です。

他にも木の実のシロップ漬けや小野菜こやさいの酢漬けなどあると聞きました。

ハンスさんは窓の外を指差します。

窓から覗くと小雨の向こうに蔦で覆われた小屋が見えました。

今は貯蔵庫の代わりに使っていると言います。


「──


 突然、ハンスさんの声色が変わりました。

目を戻すと、真っ直ぐで有無を言わせない視線が刺さりました。

こちらもまばたきも許さないといった緊張が、じわり、と汗となって背中に流れます。


「……なんてね。ごちゃごちゃしてるし所々朽ちてるからただの警告だよ」


 ほっ、と胸を撫で下ろします。

からかいに慣れたなんてまだでした──彼こそ、幽霊なのではと思ってしまいました。


 そしてそれがより強くなったのは、その夜になってからでした。

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