第3話
目が覚めたら雨の音が賑やかでした。
すっかり寝入っていたのか疲れも取れて、足の痛みも和らいでいます。
窓の外は灰色だけれど、雨は嫌いじゃありません。
「──早いね。まだ寝てていいのに」
ハンスさんがキッチンから声をかけました。
髪も綺麗に
「おはようございます……あんたはいつもこんなに早いんですか?」
「おはよう。そうだね、雨の朝はね」
そしてタオルを投げられて、顔を洗ってくるといい、と何故か軽く笑われながらキッチンとは逆の方を指差されました。
途中、窓ガラスに映った自分に驚きました。
癖っ毛に寝癖が足されていたからです。
顔を洗って髪を何とかして戻ると、テーブルには食事が並んでいました。
薄いぺしゃんこのパンケーキにピクルス、いい焦げが付いているソーセージと紅茶です。
「遠慮はなしで。僕が勝手にした事だ」
声の前に腹が返事をしました。
「ははっ、では今日も生きようか」
そう言ってハンスさんは食べ出します。
俺も続けていただきます。
ぷつん、と噛んだ瞬間弾けるバジルソーセージの香りと、じゅわり、と出る肉汁。
パンケーキは薄いながらも、ふわっ、と、とろっ、としていてヨーグルトの酸味も効いています。
やたら赤い紅茶も、じんわり、目が覚めていくようです。
「全部あんたが?」
「他に誰がいるの」
「ですよね。ほんとに一人なんですね、こんなところに」
「そう、こんなところに」
慌てて謝ります。
けれどハンスさんはさっきと変わらない顔で首を振ります。
「いいよ、知らないだけなんだし」
村の噂の中にハンスさんはいませんでした。
魔女ももしかしたら、と俺は考えます。
何よりも自分を恥じました。
見て聞いて歩く旅人が呆れます。
「……ここはどういう場所ですか?」
「ふっ、うん」
最初からこう聞けばよかったのだと反省します。
フォークを置いてハンスさんは話し始めました。
この森は賑やかで、植物が沢山あって分けてもらえる、人以外の動物や虫がいて、木の実や木の葉、澄んだ湧き水もあると言います。
どうやらこの森は入る前のおどろおどろしい色のままではないようです。
俺は知らない事を知っていきます。
「僕はそれらを分けてもらってるんだ」
あれを見て、とキッチンに視線を泳がせると沢山の赤が目に入りました。
赤と黒の木苺や桑の実でした。
「さてルカ、今日は雨で君の足は探し物をするにはまだ元気じゃない。そして僕は
捻った足は踏みしめるとまだ痛みます。
それを知ってかハンスさんは、にんまり、と微笑ながら提案します。
「……世話になってるし、じゃあ、はい。手伝います」
「そう言うと思ってたんだ」
ハンスさんは、早速仕事にかかろう、とテーブルを片付け始めたのでした。
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