第13話

 レッドは、二人との闘いを終わった後に、自室に何とか帰って、ベッドにすぐさま寝ていた。


 「シャドウか・・・」


 シャドウの、魔騎士をやめるやつには負けないという言葉が、レッドの脳裏に引っかかっていた。


 「俺は魔騎士をやめるために戦っている。確かに、そんな奴に、一生懸命魔騎士をやっている奴が負けたくないのは普通か・・・」


 いつもどうり、魔騎士をやめるべきなのか、そうでないのか悩むレッド。


 そして、ある魔騎士のことを思い出した。


 「カリバーさん」


 カリバーというコードネームの魔騎士は、レッドの師であり、父親を見捨てて殺した魔騎士でもあった。


 レッドは、カリバーをしたっていた。だから、その分父親を見捨てたという事実が、レッドを悩ます。


 「なんで、カリバーさんが親父を裏切った?なんで・・・俺は、どうすればいいんだよ」


 自室で悩みもがくレッド。


 カリバーは敵だ。だが、カリバーは魔騎士を今やっていない。それに、何所にいるかも不明だ。死んだとか死んでないとか。 


 「復讐もできない。復讐できたら、すっきりするはずなのに」


 再び悩むレッド。


 そんな悩むレッドの前に、ある魔騎士がやってきた。


 「み、ミスト」


 そこにいたのは、コードネーム ミストという男だった。


 「よ、レッド。悩んでるんじゃないかな?と思って」


 ミストの能力は霧を操れる事。そして、なぜか人の感情も少しなら分かる。


 「俺、本当に魔騎士をやめるべきなのか、分からないんだ。人を守ることは素晴らしい事だ。だけど・・・」


 「ま、そう悩むなって。それと、一つだけ言うけど、レッドに魔騎士をやめてほしい槇氏は、誰もいない。それだけだ」


 そう言って、霧になって消えたと思ったら、再び現れた。


 「あ、もう一つ。ゼロって魔騎士は、誰かのために戦っている。じゃあな」


 ミストは、今度は本当にレッドの自室から消えて行った。


 「何だよ、あいつ」


 でも、レッドは正直うれしかった。


 ミストは嘘をつかない男だ。


 そのミストが、自分の事をやめてほしい人間がいないと言ったのだ。レッドは、悩んでいたので、アクアやブラストなどの魔騎士が、自分の事をどう思っていることなど気にしていなかった。だから、余計嬉しくて、少し照れる。


 「ゼロが誰かのために戦っている?」


 なぜミストがそんな事を言ったのかはわからないし、ゼロが誰をなぜ守っているのかは分からなかった。


 「そういや、俺は誰のために戦ってるんだっけ」


 そんな疑問の中、レッドは熟睡した。


      *


 「レッド!」


 突然だった。熟睡しているレッドが、何者かによって叩き起こされた。


 「ん?アクア?」


 なぜか消したはずの電気は付けており、急に光を浴びたせいで、目がくらんで、それがアクアのかは、確信ではなかった。


 「そう、アクアよ。指令が来たわよ。イブリ―スを超える、イフリートが十年ぶりに出たって。それで、私とレッドが火山に向かえって。


 「まじかよ。今何時だ?」


 レッドは時計を見ると、まだ夕方の六時だった。レッドは、疲れていたので、もう夜な感じがしていた。


 「大丈夫?イフリートとイブリ―スは似ているから、イブリ―スを倒したことあるのは東京でレッドだけで、水の能力を持つ私が選ばれたらしいの。リードしてよね」


 「イフリートだったら、皆で行けばいいんじゃねえか」


 「皆、バトルで疲れているの。それに、レッドの邪魔になるだけでしょ」


 「俺も疲れてるって・・・」


 そう言いかけて、ベッドからレッドは立ち上がると、妙に体が軽くて、痛みや疲れが吹き飛んでいた。


 「アクア、回復してくれたのか?」


 水の能力を持つアクアは、回復する事もできる。


 「うん。早く行くよ」


 そう言って、レッドをひっぱって、アクアは火山に向かった。


 火山に着いた二人は、来る途中に使ったバイクを、火山のマグマがない陸地に置き、火山を上って行った。


 「なあ、アクア。熱くねえか?」


 火山の温度は、六十を超えていた。会うな状態だ。それに、鎧も来ているので、暑さで焦げそうな気分のレッド。


 「赤いくせに」


 「赤いのは関係ないだろ。赤が、炎って誰が決めたんだよ」


 「はいはい」


 アクアは涼しい顔で言った。水の中でも冷たい冷水を操るアクアは、体内の水分を冷水に変えて、暑さをしのいでいた。


 「いいよな」


 それを、羨ましそうに見るレッド。


 そんな二人のもとに、火山の流れだすマグマから突然現れた、マグマを身にまとった小型のモンスターが、何体も現れた。


 指令は、大型のモンスターが観測されたときにしか起こらない。なので、指令にないモンスターがいてもおかしくはない。


 だが、おかしいのは、その量だった。モンスターの数は、ざっと三十体と言ったところだろう。


 そのモンスターは、すぐさま二人をかこった。


 「行くぞ!」


 「分かったわよ」


 二人は背中を合わせ、モンスターに向かっていった。


 「おおおお」


 中に高く飛んだレッドは、モンスターの一隊に、炎の剣で相性が悪いアグルを叩きつけた。


 だが、その威力はやはり強く、相性が悪くても、一撃で粉砕した。


 「何?」


 レッドが突然驚いた。


 それは、そのモンスターが闇に包まれて、消えて行ったからだ。


 「おい、アクア。こいつら、ダークの手下みたいだ」


 「そうみたいね」 


 アクアも気づいたようだ。


 そして、数分後。


 あの大量にいたモンスターが、死体もなく消えていた。


 「やったわね、レッド」


 アクアは、自身の武器の、ポセイドンと呼ばれる、水属性最強の槍を背中に収めた。


 「やっぱり、お前のポセイドンはすげえな」


 ポセイドンで、モンスターの三分の二は倒した。やはり、神の名がついてあるだけあると感心するレッド。


 「レッドもすごいわよ。炎で、炎を倒しちゃうんだから」


 「そんなことあるか?」


 少し嬉しがるレッド。


 「嘘」


 「な!」


 「ふふ」


 戦闘の終わった二人は、そんな話をしていると、それは突然やってきた。


 「ドスン」トいう鈍い音とともに、人間型の五メートルを超える竜魔人 イフリートが姿を、火山の天辺から飛び降りてきたのだ。


 「な、これがイフリート」


 見た目は、レッドが何体も倒してきたイブリ―スに似ていたが、その威圧感と大きさははるかに勝っていたのが感じられる、二人の闘争本能。


 「行くわよ、レッド」


 「おお」


 二人は、再び武器を抜くと、最初に動き出したのは、炎の塊と言っていいイフリートの弱点の、水を操れるアクアが動いた。


 ポセイドンを持っていない、左手をイフリートの左足に向けると、そこから大量の水流が流れ出し、イフリートの左足にかかった。


 二人とも、ダメージを与えたと思っていたが、なんと、アクアの冷水が、イフリートに触れた瞬間、蒸発したのだ。


 「何度あんだよ」


 イブリ―スの体温は、これほどではなった。やはり、十年に一度しか現れないといわれているイフリートの強さは、伝説級の中でも別格のようだ。


 「私は、できるだけ冷たい水にするから、その間、イフリートの気を引いて」


 「分かった」


 レッドは、アクアの作戦に従うと、アクアから離れて、できるだけイフリートの四つもある目玉に、自分をおわせた。


 「グオオオオオ」


 噴火したような雄叫びをあげたイフリートは、目だけではなく、体ごとレッドに振り向いた。


 「来やがれ」


 イフリートは、右のマグマの鉄拳を、挑発しているレッドに叩きつけた。


 「くそ」


 レッドは、左に全力でジャンプして避けた。だが、レッドはそれで恐怖感を覚えた。


 イフリートの鉄拳が、当たった地面が、マグマのように溶けるように煮えたぎって行ったのだ。


 「まじかよ。あんなの食らったら、マルコ下だろ」


 「はあああああ」


 レッドがビビっていると、イフリートの後ろから、強烈な水が放たれた。


 「グオオオオオ」


 極限まで冷えたアクアの冷水は、さすがのイフリートの体温よりまさり、元々水が苦手なので、かなりのダメージを与えた。


 そんな、イフリートに初ダメージを与えた時だった。


 なんと、再びマグマから、大量のモンスターが飛び出してきたのだ。


 「何?」


 「ヤバいわね」


 そう、二人が小型のモンスターに目をやっていると、イフリートが、レッドに向かって、再び鉄拳をかました。


 「うわ」


 レッドは、その攻撃に気付き、イフリートに目をやったが、もう遅かった。イフリートの鉄拳、レッドに襲いかかった。


 「レッド」


 吹っ飛ばされたレッドを目で追うアクア。


 「間一髪」


 吹っ飛ばされ、地面に倒れたレッドの左手には、かなり分厚いが真っ黒焦げになっている盾があった。


 レッドは、イフリートの鉄拳が襲いかかる前に、赤い盾を出したのだ。


 「良かった」


 アクアが安心した時に、それを狙ったかのように、小型のモンスターたちが、アクアに押しかかった。


 「きゃ」


 思わずポセイドンで自分を守り、目をつぶった。


 「ガルウウ」


 その瞬間、あちらこちらでモンスターの泣き叫ぶ声が聞こえた。


 「誰?」


 目を開けたアクアの前には、一人の魔騎士の背中があった。


 「・・・」


 そして、悲鳴を上げ倒れたモンスターたちは、闇に帰って行った。


 「ぜ、ゼロ?」


 その人物がアクアの方を振り向くと、その人物が分かった。 


 その人物は、無口な魔騎士の、アクアに勝ったゼロだった。


 「・・・」


 ゼロは、アクアをじっと見ると、そのあとにレッドがいる方を見た。


 アクアもつられて見る。


 そこには、イフリートに再び襲われているレッドの姿だった。


 「レッド!」


 アクアはレッドを助けようとした。だが、アクアも女性だ。さっきの恐怖で、足が自分の意志では動かなかった。


 「・・・」


 それを見たゼロは、俊足でレッドに駆け寄り、愛刀の零式で、イフリートの左足を、食べ物を切るかのように切り裂いた。


 そして、イフリートの体から左足が離れると、イフリートは体制を崩した。


 「・・・」


 そのすきに、ゼロは身軽に軽やかに中に飛ぶと、イフリートに右肩に乗り、右肩を今度は切り離した。


 「グオオオオオ」


 あまりの痛みに、叫ぶイフリート。


 「あの刀、イフリートの体温を食らっても、変化しない」


 レッドが言った通り、零式は普通にモンスターを切っているかのように、何も変化していない。零式は、封印刀と呼ばれる刀で、モンスターの能力を低下させる事が出来るのだ。


 「・・・」


 そして、仕上げにと、イフリートの頭をはねた。


 ゼロは、倒れるイフリートからジャンプし、再びレッドの前に現れた。


 「お前、何者だ?」


 「・・・」


 レッドの質問に答えようとしないゼロ。


 そしてそのまま、ゼロは帰ってしまった。


 「なんで、助けに来てくれたんだろう?」


 普通、指令が来た者しか、大型のモンスターが現れる所には行かない。だが、ゼロは指令もなかったのに、二人のもとやってきたのだ。


 「俺が、弟に似てるらしい」


 ゼロが言っていたことを思い出したレッド。


 「でも、それだけで、そんな仲良くない魔騎士を助ける?」


 「さあな・・・俺には分からない」


 そして、二人は、ゼロに借りができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る