第3話

 「続いては、コスモバトル予選Aブロック第二回戦。カードは、黒き狩人と言う異名を持ったコードネーム フェンリル」


 「次はフェンリルか」


 そんな事を呟きながら通路を歩いている、自分が座っていたソファーに、魔騎士のコードネーム オラシオンが座っていた。


 オラシオンはすでに兜をかぶっていた。


 オラシオンが着用しているバルギットは、虎とライオンが混じった聖なる怪物、星獣 アルバトルの鱗や皮と、鉱物の聖なる宝石 ジェルミットを大幅に使った鎧だ。ジェルミットは、ある程度熱を浴びると、青と赤に変わることの有名な鉱物だ。


 それによって、星獣 アルバトルの色の白と言うより、光そのものの色と言った方がいい透明な色と、ジェルミットの黄色と、変化した色の青と赤が中心的になっている。


 背中には、青色の下聖なるマントが取り付けられていた。


 このマントは凶暴な海の主、星魚 シャーカ―の内側の青い皮で作られたマントで、蒼色だが光の力を保っており、着用者の戦闘能力を上げる。これは、鎧のバルギットの効果でもある。


 「よ、オラシオン」


 「お前か、レッド。アクセルに勝ったようだな。まあ、まぐれだろうが」


 「うるせえ。いい加減、俺の強さを認めろ。お前より、俺の方が成績いいだろ」


 オラシオンは、世界の中でもレッドと同じく優秀な魔騎士だ。どっちが強い皮分からないが、成績だとレッドの方が強い。


 「いずれ、どちらが強いかわかるさ」


 そうレッドにささやいたオラシオンは、闘技場に向かった。


 「そのフェンリルの相手は、光の騎士の異名を持つオラシオン!」


 「まあ、がんばれよ。オラシオン」


 「うるさい」


 オラシオンは歓声の中、対戦相手のフェンリルが待つ闘技場に足を踏み入れた。


 「控室に行くか」


 兜を外し、右で持ちながら、レッドだけが使っている控室に向かった。


 そんな、戦闘をおえて少し疲れているレッドの反対側から、ある一人の魔騎士が鎧を着て歩いてきた。


 「てめえは、ゼロ」


 レッドの前に現れたのは、コードネーム ゼロと呼ばれる二十歳の青年だった。


 「・・・」


 ゼロは、レッドの声に耳は傾けなかった。


 ゼロの鎧は、鎧と言うより普通の服だった。白いシャツの上に茶色のジャンバーで、下は革でつかられたジーパンを着ていた。頭には、白い帽子しかかぶっていなかった。


 鎧の中で一番早く動けるのは、普通の服だ。だが、その分、防御力は弱い。だが、ゼロは今まで一度も、モンスターからも魔騎士からも攻撃を受けたことがなかった。


 その絶対に当たらない自信から、モンスターの素材を一切使われていない、何所にでもあるような服を着ているのだ。


 「無視すんじゃねえ」


 自分の横を通り過ぎようとするゼロに、レッドは引き留めようと肩を触った。


 「・・・」


 肩を触られたゼロは、レッドのことを死んだ魚のような冷たい氷のような青い眼差しで、ギロっと睨んだ。 


 「な、なんだよ」


 その睨みに、少し恐怖感を感じたレッド。ゼロの瞳は、まさに死人のような目だった。冷たく何所を見ているのか分からない瞳だ。


 「俺に触るな!」


 眉間にしわを寄せて怒鳴ったゼロは、レッドの手を自分の肩から振り払うと、再び睨み、通路のソファーにゆっくりと座った。


 座り方には変わりはなかったが、何所か王様のようなオーラを醸し出すゼロ。だが、その瞳は相変わらず、冷たい瞳だった。


 「ち、読めない奴だ」


 あまりかかわりたくないと思ったレッドは、ゼロのもとを後にして、控室に入った。


 「はあ、何なんだよ」


 控室の青くペンキで塗られたベンチに座ったレッドは、横に兜を置くと、テーブルに置いてあるスポーツドリンクが入っているペットボトルを、握りしめるように掴むと、化粧したかのように真赤な唇に運んだ。


 「かあー、やっぱ戦闘の後のトロピカはうまいな」


 レッドが言ったトロピカとは、ペットボトルに入っていたスポーツジュースの事である。梨の実を使っていて、甘くて少し幌苦でうまいスポーツジュースだ。


 「入るわよ」


 レッドがいる控室のドアから、アニメ声の女性の声がした。


 「アクアか」


 レッドが控室に入っていいと許可する前に、アクアはドアを開けて、レッドの前に姿を現した。


 アクアは、モンスター討伐の時にレッドとタッグを組んでいる、言わばレッドの相棒だ。二人は、相棒以外の何物でもないが、かなり仲が良くて、恋人に間違われる。その時、いつもアクアはせつない顔をする。


 「アクセルに勝ったんですってね。おめでとう」


 兜は顔を出せる兜なので、兜越しでにっこりと笑顔を見せるアクア。


 アクアの服装は、兜はウサギのような耳と言う部分が特徴なヘルメット型で、鎧は女性用でスピードが出るように、できるだけ感情差を強化した鉄の厚さが薄い、カオッテックと呼ばれる白身魚の鱗と、水冷石と呼ばれる鉱石を使った、青と白のウォルターと呼ばれる鎧を着ていた。


 武器は、自分の身長よりもあって、矛先が鋭く尖っている槍、冷槍 オクタルトだった。オクタルトは、相手に当たると、素材のカオッテックの魔力によって、水しぶきが上がる仕組みになっている。


 「サンキュー」


 「あなたの願い。叶うといいね」


 再びレッドに向かって、万弁の笑みを向けるアクア。


 「そうだな」


 このコスモバトルの勝者には、一つだけ願い事がかなうことになっている。そのために、この大会に出場する者が多いい。レッドもその一人だった。


 「アクアの願いはなんだ?」


 「私は特にないかな?」


 「そっか」


 アクアは欲があまりない人間だ。バトルが好きでこの大会に出場したのだろう。レッドは長い付き合いなので、そのことを十分わかっていたので、別に不思議には思わなかった。


 「トントン」


 そんな事を話している二人の耳に、しまっているドアが外側から叩かれている音が聞こえた。


 「はーい」


 レッドは番地から立ちあがり、ペットボトルをテーブルに置くと、アクアを通り過ぎて、ドアノブに右手をかけ、クイっと回し扉を開けた。


 「あ、レッドさん」


 そこには、レッドの事を勝手に師匠だと思っている、魔騎士のコードネーム ブラストがいた。


 ブラストは、まだ試合前なのか鎧は外しており、私服だった。


 「ゲ!ブラスト」


 勝手にレッドを師匠と思いこんでいるブラストは、レッドに付きまとうことが多いので、あまりかかわりたくないレッドは、顔を露骨にいやな顔にした。


 「何ですか?その顔」


 「それより、何でお前がいるんだよ?」


 「あ、アクアさん知らないですか?」


 必死そうな顔で言うブラスト。よく見ると、息も荒いし、皮膚から汗が少し出ていたから、走ってきたのは間違いないだろう。


 「アクアなら・・・」


 右手の親指を後に向けて、レッドの後ろに立っているアクアを指さした。


 「あ、ここにいたんですね。スタッフさんが呼んでますよ」


 「ホント!レッドこれで失礼するわね」


 「ああ」


 そう言って二人は、レッドの控室を後にしてしまった。


 ドアを閉めたレッドは、再び控室の青いベンチに座った。


 「アクアには、願いがないのか。俺の願いは・・・」


 少し思い詰めた顔をするレッド。その瞳は何所か、遠くを見ているようだった。


 そして、自分の願いのことをもう一度よく考えていた。


 「俺の願いは、魔騎士を・・・やめること」


 座ったまま、レッドは右手の拳を握りしめ、強く囁いた。

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