第2話
街の外への外出許可を取るのはちょっとだけ面倒だ。何故かは分からないが、身分の証明書とちゃんとした理由が必要らしい。
今回の理由は買い出し。レミトは猟師だから、ちゃんとした武器や道具が必要だ。ちゃんとした道具はこの町には売ってないから、隣の町に行く必要がある。僕とソララは、ただの荷物持ちだ。
「違うわ、私は本を買いに行くの。」
荷物持ちは僕だけのようだった。ソララは矢筒を腰に提げ、空の大きなリュックを背負っている。本屋ならこの町にもあるけど、この街じゃあ見つからないものを買いに行くのかもしれない。
許可証を門番さんに渡して、町の門をくぐる。この辺にも、天使が通った跡がある。
「天使も門を通るんですね。」
「えぇ、時折ノックしてきますよ。どうも高く飛べない天使様もいるようなので。」
可愛いですよね、と門番さんは言う。天使によって、飛べる高さが違うようだ。
(この間の天使も、そんなに高くは飛んでなかったな。)
低く飛ぶ女の天使を男の天使が先導しているようだった。どういう原理で飛んでいるのだろうか、人は空を飛べない。
「ほら、行くぜ。」
「うん。」
隣町までは歩いて1時間ぐらいの距離がある。体力の無い僕にはとてつもなく遠く感じるが、置いて行かれるわけにはいかない。2人の後ろを頑張ってついていく。空を飛べれば、疲れないのだろうか。頭に疑問を浮かべながら、また見える天使の痕跡を追う。
(天使も隣町に行ったのかな。)
行き先が僕たちと一緒だ。同じく3人がふわりふわりと軌道を変えながら進んで行ったのが何となくわかる。やたらと低空飛行の天使達だ。
「どこ見てるの?」
「あ、いや。久々に見たなって。」
「雑草?町には生えないものね。」
雑草ではないのだが、ソララは勝手に納得していた。太陽の反射で、天使の跡は見えにくいのかもしれない。ばん、ばんとレミトの射撃が聞こえる。
「この辺の生き物は、威嚇射撃で逃げてくから助かるな。」
毎回レミトはそんなことを言う。とても弱いらしい。僕は戦うとか、そういうことをしないからよく分からないからふーんと返事をするだけだ。やっぱり、猟師というものは野生の生き物に強いものなんだろうと思う。
本が好きで弓を使うソララ、食べることが好きで銃を使うレミト、いつも杖を持たされて、襲われたらポカポカ殴るだけの僕。あまりバランスはよくない。危険なものが少ない世界なら、僕も役に立てたかもしれないのに。
「……ストップ。何かいるわ。」
ソララが僕たちを引き止める。ほら見て、と茂みの奥を指さした。何かが動いている、銃を向けるレミトが前に立った。
(…天使の跡だ。)
茂みの先に続く跡をじーっと見ると、うっすらと光が見えた。
「あれ、天使じゃない?」
「は?マジ?」
僕がそういうと、即座に銃を下ろす。まずい、という顔でこちらを見ている。僕を見られても。
光の輪が浮いたり沈んだりしていた。こんな通行人と野生の生き物ぐらいしか居ない場所になぜ天使が居るんだろう。気付かれれば殺されてしまうだろうか。
2人も、このまま遭遇したくは無さそうだ。前回と同じようにゆっくりと後ずさる。元の道に戻ってしまおう。
と、そこにいたのだろう天使がふわんと浮き上がる。あ、とまた僕と天使の目が合った。前に見た女の天使だ。
『__!わ!』
相変わらず謎の言葉を発している。返事もしたくないけど、あんまり刺激もしたくない。少し、声をかけてみることにした。
「こ、こんにちは?」
「_!こんにちワ!」
うんうんと嬉しそうにしている。もしかして、ただ挨拶がしたかったのかもしれない。警戒心でトゲトゲしていたソララとレミトも頭に疑問符を浮かべていそうだ。
「なぁ、おい。天使って人の言葉話せるのか?」
「知らないわ…。こっちの言葉は伝わるらしいけれど…。」
くるりと回りながらこっちを見る天使は、いい笑顔をしている。殺してきそうには見えない。
「…何をしてるの?」
「___!してル!」
茂みの奥を指さす。というか、同じ言葉を返してきているのがわかる。知ってる言葉と知らない言葉がごちゃ混ぜで、一体何をしているのかはここからではわからない。
「ほっといて行こうぜ。」
「でも、見てほしそうだよ。」
「あなたが声をかけたからでしょう?」
2人がとても困っている。天使と2人を、交互に見て、僕もどうしたらいいのか分からなくなった。
3人で固まっていると、天使がいつの間にか結晶のような剣を持っている。笑顔で茂みを斬り払い、剣で先が見えるようにと指し示した。
「__してル!」
先には、丸く削られた大きな石と、その前に添えられた小さな花が見えた。まるでお墓のように見える。
「___!!見テ!」
パッと持っていた剣が消え、天使は両手を合わせる。
「……黙祷してやれってか。」
レミトの言葉に、天使はうんうんと頷いた。
天使は任務を遂行するものである。 毛糸玉 @Itokedama_com
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