天使は任務を遂行するものである。

毛糸玉

第1話

また1人、人が死んだ。

この世界では、天使が人を殺す。

増えすぎた人々によって資源が無くなっていくのを防ぐ為に、天使が人の数を管理するらしい。そんなありきたりな理由を突きつけられながら、僕達は生きている。


「ねぇ、納得出来ないよ。どうして、そんなふうな世界になっちゃったのかな。」


いつ殺されるかわからない、毎日のように天使に怯えている、そんな生活に僕は気が滅入ってしまった。だから、最近は誘われなければ外にも出ず、遊び回ることも無い。


「私達に言われても。殺されないように祈るだけだわ。」

「この間は、50歳ぐらいの爺さんだったな。殺すのは1日1万5000人、子供を拐うって噂もある。」


滅入った僕と、レミトとソララ。数少ない暇を潰せるお店でこんな話を続けていた。他の人に聞かれたらまずいような気がするけど、どうせ皆も似たようなことを思っている。思っているから誰も止めないんだ。天使に目をつけられるとまずい、これがこの町の共通認識だから。


「あーでも、人を殺さない天使もいるらしいぜ。」


レミトが思い出したように言う。

天使の特長としては、高身長と頭に浮かぶ光の輪っかが挙げられる。人と同じ見た目ではあるが、女性?でも190cm、大きい人は230cmを超える。人の平均身長なんて170cmぐらいなのに。そもそも彼らに性別があるのかさえ僕はよく知らない。


「そうなの?じゃあ、その天使は何をするのさ。」

「なんつーか、天使ってのはそれぞれが使命を持ってるんだってよ。買い出しの天使も居るんじゃねぇの?」


便利だなーと、いつものオレンジのフレーバーティーを飲んでいる。まるでモノ扱いだが、きっとレミトが買い出しに行きたくないだけなんだと思う。


「天使って存在を、誰が、そもそもいつ作ったのかしら。」


ソララはいつもそんなことを考えている。自分達はなぜ生まれたのか、何故生きるのか、みたいな。今日も始まったんだ、彼女の思考タイムが。


「人間が増えすぎて困るのって、誰?やっぱり人間じゃないかしら。」

「あー…資源が無くなるーって騒いでるのも人間だしな。」


うんうん、とお空を眺めながらレミトは頷いている。これもいつもの光景、とりあえず肯定をするのがレミトのスタイルだ。


「それじゃあ、人間が人間を殺してる事になるよ。悪い事だよ。」

「天使が人を殺しても、それは悪いことだわ。」


難しい事を言う。

結局、天使がどういうものなのか、何故人々を殺すのかはわからない。きっと、このまま暇が潰れていく。


「なぁ、今度隣町行こうぜ。ちょっと欲しいガジェットがあるんだ。」

「え、いいけど。」


どうせ珍しい銃とスクロールがあったんだろう、また外出の申請をしなければいけない。

天使が居なくても、町と町の間には野生の生き物がいる。そいつらを倒す為にも、僕達には戦う術が必要なのだ。


「じゃあ、また今度な。昼飯でも詰めていこう。」

「そうね、飲み物とか持っていくわ。」

「…じゃあ、僕は地図かな。」


飲み終わったコップを返却口に起き、それぞれ

三方向に帰っていく。きっと、すぐに会えるだろう。


帰り道はやけに静かだ。そう言えば、道に天使の名残がある。天使が歩くと、その跡がキラキラ輝くのだ。きっと皆怯えて隠れているんだろう。


『___?』

『__!___!』

(本当にいる。)


頭の上に光の輪がある、身長がものすごく大きい、彼らはきっと天使だ。3人同時に見るのはとても珍しい。どうしてこんな所に居るのだろう。ふわっと浮いて回る女の天使を、大きい男の天使が眺めている。


「__!」

「あ。」


見ているのがバレてしまった。3人が同時に僕を見ている。さっさと隠れておけば良かったと今更後悔し、ゆっくりゆっくりと後ずさった。


「____、_。」

何かを話している。が、僕にはそれがわからない。天使の言葉は人には言語に聞こえない。もしかしたら、殺す相談をしているのかもしれない。彼らの表情から何を考えているのかを頑張って汲み取ろうとする。


「____わ!」

「…わ…?」


何も分からないし、なんだか話しかけられているような気がした。わ!わ!と女の天使が声を張っている。僕は首をひねった。


「___。」

「_。__あねー。」

2人の大きい天使がふわりと浮いた。それに釣られるように、女の天使がくるりと回る。

ヒラヒラと手を振られて、彼らはどこかへ飛び去っていった。


「……びっくりした。」


冷えたキモ、というか胃を擦りながら、天使の痕跡を眺めて帰り道を進んで行った。


一体なんだったんだろう、どうして、僕に手を振ったんだろう。天使って、一体なんなんだろうか、僕にはまだ分からない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る