第十八話『お揃いの心』

6.

 次の日、イノリとショッピングモールにやってきた。

「どうだ、大丈夫そうか?」

「えぇ、死にそうな人は二人しかいません。私達だけです」

 それはよかったと笑う。

「何から見ていきましょうか?」

「服もそうだがもう少し飾り気が欲しい、アクセサリーを見に行こう」

 確かにそうですねと笑うイノリは今日もサマーワンピースを着ている。

 これにアクセサリーを足せば更に輝くのは火を見るよりも明らかだ。

 そして、火を見るよりも明らかだと言う事が一種の自虐だと言うことに気が付き一人で笑う。

「何笑ってるんですか?面白いことでもありました?」

「イノリの事考えてたんだよ、どんなアクセサリーがいいかって」

 いっそのことピアス開けちゃいます?とイノリが笑う。

「ピアスか、良いんじゃないか?でも穴開いてないよな」

「カガリさんが一発で開けてくれるんでしょう?」

 俺の耳を、そしてピアスを触りながら言う。

「まぁ良いが、思ってる開け方とは違う開け方をしたぞ俺は」

「ピアッサーじゃないんですか?」

 実際に見た方が早いとイノリの手を引きアクセサリー屋に向かう。


 アクセサリー屋に入りピアスコーナーの近くにある物を手に取りイノリに見せる。

「……針、ですか?」

「あぁ、針だ。これを使って耳に穴を開けてピアスを通すんだよ」

 痛くないですか?とイノリが少し小声で言う。

 電車に飛び込んだ奴が今更この程度の針で何を怖がっているんだと少し笑いながら説明を足す。

「こいつはピアッサーよりは痛くない。それに好きなピアスをファーストピアスにできるしホールの安定もこっちの方が早いらしい」

「それだったら……カガリさんを信じます」

 じゃあ決まりだな、とニードルを二本買う。

 次にその穴を埋めるためのピアスを探す。

「どんなピアスが良いかとかあるか?」

「うーん、カガリさんの付けてるピアスって当然ですけどあんまり女の子向けじゃないですよね」

 そう言いながら俺の耳を揺らす。

 確かにフープピアスはどちらかと言えばメンズ向けな感じはある。

「ファーストピアスだったら耳に負担のかかり辛いワンポイントのピアスが良いと思うが」

「石が一個だけ付いてるみたいなやつですか?」

 そんな感じだな、と返し近くに別のアクセサリー屋が無いか歩いて探してみる。

「例えばこんなのどうだ?」

 イノリの手に一つのピアスを載せる。

「あっ、キレイ……これにします」

「そんなにすぐ決めるもんじゃないだろう、もう少し見て回ろう。時間はあるんだから」

 今日の時間は、あるんだから。

「でも私はこれが良いって思ったんです。だからこれにします」

「あぁわかった、じゃあちょっと待ってろ」

 イノリを待たせレジに向かう。

 レジでラッピングをしてもらいイノリのもとに戻る。

「ほら、プレゼントだ」

「ロマンチストなカガリさんだ。嬉しいなぁ」

 無邪気に喜ぶイノリ。

「帰ったら開けてやるからそれまでニードルと一緒に大事に持っとけよ」

「失くしませんよ、大切な贈り物なんですから」

 イノリはそう言うと俺の腕を掴む。

「大好きな人から貰った、初めての贈り物なんですから」

「それはよかった」






7.

 フードコートで昼飯を食べた後に服を見に行く。

 しかしイノリに似合う服がいまいちわからない。と言うよりもやはりこの服が似合いすぎている。

 そもそも素材が良いのだ、だから何を着せても困る。

 ……そう言えばアレがあったか、その時まで生きてるかはわからんが。

 結果、一つの店にたどり着いた。

「浴衣ですか?」

「あぁ、今週末は祭りがあるからな。これもデートらしいだろう?」

 イノリは目を輝かせながら浴衣を食い入るように見つめる。

「どれがいいかなぁ……」

 一緒に店内を見て回る。色々な浴衣を見比べるイノリはまるで無邪気な子供のようだった。

「例えばこれとかどうだ?」

 白を基調とし朝顔が咲いている浴衣をイノリに差し出す。

「かわいいですね、ちょっと鏡で見てきます」

 そう言い少し早足で鏡の前で自分の身体と浴衣を重ねるイノリ。

 まだ着てないと言うのに、とても似合う気がしてならない。

「これにします、カガリさんが選んでくれたので」

「いや、他にもちゃんと見ないのか?」

 好きな人が決めてくれるのが良いんですとピアスを買った時と似たような事を話して笑いながらレジに向かうイノリ。

 数分後笑顔で戻ってくるとイノリは俺の手を引き近くの店舗に向かう。

「私が浴衣着るんですから、カガリさんも何か着てくださいよ」

「じゃあイノリに選んでもらうことにしよう」

 はい、と元気よく答えるとイノリはまた食い入るように浴衣を見る。

 十分かもうちょっと経ったかしたあたりでイノリは一着の浴衣を差し出す。

「私のが白なのでカガリさんは黒めで、でも完全な黒だと少しもったいないので深めの紺色を選びました」

 謎に力の入ったプレゼンをするイノリから浴衣を受け取ると鏡に向かう。

「やっぱり、似合いますね」

「あぁ。これにするよ」

 そのままレジに持っていき会計を済ませイノリの所に戻る。

「今日は良い買い物出来ましたね」

「そうだな、帰ったらピアス開けるのも楽しみだ」

 痛くないようにしてくださいねと笑うイノリが愛おしい。

「それじゃそろそろ帰るか」

 そして、晩御飯何にしましょうねだとか祭り楽しみですねだとか。そう言った他愛のない話をしながら家に帰る。






8.

「イノリ、準備はいいか?」

「えっと、はい。少し怖いですけど大丈夫です」

 イノリは耳がちゃんと出るように髪を結びなぜか正座で待っている。

「痛かったりしたらちゃんと言えよ。失敗したら大変だからな」

「右手を上げればいいですか?」

 まぁ分かる方法ならどれでもいいさ、と笑いながらイノリの耳を見る。そしてニードルを一気に耳たぶに突き刺す。

 刺した瞬間少しだけイノリがびっくりするもすぐに平然とした顔に戻る。

「えっと、これだけですか?」

「あぁ。大した痛みじゃないだろ?」

 そうですね、もっと痛いのかと思ってましたとイノリは笑う。

「ここからピアスを通す」

 ニードルにピアスを合わせ、そのままイノリの耳に入れる。

「痛くないか?」

「大丈夫です、特に違和感も無いですし。カガリさん上手ですね」

 アドレナリンが出てるのかもなと笑いながら左耳も同じ要領でピアスホールを開ける。

 十分も経たないうちにイノリの耳にはピアスがまるで元から付けていたかのように自然に馴染む。

「似合ってます?」

 鏡を見ながらイノリは呟く。

「似合ってるぞ」

 よかったと微笑むイノリの頭を撫でる。

「どうして唐突に撫でるんですか?」

「頑張ったご褒美だ」

 それなら存分に甘えますと笑いながら頭を撫でられ続けるイノリ。

「さて、俺もピアス変えるか」

「カガリさんピアス他にもあるんですか?」

 あぁ、さっき買ってきたと笑いながら袋からピアスを取り出す。

「……ロマンチストなカガリさんだ」

「こう言うお揃いもいいだろう?」

 ピアスを外し、新しいピアスに付け替える。イノリと同じピアスに。

「似合ってます、えへへ。お揃いですね」

 そう言って無邪気に抱きつくイノリの頭をまた撫でようとすると先に頭を撫でられる。

「サプライズしてくれたご褒美です」

「それは何よりだ」

 こうして、二人揃って同じピアスを付けるだなんて今まで生きてきた中では無縁の物だと思ってたが。

 実際にやってみて、改めてイノリと言う存在が俺の中でどれだけ大きい存在かわかる。

 まだ一ヶ月くらいしか経ってないと言うのに。こんなにも夢中になれるなんて思っても居なかった。

 その対価として大量の寿命を消費してしまった事を今はもう後悔も何もしていない。

 それだけこの幸せな空間が生きている間続くと保証されているから、怖くない。

 あぁ、俺は幸せだ。イノリも幸せなのだろうか。幸せじゃないとしたら幸せにさせる、幸せだったらもっと幸せにしてやる。

 そんな事を一人で思いながら、時間は過ぎ去っていった。

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