第十七話『共に歩む』

4.

 イノリが買い物に行ってから数十分。外では勢い良く夕立が降っていた。

「……濡れてないと良いんだけどな」

 そう行った矢先にイノリが帰ってくる。

「カガリさん、イノリちゃんが帰ってきましたよ」

「おかえり……って案の定ずぶ濡れじゃないか。とりあえず風呂に入れ」

 めんどくさいですと言いながらも渋々シャワーを浴びるイノリ。

 シャワーから上がるとベッドにそのまま横になる。

「だから髪をちゃんと乾かしてから横になれって言ってるだろ」

「今日は……疲れたので許してください」

 まぁあれだけの夕立に見舞われたならしょうがないかと横に座り頭を撫でる。

「ありがとうございます、カガリさん」

「俺は俺がしたいことをしてるだけだ」

 私も私がされたいことをされてますと言いながらうとうとするイノリ。

 夕立から逃れるために走って帰ってきたんだろう、このまま寝かせてあげよう。


 その翌日。

「……三十八度」

 体温計は何度測ってもその数字を吐き出す。

「はぁ、ただでさえ少ない寿命なのに風邪なんて引くんじゃねぇよバカ」

「カガリさんに看病してもらえるならそれはそれでありです」

 良くない、とイノリを寝かしながらお粥を作る。

「私猫舌なんです、ふーふーってしてください」

「流石にそれは嫌だ、自分でやれ」

 ケチ、いじわる、意気地なし、と色々な柔らかい罵詈雑言を浴びせられる。

「それ食べ終わったら薬飲んでちゃんと横になるんだぞ」

「はぁい」

 引き出しから風邪薬を取り出してテーブルに置いておく。

 ゆっくりとお粥を冷ましながら食べるイノリを見ながら考える。

 これで寿命が縮むことがあるのだろうか、と少し冷や汗が出る。

「カガリさん。多分寿命の事考えてますよね?経験則ですけどこう言った風邪とかは別に影響しませんよ。私は昨日と変わらない色をしてますから」

「そりゃ良かった」

 俺とイノリとどちらが先に寿命が果てるのかはわからないけど。

 あまり変わらないと言うのなら悲しみはあまり無いのだろう。

 それはつまり、すぐに会いに行けると言うことだから。






5.

 そのまた翌日にはイノリの風邪も落ち着きのんびりと部屋着でだらけてるイノリが居た。

「カガリさんとまたデートしたいなぁ」

「どこか行くか?ショッピングモールとか」

 うーんと考えるイノリ。

「流石に立て続けにあんな大量に死者が出るような場面に出くわすのは悪運にも程があるだろう」

「そうですけど、うーん。両想いになった人の首とか絞めちゃっていいのかなって」

 そこはなんならもっと遠慮なく絞めてくれて構わないぞと笑う。

「もしかしたらカガリさんの方が被虐体質なんじゃ……?」

「それだけはない」

 そうだったら私の見る目がないってことになりますもんねとイノリが笑い、釣られて俺も笑う。

「ちゃんとした恋人になってからは確かに何も出来てませんもんね。カガリさんヘタレだし」

「イノリのことを考えてるんだよ、ちゃんとしてるからこそ」

 そうですね、と優しく微笑むイノリ。

 それでどこに行きます?と聞くので、近場のショッピングモールでもいいんじゃないか?と答える。

「って言ってもデートって何すればいいんでしょうね?」

「あぁ、それは俺もわからん。ただ……二人が楽しければそれでいいんじゃないか?」

 そうですね、することよりも結果が大切ですよねとイノリが頷く。

「カガリさんに服選んでもらいたいなぁ」

「俺にか?これはまた難しいな」

 センスがあるとか無いとかじゃなく、あのイノリのサマーワンピースが似合いすぎてそれがハードルになっているのが大きいんだろう。

「カガリさんが選んでくれる事に意味があるんですよ?」

「なんでもお見通しか、これは何年経っても勝てそうにないな」

 そう、彼女と何年一緒に居ようと、あと少ししか一緒に居れなくても。

 それでいい。イノリを大切にしたいと思う気持ちはいつになろうがどのタイミングだろうがもう変わらないのだから。

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