第十三話『花の雫』

9.

「――ッ!」

「ダメです!」

 起き上がろうとした所にイノリが待ったをかける。

 俺の顔にはハンカチが乗せられている。イノリの物だろう。

「……倒れだんですから、もう少しおとなしくしてください」

「わかったよ」

 状況を整理する。

 地震が起きた、少し強い地震だ。

 まず――ジェットコースターで事故が起きた。

 そして多数の死者が出てしまった所を、蘇生してしまった訳だ。

「……このハンカチは?」

「カガリさんの顔を見られないようにです。どうせ誰がしたのか探されるんですから極力負担にならないようにって」

 ありがとな、とイノリにお礼を言う。

「俺はどれくらい……倒れてたんだ?」

「一時間くらいですかね。そろそろ膝が痛くなってきた頃です」

 そう言われて今膝枕されてることに気が付く。


「ねぇ、カガリさん」

 少し弱々しい声でイノリは呟く。

「さっきのでどれだけ寿命を消費したか……わかってるんですか?」

「寿命を……消費した?」

 何を言ってるかわからない、しかしイノリの声からは事実だと言う事が伝わってくる。

「私、人の寿命が見えるんです。炎みたいな感じで。カガリさんが倒れた瞬間、一気に火が小さくなっていったのがわかって」

 ぽつり、ぽつりとハンカチに雨が降る。

「カガリさん……止められなくてごめんなさい」

「イノリが謝る必要は無いだろう、首も脚もみぞおちも、体感はしたがそれをも超える量だったのは仕方がない」

 それでも雨は止まらない。

「私が今日来ようだなんて言わなかったら……オシャレとか考えず昨日にしておけばこんなことにならなかったのに」

 イノリが泣き続ける。

「ねぇ、カガリさん。もう私は殺してもらえる資格なんて――」

 気がついた頃には思わずイノリを抱きしめていた。

「……ずるいですよ、まだ私から伝えてないのに」

 そう言いながら抱き返すイノリ。

「もうすぐ終わる寿命だったのに、それを分けてくれたのがカガリさんだったんです。それが最初は嫌だったんです、同時に……好意も抱いちゃったんです。好きになっちゃった人の寿命を減らしたくないって。でも、好意が日に日に増していって、今日は本当に恋人になった気分でデートがしたかったんです」

 泣きじゃくるイノリの頭を撫でる。

「あぁ、俺もデートみたいだなってずっと思ってた。なんでこんなかわいい子を殺さなきゃいけないんだろうって思ってたし、イノリが勝手に住み着いて段々と好きになってしまったんだよ」

 一息ついて、ようやく泣き終わったイノリは俺の事を見て尋ねる。

「私が死者蘇生してた時の話、聞いてくれますか?」

「……あぁ、聞こうか」

 頷くとイノリは静かに語りだした。

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