第十一話『団子より花』
5.
お昼を食べ終えるとまた遊園地を回りだす。
「ジェットコースター乗りましょうよカガリさん」
「さっき大量に食ったのにすぐジェットコースターなんて乗ったら酔った時大変だぞ」
あ、それもそうかと笑いながらあたりを見渡すイノリ。
「んー?ジャグリングみたいなのやってますねあそこ」
「行ってみるか」
はい、とイノリが微笑みながら歩き出す。
ジャグリングショーにはまぁまぁな数の人が居た。
そこから十分くらい経つと演者はお辞儀をし、終わりを告げる。
「投げ銭、一度してみたかったんですよね」
「俺もだ、一緒に入れに行くか」
ショーを見ていた人達が小銭を投げ入れてる中、箱に近づいて二人で一万円札を同時に入れる。
演者もびっくりしながらお礼を言う。
「考えてること、入れる額が一緒だったことは驚きだな」
「えぇ、私もカガリさんがお財布から出してる所を見てびっくりしちゃいました」
二人で入れた額は明らかに今日の収益の半分以上は占めるだろう。
どうせよくわからない能力で手に入れた金だ、こう言う使い方が一番合ってると思う。
またイノリと顔を合わせ笑う。もはや今日何度目かわからないくらいに。
演者が去った後また椅子に戻りパンフレットを見る。
「この近くにアクアリウムもあるのか」
「アクアリウム好きなんですか?」
好きか嫌いかで言われたら好きだなと返す。
「カガリさんって現実主義者かと思ってたら意外とロマンチストな所ありますよね。あ、褒めてます」
「現実主義者だったら今頃もっと金持ちになってるさ」
それもそうですねと言いながら席を立つイノリ。行きましょうかと声をかけられる。
行くかと俺も立ち上がり二人でアクアリウムの小屋に入る。
アクアリウムの小屋の中は薄暗く、水槽を照らす照明が唯一の明かりになっていた。
「キレイですね」
そう呟くイノリにそうだなと返す。
「そこはイノリの方がキレイだ、って返すべきですよ」
イノリはそう笑いながら歩みを進める。
このアクアリウムの中で一番の目玉の水槽の前で俺はイノリにだけ聞こえるように呟く。
「あぁ、イノリの方が何倍もキレイだよ」
イノリは小さく照れくさそうにはい、とだけ答える。
その後、アクアリウムを出るまで二人の無言は続き、水槽の稼働音と他の客の声だけが響いていた。
「……あの、カガリさん」
「なんだ?」
さっきのことなんですけど、と少し声を小さくして喋る。
「あぁ、冗談じゃないぞ。あんな所でからかうなんてのは酷い人間だろう?」
「……そうですね。えへへ、私キレイなんだ」
ちょっと違うな、訂正させてくれとイノリに言うとイノリは首を傾げる。
「キレイと言うよりはかわいいの方が正しい」
「……それ以上言わないでください、あの。心臓に悪いです」
じゃあもっと心臓に悪いところに行こう、とイノリの手を取る。
イノリは歩きながら手を握り返す。これじゃ本当にカップルみたいじゃないか。
――それでもいいな、と思った俺が居た。
6.
ジェットコースター乗り場を真下から見る。かなりのスピードが出てそうだな。
「さて、俺の絶叫が聞いてみたいんだったな。期待に添えるよう頑張るよ」
「思う存分叫んでいいですからね」
受付を済ませ荷物を起き、ジェットコースターに乗り込む。
全員の安全装置をちゃんとロックしたのを確認すると数秒後ブザーが鳴る。
ゆっくりと坂を登っていくジェットコースター。少しカタカタと揺れているのが恐怖を煽る。
そして一番高い所に差し掛かって、コンマ数秒。
――一気に叩き落とすようなスピードでジェットコースターが走る。
乗客の絶叫を聞きながら景色を眺める。
沢山の悲惨な場面を見てきたからか、お互いに叫ぶことも無くジェットコースターは更に走る。
そんな中、走ってる最中一瞬だけ違和感を覚えた。コーナーに差し掛かった時にふと違和感を感じたのだ。
もしかしたらただ単に気の所為だったかも知れない。純粋に今まで縦方向の回転が続いてたから横に回転しだした違和感だろう。
気がついた頃にはジェットコースターは止まっていた。イノリに頬を突かれる。
「カガリさん?もしかして気を失いました?」
「いや、久々すぎてこんなものだったかとびっくりしてただけだ」
ほら降りますよとイノリに手を引かれようやく身体が動き出す。
「絶叫してくれると思ったら逆に固まっちゃうなんて。カガリさんって本当に面白い人ですね」
荷物を持ちながらイノリが笑う。
「イノリも終始無言だったな。つまんなかったか?」
「いえ、驚くのには慣れてますから。きっとカガリさんもそうだったんでしょう?」
まぁそんなとこだなと笑いながらジェットコースターから降りる。
次はどうするか、そう考えてるとイノリがくるりとこちらを見る。
「カガリさん疲れてきてません?正直に言うと私は結構疲れてきてます、帰宅部なので」
「あぁ体力がない帰宅部な設定だったなお前は。俺も正直最近動いてないせいもあって疲れてきた所だ」
じゃあそろそろ観覧車乗っちゃいましょうかとイノリが言うので頷いて観覧車の方まで歩く。
ゆっくり、ゆっくりと回っていく観覧車を二人で見上げながら近づいていき受付を済ませて乗り込む。
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