第六話『二人の共通点』

6.

 答え合わせといこう。

 家に帰るとまずイノリを廊下で待たせ半ズボンに着替える。案の定擦り傷と痣が出来ていたので消毒液を塗りガーゼを貼る。

「あの、本当に殺してくれるんですよね……?」

 脚の怪我を見ながら恐る恐る尋ねてくるイノリ。

「別に脚を蹴られたとか、首を絞められたとかで怒っては居ないさ。ただ、必要だと感じただけだ」

「そうですか、嫌われたのかと思って……」

 嫌う?なぜだ?と素で呟いてしまう。

「えっと、だってもしかしたら貴方にとっては大切な事である死者蘇生を無理やり妨害したんですよ?」

「別に俺にとってあれは特別でもなんでも無い、そこにあるからしてるだけだ」

 そうですか、そっか。と言葉を重ねていき少しずつ笑顔になるイノリ。

「それなら、お言葉に甘えて殺されますね」

「あぁ、止めてくれって言ってももう遅いからな」

 イノリをベッドに放り投げ、上から覆いかぶさる。

「やっぱり殺す前にするんですか?……それなら一回シャワー浴びたいです」

「黙ってろ、ただただ殺されるんだよお前は」

 イノリのキレイで艷やかな首に手をかける。

「あぁ、結構苦しそうな奴ですね。ひどいひとだ」

「頼んだのはお前だからな――」

 力を思いっきり込める。

 苦しさのあまりイノリの身体が跳ねる。

 それを更に力強く抑え込み、少しずつ少しずつそのキレイな首に痕を作っていく。

 イノリのかわいらしい顔は段々と血色を失いつつある。

 ――そこで手を離す。


 ゲホッゲホッ、とイノリは咽る。そして、俺のことを睨みつける。

 喉を締められた影響かはわからないが声がでないらしい。

 机からノートとペンを取り出しイノリに差し出す。

『どうしてやめるんですか』

「お前から聞きたいことがあるからだ」

 イノリは戸惑いながら筆を走らせる。

『何が聞きたいんですか?』

「お前が何者か、それが聞きたい」

 私は私ですよとノートに書かれた所でペンを取り上げ、ベッドに次は優しく横たわらせる。

「お茶持ってくるからそれ飲んでゆっくりしてろ」

 イノリにお茶を差し出すと少しずつ少しずつ飲む。

 お茶を飲み終わる頃には喉も回復してきたようだ。

「酷いです」

「あぁ、酷いだろう。昔読んだ小説でのやり方だ」

 イノリはゆっくりと少しずつ話す。

「それに、私はただの死にたい女子高生なだけです。何者かだなんて言われても――」

「――アメイジング・グレイス」

 イノリの表情が固まる。

 やはり、知っているんだこいつは。

「どこまで知ってるんだ?」

「……さぁ?何のことでしょう」

 こいつは死者蘇生についてなにか知っているはずだ。

 それだけじゃない。こいつは。

「お前は――お前も、死者蘇生をしていたのか?」

 イノリは少しだけ黙ると笑いながら歌い出した。






7.

「――アメイジング・グレイス、ハウ・スウィート・ザ・サウンド」

『――驚くべき神の恵み、なんと優しい響きなのか』


 それに被せるように歌う。


「ザッド・セイブド・ア・レック・ライクミー――」

『私のように悲惨な者を救って下さった――』


 そこで、重なる歌声は止まる。

「えぇ、そうです。私もですよ。もう力は失ってしまいましたが」

「だからあの瞬間を理解してもう一度死にたい、なんて言い出したんだな」

 はい、と笑顔で頷くイノリ。

「私は何人を救ってきたかは覚えてません、もう少し都会の方だったのでそれだけ死者も多かったんです」

 そう笑顔なのに寂しそうに話すイノリ。

「……能力が失くなった時は救われたと思いましたし、それと同時に虚しさだけが残ったんです」

「それを俺にして欲しくない、とでも言うのか?」

 極論だとそうです、とイノリがまた頷く。

「まだ、話すことは沢山あると思いますけど……出来ればやめて欲しいんです」

「それは前任者としてのアドバイスか?それとも自分の考えか?」

 少し考えて両方ですと答えるイノリ。

「……出来るだけ痛くなく、苦しくない方法で止めてくれ」

「わかりました、善処します」

 あ、でも。とイノリは身を乗り出す。

「殺してもらうのはちゃんと待ってますから」

「……あぁ、覚えてたらな」

 殺してくれだなんて忘れようにも忘れることは出来ないが。

 俺がイノリを殺すことだけはない、死なす事もしない。少なくともイノリの知っていること全てを知るまでは。

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