第二話『女子高生』
5.
どんな人生を送っていたら女子高生から殺してくださいなんて言葉を吐かれるんだろう。
そう思いながら、死者蘇生出来る人間が何を今更命に対してと思う所もある。
命に対する冒涜か……、確かにそう言う捉え方も出来るのかも知れない。
そう思いながら無視してコンビニまで歩いていく。
後ろには例の女子高生がついてきているがまぁどうでもいいだろう。
コンビニに着くとパーラメントのメンソールを二箱買う。ヘビースモーカーではないので二箱もあれば次の入荷まで間に合うだろう。
まだ外は暑い。帰り道用にアイスコーヒーを買って、外の喫煙所でタバコに火を点ける。
隣にはアイスを食べる女子高生が居る。
「いつまで付いて来るつもりだ?」
「殺してもらえるまでですよ」
はぁ、困ったもんだ。
「あのなぁ……人を蘇らせるってのは一般論で言えばありえない話であって奇跡だ、それにそれが出来るなんてわかったら聖人扱いだ。逆に人を殺すなんて一般論じゃなくても悪であり犯罪だ、警察に捕まるとか以前の問題の悪人、それは何があろうとも変わりはしない」
「そんなのどちらも命に対する冒涜です、表面上はそうでも内面は同じようなもんですよ。どうせまた死ぬんですから、苦痛を二度味わわせてるんですよ、間接的に」
そんな事言われても、俺に人を殺せるわけがない。
華奢な身体、艷やかなロングでストレートな黒髪。身長は俺と頭一個半くらい違うこの女子高生を殺そうと思えば殺せないことはない、原理としては。
ただ、それが実際に可能だろうと実現させるわけにはいかない。
「仮にもう一度死ぬとするなら俺と関係ない所でしてくれ」
「嫌です」
なぜこんなに俺にこだわるのか、固執するのか、理解に苦しむ。
二本目のタバコに火を点けながら話を続ける。
「そもそも知らない人間が知らない人間に殺してくれだなんて、おかしい話だろう」
「イノリです」
ん?と顔を向ける。
「だから、イノリです。私の名前です。知らないのが嫌だと言うなら自己紹介からしましょう、貴方の名前は?」
渋々答えるしか無かった。
「俺は……カガリだ」
カガリさん、とイノリは俺の顔を見ながら話す。
「私は見ての通り女子高生で学年は二年、帰宅部で体力も筋力も無いので殺し甲斐は無いと思いますけど。逆に言えば簡単に殺せますよ」
「……そうか」
聞き終えた所でタバコの火を消しそのまま立ち去る。
「ちょっと!どこ行くんですか」
「家に帰って寝るんだよ、悪夢をみた気分だからな」
振り返らずに、何事もないめんどくさいやつに絡まれたなくらいの。
後ろから声がするも何も聞かなかったことにして、事故なんて起きてなかった踏切を渡り家に着く。
色々と疲れたのでとりあえず寝てしまおう。
6.
翌日、小腹が空いたのでパンでも買いに行こうと思ったのが悪かったのか。近所のコンビニでイノリと出くわしてしまった。
「あ、殺してくれる気になったんですか?」
「そんな訳無いだろ、腹が減ったからパン買いに来ただけだ」
それだけ言葉を交わし、コンビニでパンを二つとアイスを買って店を出る。
はぁ、めんどくさい。しばらくはなるべく外に出ないようにしよう。
めんどくさくてパンを買いに来ただけで食材はまだ残っているから諦める頃までは保つだろう。
しかしそんな事で解決する話ではなかった。
翌日、昨夜夜ふかしをした代償として昼まで寝てた時だった。
呼び鈴が鳴る。こんな時間に呼び鈴を鳴らすなんて大体宗教勧誘かそれに準じためんどくさいやつだ、無視するに限る。
また、呼び鈴が鳴った。しつこいタイプの勧誘か或いは宅配か。
宅配なんて記憶にないがもしかしたら何か送られてきてるかも知れない、その時はまた不在票から再配達を頼むから今は寝かせてくれ。
三回目の呼び鈴で流石に頭にきたが流石にこれ以上無視しておけばもう帰るだろう。前に来たしぶとい宗教勧誘も三回目の呼び鈴で諦めて郵便受けにいらない紙くずを入れていったもんだ。
四回目、流石に笑えなくなってしまった。怒り半分と諦め半分で玄関を開けた。
そこには今一番会いたくない人間が経っていた。
「おはようございます」
「……殺人依頼の次はストーカーか」
目の前にセーラー服姿のイノリが居た。
「殺してくれないので会いに来ました」
「会いに来られても殺すわけないだろ、帰れ」
帰れ、と言った瞬間イノリの顔が陰る。
「……帰る場所はもう無いです」
何やら地雷でも踏み抜いてしまったかと焦ってしまう。そして俺はあろうことかイノリを家に入れてしまった。
おじゃましますと呟くとイノリが部屋に入ってくる。
「意外と整理されてる部屋なんですね。タバコ臭いですけど」
褒められてるのか何なのかわからないがまぁいいかととりあえず麦茶を差し出す。
「で、帰る場所が無いってどう言う事だ?」
「自殺しようとしたら蘇生されちゃった家出少女ですよ。簡単に家に帰れるわけないじゃないですか」
確かに……あんな自殺をするようなら置き手紙やら何やら用意しててもおかしくないだろうし簡単に帰れるわけはないか。
としたら。
「昨日や一昨日はどうしてたんだ?」
「ビジネスホテルに泊まってました。そしてチェックアウトしてからここらへんをずっと転々として、居ないか探してました」
その行動力だけは評価に値するが。
「お金は出しますから、殺してくれるまでここに泊まらせてください」
はぁ。
「それ飲んだら即座に出ていけ」
嫌ですとイノリは断固として拒否する。お金を出すくらいならビジネスホテルに泊まってくれ。
「そもそもお前な、殺されたいからって男の家に乗り込む危険わかってるのか?」
「えぇ、それくらいはわかってますよ。どうです?私かわいいでしょう?素敵な夜になりますよ」
はぁ、ともう一度溜息をつく。
確かにイノリは容姿は整っててかわいい訳だが……。
「あいにくそう言った趣味は持ち合わせてない」
「それは残念です」
そう言いながらイノリは麦茶を一気に飲む。まるで生ビールをジョッキで流し込むように。
「帰る気になったか」
「いいえ、おかわりを」
コップを差し出される。しょうがないので麦茶を注ぎ直しイノリに差し出す。
「カガリさんって実はそう言う優しい所もありますよね」
優しいだなんて、人生で何回言われたことか。指折り数える程度しかない。
常に自分の事だけしか考えず、今となれば生きる意味さえ朧気になった人間に他人に対する優しさなんてある訳がない。
「その程度で優しいだなんて思ってると今後が思いやられるぞ」
「今後なんてありませんよ、殺してもらうんですから。その時までです」
そう笑いながら麦茶を飲むイノリはどこか楽しそうな顔をしていた。
殺されたいと言うのに、楽しそうな顔をしているのはどこか矛盾しているはずなのに。
イノリが今を楽しんでいることに違いは無いだろうとわかるくらいには楽しそうにしている。
それだけ殺されるのが楽しみなのか、わからない。
ただ、俺にイノリを殺す気は一切ないのは変わらない、変わってはいけないのだ。
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