何か臭うらしい
【4分と39秒ね】
「そういう細かい真面目な指摘はいいんだよ!」
絶対何かがおかしい。俺はさっき貰った地図を広げて改めて確認してみる。
……今いるこの場所から指定されたダンジョンまでは中々の距離だ。イザベラはフレアが出発してから帰って来るまでの時間は4分半と言った。だが、普通に歩いてたら道中の3分の1すら到達出来ないであろう時間の筈で、仮に迷わず最短距離で行けたり、途中で何らかのトラブルだったり戦闘等も発生しなくとも、それでもやはり無理がある。これはスピードや敏捷特化にしている冒険者ですら、恐らくたどり着くだけで精一杯だろう。ましてやそれでダンジョンを攻略して、そこから帰還するまでの時間も加えたら数時間はかかる。
「なあフレア。本当にダンジョンに行ってボスを倒して来たのか?」
「うんっ。一番奥にいたおっきな狼さんを倒したら、こんなの落としたよー」
そう軽々しく言ってのけて、フレアが手の平に乗せて俺に見せたのは、キラキラと蒼く光る宝石らしき物体だ。
「これは『黄土水晶』……? ロックリザードの素材か? アイツが落とす素材の中では比較的レアなタイプだぞ。この周辺で野生のロックリザードが出没するなんて聞いた事が無い……。まさか本当に――いやいや」
俺もまだ諦めが悪いようだ。イザベラやフレアが何度も言ってるのに、挙句こんな『証拠』まで持ち出されたら信じるしかないと言うのにだ。
「……フレア、ダンジョンの構造は覚えているか?」
「こーぞー? 何階あるかって事?」
「まぁそんな感じであってるが。どうだ?」
「んっとー。3階下に降りた……のかなあ? そのまま進んでったら奥に広ーいお部屋があってね、その真ん中に宝箱があったから開けようとしたら上からおっきいトカゲが急に出て来てね、邪魔だったからどかして、それからえーっと」
「いや分かった。もういい」
とりあえず目的のブツは手に入れた。気乗りは全く以ってしないが、まずは形だけでもライセンスを手に入れさせないとフレアの機嫌を再び悪化させかねない。俺はひとまず冒険者ギルドに引き返すことにした。
* * *
――おかしい。室内の様子がさっきと違う。俺が真っ先に感じたのはそれだった。
冒険者ギルドの風景は先程出た時と比べて特に変わりない。カウンターやテーブルを行き交う冒険者達の風貌も、さして変わらない。でも何かが違う。人々のざわつき方が違う。明るく賑やかなざわつきではなく、戸惑いや困惑が滲んでいる、焦りとも取れるざわつきだ。
「ねーパパ。ぼーっとしてないで早くあそこ行こうよー。ボクも冒険者になりたーい」
「あ……ああ。そうだな。さっきの戦利品は持ってるか?」
「うん! バッチリだよ!!」
「そっか。よしよし、これなら――」
【臭うわね】
「はあ!? いきなりなんだよ。こう見えて俺は服装の臭いには人一倍気を遣って……る……」
イザベラの声が聞こえた左方向へ返事をした。……だが、その視線の先にいたのは、全く知らない赤の他人。しかも女性。その人は俺を汚物を見るかのような目で一瞥して、逃げるような足取りで去って行く。
――やっちまった。イザベラの魂は俺ら二人以外には認知されないんだった。その事をすっかり忘れて、普通の声で話しかけてしまったのだ。
【今のは私の仕様を忘れてたアナタが悪いわね】
(うるせー! てか自分で仕様とか言うな!)
【それより……何となくだけど私には分かる。間もなく、私たちの運命に惹かれてやって来る者が、現れるわ】
(なんだよそれ……今度は占い師じみた事言いやがって。伝説の悪魔とやらは予知能力すらも持ち合わせるってか?)
イザベラの力はこれまで嫌というくらい見せつけられて来た。だから今更そういった能力も備わっていると言われても特に驚きはしないが。
【まあ魂だけの状態じゃぼやけた輪郭程度の形しか分からないけれどね。少なくとも悪い話ではないわ】
(ハイハイ。そんな与太話は後だ後)
「お姉さん! 持って来たよー! ハイこれ!!」
カウンターの前までやって来た俺達は、要求通りに初心者用ダンジョンの戦利品を『フレアが直々にどんっと置いて渡した』。その顔はまるで「ボクがこの手で持って来たんだよー♪」と言わんばかりだ。
「……確かに、試験用のダンジョンの戦利品で間違いありませんね。ではこちらにサインを……」
「なーにこれ?」
受付嬢が一枚の紙をカウンターに差し出し、フレアもそれをまじまじと見つめる。これは……認定証の発行用紙か。予定通りの流れならば、一度仮登録証をここで受け取った後、しばらくして冒険者証が魔法転送で送られる……筈。
「とりあえず晴れてフレア様は冒険者になれましたので、ランクこそ最低ランクのEランクからのスタートになりますが、これからの成果や武勲次第で、いくらでも上へと駆け上がれる世界です。――最も、それをするにあたってはより死の危険が付きまといますが、進むも退くも、全ては本人次第です。決してフレア様一人のお命ではない事を常に念頭に置いて、精進なさるよう」
「――? うん! トニカク頑張る! だよねパパ!!」
何を言ってるか分からん様子だな。仕方ない、いくら圧倒的魔力を手にしたと言っても、中身は子供のままだ。
「まああれだ。色々気を付けて程々に頑張れよ……って事だな」
「うん! よーし、これでボクもパパと一緒に――」
『――た、たたたた助けてくれぇッッ!!!!』
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