オーバーフローしていたらしい

 事態をよく呑み込めないままフレアに引っ張られ、外に出る。そのまま街の出入口まで一緒に歩くと、そこで一旦足を止めた。



「パパさっきのお話、聞いてたよね?? じゃボク一人で行って来るから、パパは街で待っててね。サクッと終わらせちゃうから♪」


「終わらせちゃうから♪ ……じゃなくてだな、フレアの魔力は本当にあれしかないのか気になってだな?」



 もしかしたら、フレアのあの超人的なパワーも何か仕掛けがあって、それに俺は今まで騙されていただけなのかも知れない。そうか、やはりこれは夢だったんだ。



「じゃ行って来るね! すぐ戻って来るから心配しないでねー!!」


「マントはダンジョンに入るまで外すんじゃないぞー! 変な人に声を掛けられてもついてっちゃダメだぞー!」


「分かってるってば―!!」



 手振りながら街の奥へと消えて行くフレア。……ああ、この感じ。何も変わっちゃいないな。パジャマを着て街を歩いて、色んな人に可愛がられて、それを嬉しそうにするフレアを見ると、俺も同じ気持ちになったりして。

 

 なんて思ってる間にフレアはいつの間にか小石くらいまでのサイズになるまで遠くへ行っていた。俺はそのまま視線を外さずに、地平線の向こう側へと消えるまでその姿をずっと見守る。



「……行ったか。イザベラもあれから全く起きてこないし、やはりこれは長い夢だったんだよ。うん。そうだ、そうに違いない。魔力だって普通だったし、やっぱり伝説の悪魔なんて――」


【あれはただ『オーバーフロー』してただけよ。そもそもあんなチンケな水晶で私の魔力を計り知ろうとしているのが間違いだし】


「うわ出たぁっ!?」


【うるっさいわねぇ。ヒトを幽霊みたいに扱わないでくれる? それにまだ寝起きなんだからあんまり大きい声出さないでよ。周りの人からも変な目で見られてるし】



 畜生めが、やはりこれは現実か。それに悪魔の癖して妙に俗物っぽい所があるし。……いや待て。そんな事より今『寝起き』と言ったか? 俺の記憶が正しければ最後にイザベラの声を聞いたのは村を出る出発前夜。それから今に至るまで……一度も声を聞いてはいなかった筈。

 

 

「待て待て。お前まさか今までずっと寝てたってのか!? あれから何時間経ってると思ってんだ!? 丸一日、いやもっと寝てるぞ!?」

 

【そりゃそうよ。今は魂しか動いてないから寝てる時間も少なくて済むけど、肉体も本格的に活動してたら一週間寝っぱなしなんてザラよ】



 ……こんな所でもスケールが違い過ぎるのか。人間なんて半日も寝てりゃ寝過ぎなくらいなのに、コイツに至ってはその倍以上と来たもんだ。しかもこれで少ない方? 最早笑えて来るぜ。

 


「……後オーバーフローってなんだよ。そんな単語生まれて初めて聞いたぞ」


【上限値を超えた数値が、一周回って下限値になってしまう事よ。しかもあの水晶だと実は上限値を二周してたからSSSランクを二度通り越したGランクって事になるわね】



 ――? ……??? SSSランク。ここはまあ一万歩譲って分かる。伝説の悪魔ってのはハッタリや嘘じゃないってのは嫌でも分かったからだ。だがそれを『二度』通り越した? ちょっと何言ってるか分からな過ぎる。別の宇宙からやって来た異種生命体とでも言いたいのか?



【細かい事を気にしたって仕方ないわ。今は黙ってあの子が帰って来るのを待ちなさいな】



 諸悪の根源であるお前がそんな身も蓋もない発言をするか! 気にし過ぎても仕方ないというのは分かるが、俺にも限度と言うものがあってだな――――



「ただいまパパ。帰って来たよぉ」


「おおそうか。帰って来たか。偉いぞフレア」


「えへへー」



 ――ん? 帰って来た? おかしい。何かがおかしい。試験用のダンジョンに行くといって送り出したのってたった今だったよな?

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