フレアもライセンスを作りたいらしい

 おお、フレアも元気がいいな。そうかフレアも冒険者に……。



「……なんだとぉーっ!? ちょ待――」


「新規の希望者ですか? ライセンスの新規発行は手数料といたしまして2万ゴールドかかりますがよろしいですか? 後は適性試験もありますので魔物などの討伐証明書などがなければ新規試験料も別途支払いとなり、完全自己負担となりますが……」


「だいじょぶっ!! パパお金持ってるから!!!」


「畏まりました。ではこちらの手続書類に必要な事項を記入いたしまして、終わりましたらそちらで魔力適性検査を――」


「お姉さんも普通に相手すなぁ!! 見て分かりませんか!? ほら『子供』ですよ『子供』!! どう考えたってダンジョンなんかに挑める筈ないでしょう!?」



 ひょいと持ち上げて目の前でこれでもかとアピールして見せる。――が、お姉さんの顔色は何一つとして変わらず。



「幼少でもライセンスを持っている冒険者はいますし、冒険者の原則は全て『自己責任』ですので。冒険者となるのに必要な資金と能力さえ持ち合わせていれば年齢、性別、種族問わず我々はいつでも歓迎致します」



 ぐ……ぐぐぐ……なんてプロ根性だ……! そんな澄ました顔で正論を吐かれると、何も言い返せんではないか……ッ!



「だってー。ねぇパパぁ、おねがーい♪」



 お祈りする様に両手を組み、これでもかと【おねだり】してくる。キラキラと輝かせる瞳がとても眩しく、何より可愛い。人体に影響を及ぼすまでの【魅了効果】を含んだ視線がとても、とっっっても辛いが、親である俺にはやはり≪無効≫だから意味が無い。



「ダメだダメだ! いくらフレアの頼みでもこればっかりは受けられんぞ! 冒険をするだけならパパの後ろをついてくればいいんだから! フレアはまだ冒険の本当の怖さを知らないんだ!!」



 ――とかなんとか言いながらも、当然冷や汗ダラダラである。いや当たり前だろう! あんな凄惨過ぎる魔力で暴れ回った日なんかにゃあ、国や大陸どころか世界中からどんな目で見られるか分かったもんじゃない!



「そんな事無いもん! パパも見たでしょ!? ボクがゴブリンやっつけるの!」



 それを言った瞬間――周りから息が一斉に漏れた。堪えていた感情が抑えきれなくなり、それが嘲笑となって場を支配する。



「んもぉ……! みんなしてボクの事バカにしてぇ……! じゃあ見ててよ、ボクが最強の悪魔だって事を証明してみせるから!」


「あっ!? 止せフレア!」

 

 

 いきり立ったフレアは怒りのままに魔導水晶に掌を乗せ、自分の力を誇示しようとした。やってしまった。俺とした事が。これでフレアがとんでもない悪魔だって事が一気に知れ渡って、俺達の旅は――アリシアはやはり夢のままで――――。


 

「…………。……あれ?」



 反応が無い。最高ランクの魔力を示す虹色に輝くのかと思いきや、うんともすんとも言わない。まさかこのタイミングに限って丁度壊れた? いや流石に伝説の悪魔だって、そこまで出来すぎた偶然がある訳ない。



(いや違う……、よーく見ると光っている。うっすらと水色に光ってる気もするけど、ほぼ白に近い色。って事は……?)


「『藍白色』……。最低ランクに限りなく近いGランクですね……」



 受付嬢は虚しそうに事実を告げた。それとほぼ同時に、嘲笑は爆笑へと変わった。そこら中から下卑た笑いに包まれ、当のフレアも何が起こったのか分からないといった様子のまま。



「ウヒャハハハ見ろよあれ! 魔族なのにGランクだってよ!! やめとけやめとけおチビちゃん! 下手に冒険なんかしたらオークの餌になっちまうだけだぜぇ!!!」



 何故こうなったんだ? いや今更そんな事考えても意味が無い。だって、俺の前にはわなわなと震えるフレアがいるのだから。ああ終わりだ、みんなすまない。こうなったら俺が止めても無駄だろう。

 

 

「どうしますか? その魔力では初心者用のダンジョンさえままなりませんが……」

 

「……です」

 

「へ?」

 

「大丈夫です! 何かあればパパがいるし、それにボク、ランクが低くても冒険したいという気持ちに変わりはありません! だから……『試験を受けさせてください』ッ!!」

 

 

 それは叫びにも近い、心から情熱が込められたフレアの発言だった。今度は逆に一同が水を打ったようにしんと静まり返ってしまう。

 

 

「――分かりました。そちらの意志はしっかりと確認させて頂いたので……」



 受付嬢は一枚の紙切れを差し出した。それはこの街の周辺を表した地図で、地図の右上辺りに×点の印が記されている。



「こちらの場所へ向かってください。こちらは新規で冒険者を志す者の為に用意された試験用ダンジョンです。こちらの最深部に潜んでいるボスを倒して、帰って来て下さい」


「ボスを倒せばいいんですね!」


「――ただしこのダンジョンは『ソロ専用』となりますので、如何なる者の手助けも借りる事は不可能です。勿論、安全面には最新の配慮をされてますので死んでしまうという事はないでしょうが、それでも絶対とは限りません。それでもよろしいですか?」


「……大丈夫です!」


「畏まりました。お代は試験を無事終えてからで大丈夫ですので。では改めて、ご武運を――」


「はい! がんばりますっ!!! ほらパパいこ!!!」


「お? お、おお……」



 事態をよく呑み込めないままフレアに引っ張られ、外に出て来る。

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