ライセンスの再発行らしい

 何だかんだありながらも、冒険者ライセンス発行所までやって来た。

 

 

(……相変わらずの雰囲気だな、ここは)



 10年以上前の空気と何も変わっちゃいない。ここだけ時間が止まっているようだ。休憩所では肩を休めながらも、心の底からは安心していない冒険者特有のピリついた空間。テーブルに着いてパーティ内で会話したり、時には談笑してても何処か表面的な感情しか見受けられず、あくまで仕事仲間という関係でそれ以上にはならない。――そんな顔をした冒険者ばかりだ。


 カウンター越しにこちらを出迎えてくれたのは受付嬢。……ああ、事務的なこの問い掛けすら、とても懐かしく感じて来るなぁ。

 

 

 ……何処からか囁く声が聞こえる。

 

 

『おい見ろよ、見慣れない奴等だぞ。なんだありゃ、大人に……ガキ一人?』

 

『何あれちっさ! 魔族みたいだけどまだ小さいし、Dクラスがいい所でしょ?』

 

『いや待て。顔見たらめっちゃ可愛いじゃん! おいお前誘ってこいよ!』

 

 

 

 

 ……んむ、変なノイズも聞こえて来るのも相変わらずだな……。

 

 

「ねえパパ。なんかすごいムカつくオーラ感じるからあっちの方【消して】もいいかな???」

 

「だだだダメダメ!! したら俺達永久犯罪者ダゾ!?」



 声が裏返ってしまった。これじゃ俺がゴブリンみたいじゃないか。

 

 

「――いらっしゃいませ。新規の依頼受注ですか?」



 なんてやりとりしてる内に、いつの間にかカウンターの真ん前まで来てしまっていたらしい。



「いや、冒険者ライセンスを再発行しようと思って……」


「畏まりました。再発行と言う事は以前は冒険者だったのですね?」


「ええ。といっても失効してからもう10年以上経ってるんですけどね……」


「……分かりました。直近のお仕事か何かで戦闘経験は?」


「つい最近までルベールの村で自警団として働いてました。なので魔物とは普通に戦っています」


「成程。……では一度魔法検査をしますので、そちらの魔導水晶に触れて貰っていいですか?」



 カウンターの横に置いてある、丸い球体の透明な水晶に手を置く。

 

 ――――、何も起こらない。……と思った時、その水晶は黄色に輝いて、周囲に広がった。背中越しには見えずとも、その光で視線が集まっているのは想像に難くない。



「Cランクですね。では審査して参りますので、向こうでお掛けになってお待ちください」


 そう言って受付嬢は奥の方へと消えて行った。仕事自体に穴はほとんど空けてないから、落ちる事はほとんどないだろう。



「ねえパパ。『シンサ』ってなーに?」


「再発行する人にはライセンス発行本部にあるデータベースを基に過去の情報を色々調べるんだよ。何か罪を犯してないかとか、悪評が付いた経歴がないか、とかな」


「ふーん。じゃあボクみたいに新しく『らいせんす』を作りたいって人にはどうするの?」


「んーと確か、さっきみたいに魔導水晶で魔法適性検査をして、その後は――って」



 ……ほら来た。嫌な予感がまた押し寄せて来たぞ。まさかとは思ったがな……!



「まさかお前も『ライセンスを発行したい』だなんて言わない……よな?」


「したーい!」


「ならんならん! パパについて来るだけなら作る必要はないだろ!?」


「だめぇ……?」



 う……うぐぐ。なぜそんな火照った視線で誘惑してくるんだフレアよ。やめろやめろ、俺を【魅了】するんじゃない! やめろと言っている! 親に【魅了】したってそんなの効かんぞっ!! 残念だがその状態異常は≪無効≫だ!!!



「カイン様。審査が終わりましたのでこちらにどうぞ」


「お、おおおお!! ほらフレア呼ばれたから行って来るな!?」


「むぅーっ!」



 風船をパンパンに膨らませたむくれ顔を尻目に、俺はカウンターへと逃げ去る。



「お待たせしました。無事にCランクとして受理されましたので今日から冒険者を名乗れますよ。ではご武運を」



 よし。無事に終わった。じゃ後は外の掲示板に貼られている依頼書をチェックして、当面の稼ぎになりそうな依頼を受けるだけ。



「はいは~いっ! ボク『も』冒険者になりまーすっ!!」

 

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