街に着いたらしい
「なんとか着いたか……足がパンパンだぜ……」
早朝から歩き続けた甲斐あって、夕刻に差し掛かる頃には無事次の街に着いた。久しぶりに歩き詰めだった所為か、身体のあちこちが結構痛い。こんな調子だとフレアよりも自分の身を案じないと持たないのでは? なんて不安も少なからず押し寄せるが、そんなのおかまいなしとばかりに我が息子――――改め『娘』は視界一杯に広がる新たな景色を前に目をキラキラ輝かせていた。
「わぁーすっごい! 人がいっぱい!!」
(でもまあ……可愛いものは可愛いしな。仕方ないか)
最初こそ悪い考えや心配ばかり浮かんでいたが、こうやって実際心から楽しそうにしているフレアも目の当たりしてみれば――、
「ねえパパ! 早くいこーよー! ボク街をもっと見て回りたいっ!」
「分かった分かった。引っ張るな」
段々と『良かった部分』も分かり始めて来る。やっぱり我が子には適わんなぁとつくづく思い知らされるぜ。
「でもボク、こんなカッコで街の人から変な目で見られたりしないかなぁ。悪魔って地上だと悪いヤツなんでしょ?」
「最近はそうでもないさ。エルフ、ドワーフ、フェアリー、竜族とかでも冒険者や傭兵として働いてる人はそれなりにいるし、勿論魔族だって例外じゃないんだぞ。――ほら、周りを見てみな」
「周り……?」
俺がいち早く、この冒険者ライセンスを発行してくれる商業都市ガザに来た理由は最もこれが大きいといっても過言じゃない。
人の出入りが多いこの街は一般人、仕事人、冒険者とあらゆる人が街を闊歩する。それは人間だけじゃなく、今俺がフレアに言って聞かせたエルフや竜族なども平然と過ごしているからだ。俺達が住んでいたルベールの村だと、のどか過ぎて普通の人間しかいないから魔族なんて目立って仕方ないが、ここまで来ればそんな心配もさして要らなくなる。
「とは言え……さすがに露出度の高いこのドレス姿だと浮くよなぁ。……よし! フレアついて来るんだ」
俺はフレアを連れて防具屋へと足早に歩き出す。そこで一つ買ったのは『冒険者用のマント』だ。
「?? なーにパパこれ」
「流石に一日中そのドレスだとちょっと目立つからな。ちょっと顎を上げるんだ――――っと。これでよし……と、うんうん似合ってるな」
フードも付いているマントだから有事の時なども頭をすっぽりと覆えて、身を隠しやすい。小さいながらも少しずつ冒険者らしくなって来たぞ。
「やだこれぇ。動きづらーい」
「街中でいつまでもはしゃぎ回っててもみっともないだろ? 我慢も必要なのが冒険者だぞ。いいか?」
「……はぁーい」
いつもは元気よく返事するフレアも、この時は少し不貞腐れた感じだった。それもまた可愛くてついにやけてしまうんだが。
「よし! 次は早速ライセンスを発行しに行くぞ!」
「らいせんす?」
「正式に冒険したり魔物を討伐する権利を得る為の資格みたいなモンだな。他にも色々あるけど大体の人はそれが目的で作るんだぞ」
口で話してもまだ8歳のフレアには少々話が細かいとは思いつつも、説明したがりの俺の癖が出てしまった。さて、ここで時間を潰してても仕方ない。善は急げだし早く行こう。
「えーと発行所はたしか武器屋の角を曲がって突き当りの場所だったよな……。おーいフレア、人が多いからしっかりついてくるんだぞ」
「う、うん。待ってぇパ――きゃっ!?」
不意に鈍い音がした。何事かと振り返ると、フレアが尻餅をついていたのだ。小石か何かにつまづいたか? いや――そうではなかった。すぐ近くに、転ばした原因はいた。
「っとと。わりいわりい」
小汚い姿と無精髭が目立つ、軽装の鎧に身を包んだ男がそこに立っていたのだ。
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