58 カバヤ文庫のはなし。④

『おまけの名作』を読み進めていきますと、当時の児童向け読み物の状況も、カバヤ文庫の成り立ちにかかわっていることがわかります。


 昭和25年から28年は、児童向けの世界名作全集の出版が多くされました。創元社「世界少年少女文学全集」などです。昭和28年8月に学校図書館法が公布され、学校図書館設置が義務付けられたことも関係があるのではと坪内は推測します。

 それらに収録された世界の名作は完訳ではなく、作家による〈再話〉が半数を占める状態だったそうです。

 そのような状況で完訳を子供たちに届けることをめざしたものもあって、昭和25年刊行の「岩波少年文庫」がそれに当たります。

「カバヤ文庫」のリライト作家たちの周辺には、書き直しの参考になる名作全集があったのでした。


〈「カバヤ文庫」は、児童書をめぐるこうした状況のなかで出発した。書目の選定、題名の決定などは、この文庫の企画者であり推進者でもあった原敏はらさとしによってなされたが、作品の書き直し(リライト)は、京都の大学院生や高校教師などによって行われた。〉


 そうして四百字詰原稿用紙百枚にリライトされた作品が、カバヤ文庫一冊分。リライト料は、原敏によれば二万円くらいだったそうです。


〈以上のように、「カバヤ文庫」を当時の児童書とつき合わせてみると、その内容的な特色とか独創性は見出しがたい。しかしながら、当時のぼくには、「岩波少年文庫」と、そして「世界少年少女文学全巻」も無縁であった。第一、それらを置いている本屋が近くにはなかったし、もしあったとしても、たやすくは入手できなかっただろう。ぼくが自分の本にできたのは、菓子箱の「カバヤ文庫」だけであった。〉


 学校図書館法の制定、児童文学全集刊行ラッシュ、しかしそれでも経済的、地域的に本が手元に届かない子供たちの読書欲求に応えたもの、そのひとつが「カバヤ文庫」であったのでしょう。


 続きます。

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