43 安岡章太郎『大世紀末サーカス』②
さあ。本書の元となった『廣八日記』。
原典はサムライではない、幕末の人間が海外へ行った記録です。一番大きな仕事は1867年パリ万博での興行、欧州のあちこちをめぐり、ニューヨークで世話役のバンクスに金を持ち逃げされ、度胸と片言英語で乗り切ってやれやれ、というところで日記は終わっています。
それだけでも大変な経験ですが、安岡章太郎の視点は日記の記述をもとに幕末の外交史にも向かい、イギリスとフランスの板挟みのような徳川幕府の様子、そこで利を得ようと群がるヨーロッパの怪しげな人物たち、徳川を出し抜こうと抜け目ない薩長、スリリングな状況が活写されます。
また、安岡は福島に縁がありましたので、現在の福島県飯野出身である廣八の、地元での暮らしぶりも様々な証拠と自身の体験や知識から推理します。そこで浮かび上がる芸人気質の風来坊ぶりも面白いです。
日記には、うまく行った興行もそうでないのも、また、病気や怪我をした芸人のこと、休演が続いて暇だったことについても素直に淡々と書かれていますので、かえって想像や推理が入り込めて、幕末のいち庶民のとんでもない冒険譚が読者の前に広がります。
『大世紀末サーカス』があまりにおもしろく、のちに私も『廣八日記』を入手して、現代語の私訳を試みたのですが、読んでいて注釈を入れたいなあと感じた部分はだいたいこの『大世紀末サーカス』に書かれていることに気付き、原典を読む時にも参考になることがわかりました。
そんなこんなで本書、個人的には付き合いの長い本になっています。大河ドラマにしてもいいと思うくらいの大冒険なのですが、女郎屋出てくるからダメかなあ(笑)
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