34 キャバレーに行ってみたい。②

 で、『昭和キャバレー秘史』なんですけど、これ、福富太郎自伝の『わが青春の「盛り場」物語』も併せて読むと、さらに面白いです。


 というのも、本書は全編貴重な昭和大衆文化の記録ではあるのですが、さすがその渦中にいたキャバレー王、まえがきからこんな逸話がさりげなく紛れています。


〈ホステスとして働いていた「李恩恵」〉


 いきなり1987年大韓航空機爆破事件関連の名前が!

 金賢姫に日本語を教えていた李恩恵、なんでも失踪前に池袋ハリウッドで働いていたらしいのです。


〈キャバレーを舞台にした事件で三面記事を賑わしたものは枚挙にいとまがない。〉


 このように福富太郎が実際に見聞きした事件も織り混ぜて、キャバレーの歴史が綴られるのです。面白くないわけがない。自伝と併せて読むとさらに、というのもそのあたりです。


 興味深いのはそれだけではありません。戦前のキャバレー登場、当局の統制から、戦後、進駐軍のRAA(進駐軍特殊慰安施設)、GHQ、神武景気となべ底景気、風営法の変化、ドル・ショック、オイル・ショック、社会背景と業界の変化も丁寧に解説され、ホステス、ボーイたちの働き方、儲かりかたがよくわかります。


 読み物として楽しいだけではなく、社会風俗への知的興味も満たされる、そんな本です。


 ところで、映画に出ている福富太郎を二本しか見たことないのですが紹介します。鈴木則文監督『トラック野郎 望郷一番星』(1976)と『お祭り野郎 魚河岸の兄弟分』(1976)。

 トラック野郎のほうの福富太郎は桃さんと仲良しっぽい市場の親爺さん。ほんとにこういう優しいおじさんいそうだなあ、という演技ぶりです。

 お祭り野郎のほうは、このたび商店街に仲間入りした風呂屋の親爺さん。

 この風呂屋の親爺さん、女湯に〈商店街に仲間入りしました!〉と、笑顔で報告に行って入浴中のお客さんたちに怒られちゃうんですけど、なんだか可愛らしいおじさんぶりで好きです。

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