どうせすべてゴミ
サトウ サコ
どうせすべてゴミ
感情のメタファー、
感覚のメタファー、
感傷のメタファー、
感想のメタファー、
感動のメタファー、
感化のメタファー、
感謝のメタファー、
感喜のメタファー、
感懐のメタファー、
感心のメタファー、
時刻はちょうど午前二時六十分三十七秒。
時刻はちょうど午前二時六十分三十七秒。
麗らかな川の流れに興味は無いかと聞いた顔が私の前を掠めた気がした。私は、その時、なんと答えたんだったっけ。もう遠い記憶で、思い出せない。私の心だけが、ただひたすらに研ぎ澄まされてゆくだけなのに。
私は台所に立って、火を点けて、大根を切り始める。
ねえ、起きてよ。ねえ、ねえ、ねえ。ねえ、起きてよ。お願い。手を掛けさせないで。ねえ、昨日約束したじゃん。ねえ。
家には私以外にはいないのに。ただ、私の声が透き通ってゆくだけなのに。
大根の葉は、大切な栄養分だ。私は緑色の葉が、鍋に張った湯に溶けて、深緑色に泳ぐのを、見るのが、好き。ちょっと陽が射してきたみたいに思えて、切ない気がするから。ビートルからのぞいた真っ青な利尻富士。マッチを擦る指が大好きだった。私の肌をそっとくすぐって。
ねえ、起きてよ。ねえ、ねえ、ねえ。約束したじゃん。ねえ。連れてってくれるって、約束したじゃん。
擬音語を発明した人は天才だって思う。ぐつぐつ。可愛くって綻んじゃう。透明と緑が泡粒に揉まれてぶつかるのだ。触れ合って、離れて、絡み合って、千切れて。ぐずぐずに交ざり合って。ごめんなさい。ごめんなさい。あと少しだけ。私がいってしまうだけなのに。
ペチコートのダンス。二酸化炭素のいたずら。眩しい。眩しいのが。
黄色のビートルは幸せのしるし。ほら、またひとつすれ違った。ほら、また幸せ。ね、幸せでしょ? ニュートンが見つけた引力は、横方向にも働くんだって。ね、幸せでしょ? 黄色のビートルは幸せのしるしだから。なら、青は? どうして、青のビートルを選んだの?
万が一、空に飲み込まれちゃったとしても、違和感がない色だから。黄色のビートルだと、お日様がふたつになっちゃうでしょ? でも、青なら、空のままでいられるんだ。
記号じゃなく。目的じゃなく。目印じゃなく。破滅じゃなく。
透明な雫に、ぽとんと大きな味噌を落とす。こんにちは。色づけて。
くちびるをホッと噛み締める。止まらなくて。
ねえ、約束したじゃん。ねえ。
たばこの火を消したら、キスの時間だった。でも私は、もう一度、マッチを擦って欲しかった。ねえ、これ、胴が細いでしょ? 女たばこ。これを吸ってるとね。ソファの猥談。子供みたいに目を細める、心がキュッとする。ねえ、また、マッチを擦って。
私が、むせ返るだけなのに。
感情のメタファー、
感覚のメタファー、
感傷のメタファー、
感想のメタファー、
感動のメタファー、
感化のメタファー、
感謝のメタファー、
感喜のメタファー、
感懐のメタファー、
感心のメタファー、
時刻はちょうど午前二時六十分三十七秒。
時刻はちょうど午前二時六十分三十七秒。
どうせすべてゴミ サトウ サコ @SAKO_SATO
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます