第4話:最初の異変

 八十神くんと別れて帰宅すると、なんだか家の中の空気がざわざわしてる気がした。大勢の人がいるみたいな不思議な感じ。

 手洗いうがいを済ませてからお兄ちゃんの部屋に立ち寄る。


「お兄ちゃん、ただいま」


 ふすまを開けると、お兄ちゃんが畳の上に倒れていた。


「お兄ちゃん!」


 慌てて駆け寄って上半身を抱き起す。するて、閉じられていたまぶたが持ち上がり、お兄ちゃんの目があたしを捉えた。


「ゆ、夕月……」

「大丈夫? どっか痛い?」

「さっき急に苦しくなって。しばらく横になれば治ると思う」


 肩を貸してベッドまで運ぶ。なんとか寝かせることは出来たけど、本当に休むだけで治るのかな。呼吸も荒いし顔色も悪い。最近はずっと体調良かったのに。


「救急車呼ぶ?」

「そこまで酷くないよ」

「でも……」


 お母さんたちの留守にお兄ちゃんに何かあったらと思うと心細い。それに他にも気掛かりなことがある。


「宿題あるんだろ? 僕は大丈夫だから自分の部屋に戻りなよ」


 弱っている姿を見られたくないからなのか、お兄ちゃんはあたしを部屋から追い出そうとする。でも、今は一人になりたくない。


「やだ。家の中ざわざわしてるもん」

「え」


 あたしの言葉に、お兄ちゃんが目を見開いた。身体を起こそうとするけど思うように動けず、代わりに手を伸ばしてあたしの手を握る。


「夕月、分かるようになったのか」

「分かるって、なにが?」

「家の中の気配だよ。今までそんなこと言わなかったじゃないか」

「う、うん」


 この言い方、もしや家の中がざわざわしてるのは前からで、あたしが気付いたのが今ってこと?


「これなに? お兄ちゃんは知ってるの?」

「これは……うっ」


 説明しようとした途端、お兄ちゃんは苦しそうに顔をしかめた。

 そうだ、体調が悪いんだった!


「もう休んで。自分の部屋に戻るから」

「怖いんだろ?」

「でも、お兄ちゃん辛そうだし、あたしがいたら寝られないでしょ」


 ベッド傍から立ち上がろうとしたら、ぐいっと腕を引っ張られた。そのままバランスを崩してお兄ちゃんの上に倒れこんでしまう。


「ごっごめん、重いよね」

「夕月は小さくて軽いから平気」


 そう言いながら、あたしをぎゅっと抱き締めてくれる。お兄ちゃんにしがみついていたら、怖くて逃げ出したい気持ちが少し薄れた。


「家の中にいるのは悪いものじゃない。僕が保証する」

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