第3話:八十神時哉

 次の日、うちのクラスに転校生がやってきた。昨日裏の空き家の前で見掛けた男の子だ。


八十神 時哉やそがみ ときやです。よろしく」


 担任の先生の隣に立って自己紹介する彼はすごく垢抜けていて、クラスの女子が色めき立った。というのも、彼がイケメンだからだ。少し長めの髪に涼やかな眼。スラッとした立ち姿。男の子に興味のないあたしから見てもカッコいいと思う。

 ちょうど先月家庭の事情で転校していった子の席が空いている。八十神くんの席はそこに決まった。


 昼休み。八十神くんは女子に囲まれ、早速質問責めに遭っていた。


 どこから来たの?

 家はどこ?

 家族構成は?

 彼女は?

 好きなタイプは?


 根掘り葉掘り尋ねる子たちにハラハラしながら離れた場所から眺める。夢路ちゃんと千景ちゃんは八十神くんの方には行かず、あたしの側にいる。


「あーあ、浮かれてら」

「みんなが好きそうな男子だものね」


 二人とも転校生の彼に無関心みたい。あたしも男の子に興味はない。でも、ご近所さんだし喋ってみたい気持ちはある。


「彼のこと気になるの?」

「へぁっ!? 違うよ、うちのすぐ側に引っ越してきたみたいだから」

「そう?」


 八十神くんのほうばかりを見ていたら、夢路ちゃんから勘繰られてしまった。


「空き家になってた一軒家だよね。ホントに近くじゃん」

「うん。昨日引っ越し屋さん来てた」

「あそこって……、まあいいや」


 八十神くんが越してきたのは十年以上空き家になっていた家だ。

 あたしの心配をよそに、八十神くんは笑顔で軽くあしらっていた。人に囲まれることに慣れてるみたい。気分を害してないなら良かった。

 放課後、彼に学校内の案内をするのもクラスの女子たちが率先してやっていた。おかげでまたゴミ捨て当番を代わることになり、千景ちゃんから怒られてしまった。






 学校からの帰り道、夢路ちゃんたちと別れて家に向かう途中で八十神くんを見掛けた。家に帰るところなんだろう。結局一言も喋ってなかったのを思い出して声を掛けた。


「こんにちは」

「えーと、君は……」

「同じクラスの榊之宮 夕月さかきのみやゆうづきだよ。話すのは今が初めてだけど」

「そうなんだ。もしかして、昨日家の側にいた?」

「うん。それ、あたし」

「やっぱり。その髪型、他にいないし」


 そう言って八十神くんは爽やかに笑った。やはりイケメン。昨日お兄ちゃんとの散歩中に通り掛かったの覚えてたんだ。長いツインテールはうちの中学だとあたしだけだもんね。


「うちはすぐそこなの。ご近所さんだね」

「うん、よろしく」


 八十神くんは自然な流れでこちらに歩み寄り、あたしの首筋に手を伸ばして触れた。


「葉っぱついてたよ」

「え? あ、ありがとう」


 彼の手には枯れ葉があった。

 いつから付いてたんだろ。

 でも、急に触られたのに嫌じゃなかった。

 話しやすいし優しい。

 仲良くなれたらいいな。

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