第5話ナスの本性(2)
仕事が終わって、自分の家に一人でいた。リビングのど真ん中、テレビから流れる音を消して無音にする。音がある状態だと何も書けないから仕方ない。
さて、この前のお話の続きでも書くかと、スマホを片付けて私御用達のタブレットを広げた。
カバーを外して上手く畳み直せば、きちんと自立するタイプのこれは、私のお気に入りで。もう200以上も書いてきた小説がこの中に住んでいた。
「あーーーコーヒー!」
思わず叫んだ自分の声。コーヒーが無い。集中するための飲み物は必要不可欠だ。立ち上がって電子ケトルに水を入れてスイッチをオン。沸騰するまで時間がかかるから、ポケットに入れたままのスマホを取り出して画面を覗いた。
ナスさんからの連絡が一件。
『完成しました』
その言葉にときめく鼓動を押さえつけて、画像をタップした。画面一杯に広がるその画像、私の大好きな令Rの素敵な絡みが描かれた絵で。あぁこんなの、指で描いてるとは誰もが思わないだろう。その秘密を知ってるのは私だけなのだ。
『流石ですナスさん、すばらしすぎます!』
興奮は止まらない。びっくりマークを多くして、絵文字もたくさんスタンプもたくさん送りつけよう。このメッセージを見て、ナスさんがどんな反応をするかはわからないけど。あの強面な顔が少しでも緩めばいいなと思いながら、私も気合を入れて小説を書き始めた。
おっと、コーヒーを忘れてはいけない。慌ててマグカップにインスタントの粉を入れて、沸騰直前のお湯を注ぐ。三年前だか四年前だかに買ったこのマグカップとも、早くお別れをしなければいけないな、そんな事を思いつつ、一口飲んでリビングへ向かう。
熱い温度が唇を襲って、広がる苦いコーヒーの味が、頭に上った。
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