第4話ナスの本性(1)

ナスさんとのやり取りが、SNSからメッセージアプリに変わった。毎朝のおはようから毎夜のおやすみなさい。ナスさんの律儀に挨拶をしてくれるそれに、若干の恋人感は否めなくとも、意外に嬉しいと思ってる自分がいるのは否定できない。


ナスさんも、私とのやりとりを楽しいと思ってくれているなら良い。この前のオフ会で、半ば強引のようにカードを交換してしまったわけだけど、それはそれでよかったのだろうか。


不安を抱きつつも、彼は存外何も言ってこないので良いか。スマホのケースに入れたままのカードを見つめて、何となく令矢というよりも、ナスさんに見守られてる感を抱いてしまってほんの少し、罪悪感。


『会社のお昼休み中です、ナスさんは?』

『俺もです。絵描いてる所』


進捗具合を報告してくるナスさんに、笑った。メッセージの後に送られてくる絵はまだ線画の段階で。これを指で書いてるんだもんなと思ったら、感嘆の息さえ出てくる。あの手で、描いてるのか。


唐揚げを掴む時も、サラダを食べる時も、綺麗な箸の使い方をしていた指を思い出して、絵を描くときもきっと丁寧なのだろうと想像する。図体のでかい男の人がスマホを覗き込んで絵を描いてると思ったら、笑ってしまうけれど。


『今回の絵も素敵です。完成が楽しみ!』


会社のデスク周りに置いてる令矢の文房具を見つめて、心の中は和やかだった。ひっそりと活動してる二人だけど、それでもこんなに親密になってしまって良いのだろうか。そんなことを思ってしまうぐらい。


でも意外と、楽しいやり取りは自分の運まで高めてくれるようで。仕事も順調、肌の具合も調子が良い。ナスさんと仲良くなってからと言うものの、生きる糧が生まれたみたいに、毎日が楽しかった。


『私も、この前の続き書きますね』

『楽しみにしてます、続きが気になって仕方ないから』


これ、あの人が言ってるんだよな。


スマホを握って、画面に浮かぶメッセージに笑ってしまった。あの大型犬みたいな男の人が、こんな擽ったい言葉を言うとは。想像したらやっぱり笑ってしまうのだ。


スマホさえ似合ってないと思うぐらいなのに。そのスマホのケースの中には私があげたリーンのカードが入っているのだろう。そう思ったら、何だか胸が暖かくて。もっとナスさんと仲良くなりたいなと、少しずつそう思い始めていた。


いや、ナスさんとはもうすでに仲が良いから、那須川さん、の方だろうか。


男の人だとは思っていなかったけれど、実際に会って話してわかる程度には、那須川さん本人もとても礼儀正しい良い人だった。良い友達になれないだろうか。そんな事を思ってる私は、もしかしたら彼にとってははた迷惑な存在かもしれないけれど。


それでも、少しは彼もそう思ってくれているんじゃないかと、期待を寄せても良いだろうか。

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