第2話ナスと蜜柑(2)


 ナスさんとのやり取りはとまらなかった。元々好きな絵師さんだったのもあって、ナスさんに関しても私を好きな物書きだと言ってくれるのもあって、尚更話は止まらない。


 令矢とリーン、通称令Rのカップリングの話に終わりはない。仕事の昼休み中も、出勤の地下鉄も退勤の地下鉄も、私たちはよく話をしていた。


 そんな時、不意に同じことを呟いたのだ。


 ——あ、急に雨が降ってきた。

 ——明日からずっと暑いんだ。

 ——このお店のフェア、行ってみたい。


 もしかして、もしかして私達住んでる場所近いんじゃない?そう思ったのは私だけではなかった。


 たまたま帰るのが遅かった金曜日の夜。明日は土曜日だからどこかお店でも寄って行こうかなと思っていた時。


『ナスさん、もしかして私達近い場所に住んでます?』


 何となく聞いてみたその言葉で、ナスさんと私は今から会うことになってしまった。住んでる場所が近い、今いる場所も近い。明日は休み、ナスさんは休みではないらしいけれど、意外に結構融通が効く仕事なのだそう。


 ならこれは思い立ったが吉日だ。


『今からご飯食べません!?』


 私の言葉に、ナスさんは『はい』と、二つ返事で了承してくれた。こんな服着てます、白のシャツに黒のスカート、靴はピンクのヒールです。壁によって、令矢の人形ストラップつけたカバンを持ってますから。怒涛の様にそうメッセージを送って、電車から降りてダッシュで改札に向かった。


 三十分で着きますなんて言われたら、急がなければ。トイレに入ってメイクを直して、食べたいと思っていたお店のサイトを開いて電話番号を探す。


 話をしていたらわかるのは、多分ナスさんは私より年上で、綺麗な言葉遣いからきっと礼儀正しい人なのだろうな、ってこと。あと、通ってきたジャンルがほぼ一緒だから多分話は止まらないだろう。


 他のお客さんの迷惑にならない様に個室だ、個室でご飯だ。当日予約が出来るのかはわからない。待ち合わせ場所の駅前に立ちながら、人が行き交うのを壁に背中を預けて眺めつつ、電話をした。


「あ、すみません、今からそちらに行きたいんですが、個室の席って空いてますか?」

「何名ですか〜?」

「二人で」

「はい、大丈夫ですよ。名前をお願いしまーす」

「はい、榊原……」


 杏奈です。


 そう言おうとした口が、止まった理由。


 それは私の前に立つやけに高そうなスーツを着たイケメンの男性が、きっと私より何センチも高くてガタイがいいからとか、なんか睨まれてる感じがするから、とかそういうのではなくて。


 いやもしかしたらそんな感じもしないでもないけれど、私の顔に影をおとしたその張本人が、私の愛おしい最推しの令矢の人形ストラップと、リーンの人形ストラップを握り潰しながら、恐る恐ると口を開いたからだった。


「……蜜柑さんですか」


 私のアカウント名、蜜柑を口にするなんて。私のアカウントを知ってる人以外ありえない。友達にだって知られてないアカウントなのだから、つまり目の前に立ってるこの人は。


「………ナスさん?」

「はい、ナスです」


 急遽決まったオフ会に来たのは、どっからどうみても男の人で、見た目はかなりいや多分確実に、ヤのつく人だった。

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