エリナはビッチ――そしてビッチなヒロインちゃん
※今話より、HENTAI描写が本格化します。苦手な方はご注意ください。※
お話がありますと、そう言ったビッチちゃんと共に歓楽街を歩く。
女の身では危ないとされるエリアを平気で歩くビッチちゃんは、さすがのビッチちゃんだ。
「大事な話がありますので、落ち着けるところがいいと思うんですが、アシュレイ様はどこか良い所を知ってますか?」
「いや、この辺りは来たことが無いな」
「そうですか。あ、ちょうどあそこにお茶屋さんがありますね、あそこで良いですか」
にっこりと花のような笑顔でビッチちゃんがそう言った。屈託がない無邪気な、男受けする笑顔だ。さすがビッチちゃんだ。
だがそんなビッチちゃんが入ろうと言ったお茶屋さんは、連れ込み茶屋だ。
歓楽街にはつきものの、花売りの娘と一緒に入っていくお店だ。
何も知らない女の子が警戒しない様に、店構えは普通の茶屋のような雰囲気を出しているが、完全個室制で防音のしっかりしたそこはお茶を楽しむ場所では無い。
さすがビッチちゃんだ。
さて、ビッチちゃんが何を考えているか俺にはわからない。
私の記憶でもビッチちゃんとの直接の面識はほとんどなく、顔を合わせても一言、二言、嫌味を言ったり足を踏んだり肩をぶつけた程度で、まともに話したことは無く性格はろくに知らない。
弟君に色目を使い、婚約者と仲良くしていたビッチちゃんを、ビッチビッチと私が一方的に嫌っていた感じだ。
まあこれまで私が数多くの嫌がらせをしてきたことを考えれば、復讐だろう。
ビッチらしく部屋の中に複数の男を忍ばせており、俺を輪姦させるつもりか。さすがビッチちゃんだ。
しかしその罠を潜り抜ければ、ビッチちゃんを好きにできるというご褒美が待っているはずだ。
男たちに輪姦させようとしたのなら、女にレイプされるぐらいは覚悟してるだろう。
うん。きっとそうに違いない。
「おう。よくわかんねぇし、どこでもいいさ」
願わくば、出てくる男たちがクソ王子と同程度の実力でありますように。
ビッチちゃんは手慣れた様子でカギを受け取り、個室へと進んでいく。
心なしか足取りが軽く浮かれているようだった。内装は綺麗でそこそこに高級店だとわかる。
「変わった茶屋だな」
「……そ、そうですか? そう言えば変わってるかもしれないですね。入口の所の説明文を見たので迷わないですけど、ちゃんと見てなかったらよくわからないかもしれないですね」
聞いても無いのにビッチちゃんはつらつらと説明をした。ああ、うん。俺も初めて女を連れ込んだ時に似たような言った覚えがあるわ。
辿り着いた個室に、しかし男たちは待ち構えてはいなかった。
不審に思ってきょろきょろと部屋を見渡すが、それらしい危険は見つけられない。ただのラブホの一室――間違えた、完全個室制の茶屋だった。
「お、おかしいですねー。なんでお茶屋さんにベッドがあるんでしょう。さあさ、そんな事は置いていて、ソファーに座ってください、アシュレイ様。私はお茶を入れてきますから」
ビッチちゃんはそう言ってトテトテと可愛らしい小走りでお湯を沸かし、備え付けの茶葉を取り出していた。
こういう所のあれこれは全部有料でしかも割高なんだが、ここに来る前ビッチちゃん『私の都合でお呼びするのだからお金は全部私が払います』なんて言ってたよな。大人用の施設で休憩料金もかかるのに、お金持ってるんだな。さすがビッチちゃんだ。
私がソファーに座りピンクな雑誌を読んでいると、程無くしてビッチちゃんが戻ってきて隣に座った。対面には座る場所が無いので隣に座るのは当然なのだが、ビッチちゃんは肩が触れるほどに近くに座った。
「はい、アシュレイ様。――アシュレイ様って、そういう雑誌はよく読まれるんですか」
「いや、
「……え、エリナです。その、エリナって、呼んでください」
ビッチちゃんことエリナから紅茶を受け取り、ピンクな雑誌を置いた。
できれば一緒に読んで盛り上がりたいが、さっきから頭の中が騒がしい。俺を通して私も雑誌を見ていてキャーキャーと煩いのだ。
どうやら弟君や幼馴染君と触れ合ううちに、大分持ち直してきたようだ。これなら俺が追い出される日もそう遠くはなさそうだ。
まあもともとタフな女だしな。ふさぎ込む時間も短いんだろう。
まあその事は別にいい。
どうせもう一度死んでいるわけだし。
だがしかし目の前にビッチな女の子がいるのに、楽しむことも出来ないんじゃあ死んでも死にきれない。
そんな事を思っているうちに、エリナが一口、紅茶を飲んだ。
「なあ、それと交換してくんない?」
私はそう言って、渡された紅茶をエリナの前に出す。
「え? あ、はい」
私はエリナが飲んだ紅茶を、エリナが飲んだところと同じ場所に口をつけて飲んだ。睡眠薬などへの対策のためだ。わからない様に少しだけレロレロしたが。
「ほぁあ……」
そしてそれを見たエリナが変な声を上げた。間接キスで驚くとは。まだまだだな、ビッチちゃん。
「わ、私も、一口、一口で良いですから」
そう言って渡した紅茶を差し出してくる。剣幕に押されて、私はその紅茶に口をつけてしまった。
しまったと思ったが、すぐにエリナがその紅茶を飲むのを見て杞憂だったと気付いた。エリナは俺がしたのと同様に、同じ場所に口をつけていた。俺が毒を入れるタイミングは無かったが、お互いが無実だと誠意を見せるという意味にはなっている。たぶん。
まあエリナの火照った顔を見てると、なんというかどうにもおかしな想像をしてしまうのだけど。周囲の気配を探っても、ギシギシアンアンという振動と効果音しか拾えず、誰かが潜んでいる様子も無い。
これはもうやっちゃっていいんじゃないだろうか。ラブホに入ろうなんて言いだした時点でオッケーって事だし。
そもそも俺が男なら襲撃者が潜んでいたとしてももう押し倒してるんだ。
ただまあ今の俺は女なんだよな。
ギンギンになるものが付いてないし、ついでに言うとその気になろうとすると、こう、気持ちの奥の方が抵抗するというか。これは俺じゃなくて、私が抵抗してるんだよな。
「それで、話があるんじゃなかったのか」
「あっ、そうでした。そういう
おい、へんな本音が漏れてないか。
「あの、改めてお詫びを。私のせいでご両家に大きな溝を作ってしまいました」
「……まあ、それは確かにな。俺に言われても仕方ないけどよ」
私とクソ王子の婚約はこの都市を代表する二つの名家の結びつきを強固にするためのもので、政治的に強い価値があった。
私が心を擦り切れさせるまで我慢していたのにはそんな理由もあったが、今回の騒動はその思惑とは真逆の行いだろう。
「ただそれはあのクソ王子があんな場所で婚約破棄だーなんて騒いだのが原因で、ついでに言えばそうさせたのは俺があんたをいびってて、それを断罪したかったからだろ。アンタが謝るような事じゃねえさ。
むしろ謝るってんなら、他人の男に色目使った事じゃないのか」
「それは謝りません。あのクズはアシュレイ様に相応しくありませんから」
「ヒュ~♪」
いいね。イイ女だ。つい口笛が出た。初めて目にしたときに思ったが、こいつは凄く俺好みの、強かでタフなビッチだ。
口説きの言葉でも囁こうとした俺の口が、しかし意もしない興味も無い言葉を紡ぐ。
「あなたは、あの人を愛してたんじゃないんですか」
泣きそうな声で、
私はそれだけ口にしてすぐに心の奥の方に引っ込み、黙り込んでいる。
だがしっかりと俺を通してエリナを睨んでいるのが分かる。
「……私は、別にあの男の人は好きじゃないです。その、成り行きで優しくしていたら勘違いされて、本当はアシュレイ様の悪口ばかり言ってるから、嫌いです」
うわぁー。
これはきつい。これはきつい。
さすがの俺もあの王子に同情する。『添い遂げる!!』なんて言いきったのに完全に片思いじゃねえか。
ああいや、でもあの時こいつうっとりした顔してなかったか? 王子と俺の喧嘩を見ながら――ああ、あの視線は王子じゃなくて私に向けられたものか。うん、どうやらエリナはそう言う趣味らしいし、納得だ。
性癖は人それぞれだよな。ふへへへへへ。
そしてこの瞬間から、全てを悟った私の身体が全力でこの場から逃げようとしているが、させません。
今のところ主導権はまだ俺の方が強い。悔しかったらさっさと正気に戻りやがれ。
でもとりあえず据え膳を食い終えるまではちょっと眠っててくれ。
大丈夫ちょっとだけだから。
一回だけだから。
健康にも良い事だから。
「……アシュレイ様は、愛って何だと思いますか?」
「は? なんだよ急に、まあ月並みだけど許すって事じゃないのか」
「……許す、ですか?」
エリナの目が少し悲しそうに揺れる。
「ああ、街でかわいい子見つけてエロいことしたいってのはただの性欲だけど、それを許すのは愛だろ?
俺はその子とエロいことしたいって欲を許し、その子は俺にエロいことされるってのを許す。逆も言えるけどな。欲ってのは醜いもんだけど、それを、まあいいやって許すのが愛だと思うぞ。
許すのが自分の欲か、相手の欲かで、意味合いは変わってくるだろうけどな」
「そうですか。ふふっ、じゃあアシュレイ様は、私の欲を許してくれますか?」
そう言ってエリナの手が俺の頬に延びて来て、私の身体が全力で後ろにのけ反ろうとするのを、俺が全力で押しとどめた。
俺と私の力は完全に拮抗している。貞操の危機を知って私の自我がほとんど完全に復活しかかってやがる。
だが駄目だ。今は駄目だ。
この世に未練が無いと言った言葉になんも嘘は無いが、こんな終わり方は男として許せねぇ。
俺は一発やってから成仏したいんだ。女の身体で女とヤルなんて最初で最後のチャンスだろ。
いくらこの身体の持ち主だろうが俺のこの思いを否定させてたまるか。
つーか
いいじゃねえか。女同士だし膜は破れねえよ。
これが終わってもお前は
じゃああれだ、お前は竜殺しの英雄に憧れてんだろ。俺はあいつの師匠だったからな。後であいつのガキの頃の話をいくらでも教えてやる――って、おおぃ!! なんで抵抗が強くなんだよ。嘘じゃねぇよ嘘じゃねぇからな。俺はマジであいつ育ての親で師匠だからな。
とにかくすぐに済ませるから、ちょっとお前眠ってろよ!!
そしてこの拮抗は、エリナの細い指が私の頬を撫でたときに崩れた。
エリナの手に、虹色のミサンガが巻いてあった。
それを見て、私の抵抗が止んだ。俺はそのせいで勢いよくエリナを押し倒してしまった。
「……アシュレイお姉さまは、覚えてくださったんですね」
「……お前」
私の記憶が流れてくる。私は一度だけ、エリナに会った事がある。
その時とはあまりに雰囲気が違い過ぎていて今まで気付かなかったが、私の記憶は一度だけの出会いをしっかりと覚えていた。
そして私から何とも言えない感情が流れ込んでくる。青臭いなりに特別な気持ちというやつだった。
「悪霊さん。お情けをくれませんか。ずっと、お姉さまをお慕いしてきたんです。私が迷惑なら、私がお嫌いなら去りますから、一度だけでいいんです。お情けをください」
エリナはそう言った。俺が
うん。
それじゃあ、いただきます。
え? 可哀想? 何言ってるの?
抱いてって言ってるのに抱かれない方が可哀想だろ。
頭の中でギャーギャーやかましい割に抵抗しなくなった私にそう言って、俺はエリナとソファーでニャンニャンし、その後部屋に備え付けられているシャワールームでニャンニャンし、それからルームサービスで昼ご飯を食べて、ベッドに戻ってからもう三回ぐらいニャンニャンした。
いやぁ、一回だけとか無理だったわ。
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