第18話形のない贈り物


 しばらく無視し続けた両親に電話している警察官の声が聞こえた知努は染子の手を引っ張り、交番から逃げ出した。


 あらゆる人間を無視し傷つけ、とうとう犯罪紛いの事までしてしまった人間が両親にどのような顔をすればいいか分からない。


 「いたっ! そばにいてあげるからもう少し優しく握って?」


 握る力を緩めながら謝り、追手が来ないところまで油断せず小走りする。今は行くあてのない逃亡者だ。


 交番から離れた場所で染子は知努の片腕へ抱き付く。幸せと不安の板挟みへなっており、気持ちがいまいち落ち着かない。


 逃げる事ばかり考えていたせいか幼い頃よく遊んでいた公園の前に来た。今ではベンチしか残っておらず侘しい場所だ。


 隣同士で楽しく乗ったブランコ、重いとからかった後、染子に拳骨を落とされたシーソー、滑っている最中に下から登って来た染子とぶつかり、泣かせた滑り台など様々な遊具は撤去された。


 子供が安心出来る環境作りのため、公園から危険な遊具が無くなる話は珍しくもない。


 しかし、幼少期の思い出が詰まった遊具のない現実は悲しかった。気づけばさめざめと彼が涙を流している。


 「暴れたり泣いたりと忙しい子ね。ほらっ染子お姉ちゃんが慰めてあげるからもう泣かないの」


 尻を指先で揉まれている知努は、実の弟へ染子が同じような事をしていないか心配になり、泣き止んだ。


 休憩するため、知努がベンチへ腰かけると染子は膝の上へ座り、口元を緩めながら見下ろしていた。


 彼女の肩にかけるために学生服を脱いだ知努は、ある悪戯が思い浮かぶ。ちょうど色と大きさは似ている。


 学生服を染子の頭へかけてからニュース番組のアナウンサーのような口調で誰かに説明した。


 「強制性交罪の疑いで逮捕されたのは市内高校へ通う鶴飛染子容疑者です。警察の調べによりますと 云々うんぬんかんぬん」


 逃げられないように染子は両手を首の後ろへ回してから口づけし、舌を搦め取って無理やり黙らせる。


 心地よさに顔が赤くなるも知努は膝裏へ腕を入れてから立ち染子のスカートがめくり上がっていた。


 冷たい風が白いインナーから露出した鼠径部へ当たる事に気を取られながら彼が敏感な上あごの窪みばかり舐められ、何度も腰を震わせる。


 数分が経ち、ベンチへ座っている知努から学生服を肩にかけて貰っている染子はもたれかかりながら抱き締めていた。


 ワイシャツだけで寒い知努も抱かれるために反っているような腰を抱く。膝へ座られる事は慣れてしまっている。


 「今日の知努はいつもの数十倍乱暴ね。腰の骨が折れたらどうするの?」


 「染子が許してくれるなら一生介助する。でも、やっぱり一緒に手を繋いで歩けないのは嫌」


 軽い冗談を愛の重さが感じられる答えで返された染子はしばらく硬直した。どこか彼の支配欲が強い傾向も見える。


 動揺していると悟られたくない染子が数日間、父親のご機嫌取りのため抱き付いたり偽りの好意を伝えたりしたと明かす。


 「思春期の女の子は父親の匂いが嫌と聞くから大変だったね。ところで僕の匂いは大丈夫ですかね」


 普段の匂いと寝汗の匂いを褒めながら染子の両手は裾から侵入して慣れた手つきで小胸筋を撫でる。


 内出血で痣が出来ているため普段より強くぞわぞわと癖になるような痛みを与えられた。


 知努より早起きする事が多いので、恐らく寝ている肢体をまさぐって遊んでいる。筋金入りの変態だった。


 知努の両親に庄次郎と知犬ちいぬを交換して欲しいと頼み2人から笑顔で断られたと語る。


 「どうして僕はペット扱い受けているの? 日頃から何故かペットみたいな接し方される時があるけど」


 答える事が面倒くさいのかワイシャツをめくり上げ、左右の小胸筋をじっくりと舐めた。


 唐突に染子がいつか親子丼か従姉弟いとこ丼を食べたいと言い出し、自宅へ近付けたくなくなる。


 人目がない時の染子は普段隠している異常性癖が垣間見えていた。それを許容する知努の嗜好も大概だ。


 「100歩譲って従兄妹丼はいいとして親子丼だけは絶対にやめてね。家庭崩壊するから」


 「でも知努はそういうのが好きなんでしょ? タンスの引き出しの中にそんな漫画を隠してあったけど」


 中学生の時にコンビニをハシゴして買った不健全な漫画はとうとう見つけて貰いたくない人間が発見してしまった。


 人目が付かないように引き出しの底へ置き衣類で隠している。性癖を知られた知努は狸寝した。


 色んな人間へ言い広めない代わりに染子の好きなところを教える取引を持ち掛けてくる。


 「美人で胸が大きくてちょっと意地悪で寂しがり屋、ウサギみたいにかわいい、優しい、ピアノの演奏が上手、お母さんに似ている所が好き」


 痣が出来ている腹部を染子に殴られた事で疲労困憊こんぱいだった知努の意識は、朦朧となった。


 すぐ強い睡魔も襲い掛かり気絶するように眠ってしまう。何か思い付いた染子が知努のズボンからベルトを外した。


 どれくらい寝ていたか分からない知努は緩慢な心地よさと両腕の違和感を持ち、ゆっくり双眸が開く。


 両手を首の後ろへ回した状態で手首がベルトに緊縛されており、この状態のまま何かされたようだ。


 膝へ座って覗き込んでいる染子が抱き締めているため身動きを取れない。先ほどより染子の体は熱くなっている。


 「ううっ今日だけで器物損壊、傷害、公然わいせつの3つもしてしまった。染子のバカッ」


 寝ている人間の身体的自由を奪い公然の場で淫らな行為へ及ぶ事は刑法に抵触していた。


 性犯罪で前科が付く事は知努にとって1番避けたい処遇だ。傷害罪や器物損壊と違い一生周りから軽蔑される。


 「どれもションベン引っ掛けたようなものじゃない。大好きなパパちゃまの力でどうにかできるでしょ?」


 「えぇぇ、全然違うんですけどね。それに染子ちゃんは刑法193条公務員職権濫用罪を知っていますかね」


 都合が悪くなった染子はまた口づけで抵抗出来ない知努の唇を塞ぎ大人しくさせた。とても両親に見せられない痴態だ。

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