第10話数合わせ
昼休みが始まってから20分程経過し、知努は教室へ戻っていた。そろそろ昼食を食べなければならない。
知努が座っていた席は男子生徒に使われており、置いている彼の弁当を食べていた。一瞬、見間違いと思い、確認するも覆らない。
横の席へ座っている友人らしき男に、不味いという感想を漏らしている。幼稚園児ですら他人と自分の物は区別していた。
冷凍食品や白飯で構成されている弁当は何を比べて言っているか分からないが、不服な味なのかもしれない。
しかし、盗人が文句を言う権利はなかった。いつの間にか教室がスラム街並の治安となっており、油断出来ない。
空腹のあまり、腹の虫が鳴りながら知努は虚しくなった。まさか早朝に苦労して作った弁当を盗まれると思っていない。
友人の慧沙が盗人に話しかけ、今日開催するコンパの話をする。女子の恋愛対象に入らない小太りの男ですら招待されているようだ。
「あっ知努ちゃん、男性陣の集まりが悪いからコンパに来ない? 染子とかハーフ美人のハッセさんも来るよ」
「マジかよ。俺、ハッセさんタイプなんだよ。今日のコンパでコクってみるか 」
盗人が不愉快な声を上げながら振り向いた途端に、知努は椅子の背もたれへ前蹴りして屈ませる。
「おう兄ちゃん、次、粗相したら、ドッグフードにするぞ」
気が立っている彼はわざとダミ声で机と椅子の間に体を挟まれ、苦しむ盗人を脅した。
何度も知努をからかって遊んだ慧沙もこういった嫌がらせはされていない。愛らしい顔立ちに反して、脅しが苛烈だった。
まだ人間の形態を保ちたい小太りの男は、肩を震わせながら沈黙してしまう。
「行きたくない。どうせ行っても悪口言われるだけだ」
知努を呼んだ事で、コンパが台無しになってしまう事は安易に想像出来た。
食べ終わった弁当箱を回収する為、彼は入学してから初めて染子が所属している教室へ行く。
染子へ作った弁当は4つの中で一番手間暇かけており、どういう感想が出るか楽しみだった。
教室の扉を開けると、どこも変わらず賑やかな光景が広がっている。すぐ近くの席に染子は座っていた。
寡黙で人を寄せ付けない印象があった染子は、食事しながら2人の女子生徒と話している。教室に馴染めず、横暴な態度を取っている知努より社交的だった。
ちょうど弁当箱の2段目に入れてある彼女の好物である鶏そぼろと卵そぼろを食べている最中だ。
「噂をすればなんとやらね、これがカマホモ料理長の
名前だけ訂正してからか細い声で再度自己紹介し、女子生徒から何故か握手を求められる。
不思議に思いながらも彼が応じると、その女子生徒に鶴飛千景と交際しているのか訊かれた。情報の広がりは早い。
広義的な意味合いでは肯定するが、まだ恋人関係になっていなかった。
「付き合ってない。それより9歳差しかないけど染子の叔母なんだから染子が説明してやれよ」
「交際疑惑の知犬から話した方が面白いと思ったからよ。さすがカマホモだけあって美味しいわ」
愛情込めて作った鶏そぼろや卵そぼろを褒められて思わず、猫撫で声になりながら喜んだ。
染子がカバンから今朝使っていたラッパを出した。そして、適当な演奏を命令する。
咄嗟に指示され、何も考えていなかった知努は、自衛隊の駐屯地で使われている食事ラッパを吹く。
吹き口を通して、間接的に口づけしているとからかわれるが、何度も口付けしている仲だ。
自衛官が一番聴きたくない非常呼集ラッパを吹いて、周りの視線はこちらへ集まった。
物珍しいのか、生徒達は次々と知努へスマートフォンを向け撮影する。こうして不特定多数の見世物にされた。
誰かに蔑まれたり、嘲笑われようがその人間の価値は変わらない。日頃、周りから怪奇の目を向けられている知努の父親の言葉だ。
スマートフォンの画面からこちらを見ている大衆は思考が働いていない。ただ受動的に撮影しているだけだ。
その様な人間の行動を気にしていては仕方無い。父親の言葉がいつも助けになっている。
机の端へラッパを置くと、また知努の腹の虫が容赦無く鳴ってしまう。
「もしかして自分の分を忘れたのかしら? でも確かカバンの中へ入れていた気がする」
「コラ見ていたみたいな言い方やめなさい、持って来ていたけど、目を離していた隙に野良豚が食べたんだよ」
昼食を食べなければ良い千景の旦那様へなれないと、染子にからかわれながら食べさせてもらう。
普段の癖で屈んだ際に髪を耳へかけてしまったと気づき、目が泳いでしまう。
染子が餌付けしている様子を羨ましそうな表情、で生徒達は見ている。すっかり有名人のようだった。
あと2口ほどでそぼろ飯を食べ終わる状態になり、見つめながら染子は質問する。
「今日のコンパ、女子の数が揃わなかったみたいだから、もちろん来るわね?」
適当な理由を付けて断ろうとする薄情な知努の口へ箸を入れた。そして、舌や上顎の溝に擦り付ける。
生徒達の前で辱められ、必死に我慢するも従属を植え付けられている知努の体から抵抗する力が失われた。
知努は頭を縦へ振ってからゆっくりと座り込む。さすがの女子生徒も心配そうに見つめていた。
興が乗ってしまった染子は、目的を果たした後も知努の口内で遊んでいる。
「エッチなイタズラするなんてサイッテー、もう染子なんて知らない」
箸を口から抜かれた知努の口角は、見ていた女子生徒が頬を赤らめる程、色付き、涎を垂らしていた。
刺激された快楽の余韻のせいで目を開けられず、すっかり染子の良いように扱われている。
「そんな事、言って本当は嬉しかった癖に。もう少し遊んであげるわ」
両手で持ち直した箸を知努の口内へ侵入させ、先程より素早く動かし遊んだ。予想以上に心は脆く、強い快楽と恥ずかしさに耐え切れず知努が年甲斐も無く泣き出した。
叔母の千景と同じく乱暴な事で知努を傷付けてしまい、染子は急いで慰める。
ふと彼女の耳元に自分の声に似た悪魔の囁きが聞こえ、なかなか見られない知努の泣き顔を写真へ納めた。
予想より彼の精神的負荷が大きく、無言のまま涙を流し、泣き続けて彼女ではどうしようも出来ない。
学校にいる彼を熱烈に愛していた女子が知ると、鬼の形相で怒って来る為、仕方無く友人の里美を頼った。
連絡してすぐ来た里美と一緒に知努を宥めて、ようやく泣き止み安堵した後、染子はこっぴどく怒られる。
彼女の背後に小柄な女子生徒が忍び寄り、両手をスカートの中へ入れて、膝まで緑色の下着を脱がす。
「おい! おい!」
怒りのあまり、染子は太く低い声を上げながら振り向くが、既に逃げられていた。
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