124話 ルーカスの悩み

 頭に血が上って何も考えられなくなったのか決闘などと言い出した。周りの学園生たちがざわつき出している。挑発した俺が悪いのか? ………ちょっと悪い気がしてきた。騎士団長が動き出したが、手を広げて動きを止める。


「俺が勝ったらここで土下座しろ!」

「ああいいよ。どうせ勝つし。おい、お前審判やれ。早速始めよう。癇癪起こしたガキはとっとと黙らせるに限る」


 ルールなどは決めてないが始めてしまおう。すぐ終わらせよう。こんな冷静さのかけらもなしに戦おうとするやつなんぞ敵じゃない。


「本当にいいんだな?」

「さっさと始めろ」


 確認されたがさっさと始めて欲しいものだ。サービスで殺気は出さずにいるんだ。殺気を出すとまた騒ぎになりかねんからな。


「……わかった。そっちも準備はいいか?」

「はい!」

「では………始め!」

「ぶっ!」


 始めと同時に俺は一気に距離を詰めて顔面を殴っていた。それこそ相手が反応できないほどの速さでだ。そこからさらに連撃で顔面を3発殴って一度距離を取る。これだけでもう勝ちは決まったようなものだがさらに追撃する。相手はそのまま倒れ込んでいたが一発顔面を殴って地面に叩きつける。叩きつけるとと相手は動かなくなった。


「う~ん……やりすぎたか?」


 アキトはちょっとやりすぎたかなと反省した。ピクピク動いているからすぐにまあいいかと考えを改め、そういえばこいつ何て名前だっけか? などということが頭をよぎっていた。


 審判の講師が近づき確認する。


「言うまでもないが君の勝ちだ」

「だろうなぁ。一応治癒魔法かけておくかぁ。放っておいたら死ぬかもしれんし」


 そう言って治癒魔法をかけて治してやる。さすがに死なれるのはなぁ。手加減したけど殴りすぎたとは思う。でも生きてるからいいか。


 シエラたちの元に戻る途中で気付く。見ていた学園生が軒並み唖然としている。中には少しニヤついてるやつもいるが………宰相の娘の………コレットだったかな? コレットは口に手を当て必死に笑いを我慢していた。あいつは相変わらずだな。というかニヤついてるやつはあいつが迷惑だったんだろうなぁ。


 そして戻ってきたのだが………シエラが怖い笑顔をしている。何故だ? かなり手加減したんだが……


「アキト。やりすぎ」

「どこかの街での決闘よりは手加減したよ!」

「一発でよかったでしょう?」

「近い! あのくらいしないとわからないと思ったんだよ!」


 顔を近づけて俺を責めるシエラ。これは帰ったら叱られるコースだ。ちゃんと手加減したのに! 横で王女リリィが笑いを堪えてるのが腹立つ!


 シエラとやりとりしていると姫さんと騎士団長が俺の元にやってきた。


「さすがは私のアキt 「ふん!」 この!」

「アキト殿。愚息が迷惑をかけて申し訳ない。依頼料は後ほどお渡しします」

「ちゃんと教育されることを祈る」


 騎士団長じゃ難しいだろうから、外部の誰かに頼んだ方がいいと思う。


「やっぱりアキトは強いのね~」

「まさかここまでだったとは……」


 二人も驚いている。王女リリィは模擬戦でわかっていたみたいだが王子ルーカスは改めて知ったというよりは予想を超えたといった感じだ。


「ねえアキト。アキトが倒した彼と私だとどっちが強いかしら?」

「何でもありなら王女リリィ。お行儀の良い決闘ならあいつだろうな」

「ん。ありがと。参考になるわ」


 何の参考かはわからないが参考になるならいいか。


 その後、学園での授業体験はこれで終わりとのことで少し早いが今日は城に戻って終わりだそうだ。明日が最終日だからかヴィクトリアンのほうでも打ち合わせがあるそうだ。なので今日はもう終わりだ。早々に家に帰ったのだが、家に着くなりシエラに叱られた。解せぬ…………










 ルーカス視点


「は~………サンドリアス観光も明日で終わりね。明日は気ままに街中を歩いてみましょうか?」

「そうですね。僕は姉上に付いていきます。僕はこれといってないので」

「じゃあそうさせてもらうわ。行きたいところがあったら言うのよ」

「はい」


 共に来ている外交使節団の者たちとの打ち合わせを終えて、明日の予定を話し合う二人。予定と言ってもどこに行くかなど特になくただサンドリアスの王都をもっと自由に見てみたいだけだった。


「自由で楽しい日があと一日だけだなんて………また堅苦しい生活に戻るって思うと憂鬱だわ」

「でもアキトたちと出会えました。それだけで十分価値があります」

「私もシエラたちと仲良くなれてよかったわ。何も気にせず話せる相手なんていないもの。ルーカスこそ、アキトとは仲良くなったんでしょ?」

「はい。本当にアキトに出会えてよかったです。歳が近くあそこまで身分を気にせずに話してくるのはアキトしかいませんから」


 主に下ネタの方面で仲良くなったことはさすがに姉上には言えないが、仲良くなったことは事実だ。ルーカスは歳の近い同じ巨乳派の仲間を得たのだ。


「仲良くなったようで何よりだわ。それで……悩んでたことは………解決した?」

「いえ………それはまだ…」


 王子ルーカスはサンドリアス王国の視察で自分の生きる上でのきっかけを見つけられないかと思っていた。自分が何をしたいのかわからない。要は自分探しのようなものだ。王族という立場もあって、自分に何ができるのかということと、自分が何をしたいのかという二つがせめぎ合って自分がわからなくなっていた。


 昔は漠然と国を良いものにしたいと子供ながらに思っていた。だが成長するにつれそれがわからなくなってきた。周りの貴族たちは時期王の派閥争いに必死に自分を利用しようとしてくる。魔法への適正数が多いから優秀と思われているみたいだ。どういった風に利用しようとしているのかはわからないが利用しようとしていることはわかった。連日そう言った大人たちに言い寄られ、さらに学園では貴族の子息たちにもそういった話題を出される。へたに何か言ってしまえば派閥に加担していると取られてしまうからろくに喋ることもできなかった。


 王族の女性なのに剣術に生きる姉上は自由気ままの変わり者だからと言い寄ってくる貴族はいないらしい。自分もそうできたらどれだけよかったか。どうして自分は姉のように出来ないのかといったことや周りの環境や葛藤がストレスとなっていた。


 そこへちょうどサンドリアス王国への視察があった。大国のサンドリアス王国へ行けば自分が変わるきっかけでも得られないかと淡い期待を抱いていた。姉上がサンドリアス王国に自分との連名で変な依頼を出していたと聞いたのは道中だ。聞けば春には出していたらしい。


 理由はヴィクトリアンの堅苦しい護衛たちと居たくないから。それだけだった。聞いたときは心底呆れた。でもよくよく考えれば良いのかもしれないと思った。自分もヴィクトリアン王国という縛りから解放されて視野が広がって何かに気付けるのではないかと。自分の道を見つけられるのではないかと。そう思ったのだ。


 結果として姉の歳が近く身分や立場を気にしない強い護衛という無理難題を満たす者をサンドリアス王国は用意していた。しかもありえないほどの強さを持った自分と同じくらいの身長のエルフの少年だった。珍しい黒髪で黒と青のオッドアイという目立つ見た目で、謁見の間で会ったときはもしかしてと思って見ていたらいきなり姉に剣を突きつけていた。しかも全く動きが見えなかった。自分は剣術はダメだがそれなりに騎士たちの動きは見てきたし模擬戦も何度もしてもらったが、比べることが出来ないくらいに彼は強かった。そして頭がおかしい狂人だった。


 国王陛下には敬語を使わないしオヤジと呼ぶ。ヴィクトリアンの騎士を殴り飛ばす(これはヴィクトリアンの騎士が悪い)。姉上に腹パン。魔導連接剣を初見で姉上以上に使いこなす。いきなりおっぱいの話をしてくる(これは楽しかった)。など本当に要望通りの者だった。


 そしてアキトと話すのはとても楽しかった。身分関係なしに話すのがこんなに楽しいとは思わなかった。これほど友達になりたいと思った相手は初めてだった。


「ならアキトに相談してみなさいよ。ルーカスの取り巻きたちと違ってちゃんと答えてくれるわよ」

「取り巻きと言われても……彼らが勝手にいるだけで…それにアキトに聞いても………」

「アキトならわからなくてもちゃんと言えば考えてくれるわ。そういう子だったでしょ?」

「……そうですね。試しに話してみます。そういう時間があればですが」

「そうするといいわ。じゃあおやすみ~」


 そう言って姉上は自分が貸し与えられている部屋に戻っていった。


「何か………きっかけを得られるといいが……」


 ルーカスは明日の楽しみと不安を胸にベッドに横わたるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る