123話 地獄の学園見学二日目
翌日も地獄の学園だ。いつも通り防具をフル装備して出かける。城に行ってから移動だが、その際に
一方、フェリスは姫さんにパワーボムをお見舞いして悶絶させていた。いったいどこで覚えてきたのだろうか。
城を出る前にヴィクトリアンの騎士が声をかけてきた。
「アキト殿。今日も殿下をよろしくお願い致します」
「おう。ちゃんと仕事するさ」
「…ねえ………あなたたちいつそんな仲良くなったの?」
「ただ同士だった。それだけだ」
「それだけでございます」
「………聞かないほうがよさそうだから聞かないわ」
男の好みの話だからな。聞かれても話す気はない。
そして地獄の学園に来たわけなのだが………学園に入り、昨日と同じように学園長と護衛の学園生が来たのだが……昨日俺が殴り飛ばした騎士団長の息子が俺の眼の前で土下座している。すでに帰りたいんだけど?
「今日は体験授業だったな? 早く行こうぜ」
「あ~…すまんが……話を聞いてやってはくれぬだろうか?」
「どこに話したい奴がいるんだ? 俺には見当たらん。はやく教室に行こう」
「頼むから視線を下げて聞いてやってくれんか?」
「視線を下げろという依頼か? すまんが、指名依頼を受けられるランクじゃないんだ」
俺は現実逃避をするように視線を上に向けている。学園長は俺より背が30センチ以上高いだろうから自然とそうなるのだ。誰かと話すときに顔を見ずに話すわけにはいかないから視線を下げるわけにはいかないのだ。
「…アキト……さすがにちょっと可哀想だわ。ちょっとだけ聞いてあげましょ?」
「………シエラが言うんなら仕方ない。おい。そこの土下座してるバカ。父親に言われて土下座してるの丸分かりだからな? お前みたいな見かけで判断する傲慢で調子に乗ってる奴が昨日の今日で改心するなんて思わねーんだよ。お前と同じ教室で学んでる学園生が可哀想だ」
「………昨日は大変申し訳ございませんでした」
「言い出す前の間が嫌々言ってる感半端ねーわ。話は終りだ。姫さん。さっさと教室行こうぜ」
「あ…はい」
有無を言わさない俺に姫さんは少し慌てたように歩き始める。学園長が大きいため息を吐いていたが知ったこっちゃない。教室について学園生に紹介されて、昨日と同じように俺たちは教室の後ろで立っている。ここからが地味に辛いが何とか3時限分耐えた。シエラとレイは少し疲れたような顔をしているがフェリスはそうでもないようだ。本好きだから知識を得るのは好きなんだろうな。といっても簡単な魔法学と四則演算だったぞ? 俺が教えたるぞ?
学園の食堂で昼食をとった後も
「あの…アルフィーネ殿下。サンドリアスでは女性も体術の訓練をするのですか?」
「え? 男女問わず体術の訓練は受けますよ。簡単な護身術もありますし女性も体は動かします。動かないのは体にも良くないですから」
「………そうなんですね。ヴィクトリアンの貴族女性は女性らしくお淑やかにみたいな風潮があるので体術の訓練などは学園ではないんです」
「そうなのですか? リリーナ殿下は剣術を学んでおられるので意外ですね」
「ヴィクトリアンだと私みたいに体を動かしたがる貴族女性のほうが珍しいんです。でも少数ではありますがいるにはいるんです」
「お国柄……というやつでしょうか。体を動かすのは健康にもいいはずなのですがね」
「多少は動かしますけど体術のようなことはしませんね。女性にも体術は必要だと思うのですが……これは帰ったら何かしないといけないかしら。サンドリアスには女性騎士も多いですし……」
「男性ほどではありませんが女性騎士も騎士の3割くらいは女性ですね」
「羨ましい……」
姫さんの言うようにお国柄だなぁ。前世でも女性の社会進出やら男女差別がどうこうとかあったけど、サンドリアス王国はかなり平等な感じなんだよな。その代表として護衛についているサフィーなんか良い例だろう。しかもサフィーは貴族の娘だ。要人の護衛に抜擢されるくらい優秀だというのもあるんだろうけど女性進出の良い例だと思う。
対してヴィクトリアン王国は女は女らしくしてろってことか。向こうは男尊女卑がキツそうだな。
お国柄を考えていたら体術の講師らしい人族とのハーフエルフっぽい男が騎士団長と一緒に来た。
「よし! 揃っているな。体術と剣術の訓練を開始するぞ! 今日の訓練は騎士団から騎士団長であるハインズバイト卿が指導として来ていただいている」
「今日はヴィクトリアン王国から王女殿下と王子殿下がいらしているということもあり私が来ました。たまにしか来れないが、今日は学園生に手解きできたらと思っている」
たまにしか来れないってことは騎士団から学園生に指導に来るなんてこともしてるっぽいなぁ。指導体制も整ってるんだな。体術だけじゃなくて剣術もやるみたいだし、技量の高い人に手取り足取り指導してもらえるのは良いことだと思う。俺は師匠とひたすら模擬戦と真っ直ぐ振れと言われ続けただけだったなぁ。
「サンドリアス王国は騎士団が指導にくるのね……これは見習わないといけないわね」
「姉上、これは早急に父上に提案すべき内容です。騎士候補の学園生に騎士が指導して貰えるのは学園生は嬉しいでしょう」
「そうね。まったく……兄上はサンドリアスで何を見たのかしら………」
「馬鹿な貴族が面倒くせぇってやってねぇだけじゃねぇか?」
「………ありうるわね」
「ないと言えないのが悲しいな………」
「冗談だったんだが………」
そうこうしているうちに二人一組で訓練をするそうだ。え? 俺? やんないよ。ワイは護衛やで? 二人一組にトラウマなんかない!
すでに型のようなものがあるのか訓練に入っている。俺たちは
「君が冒険者で殿下たちの護衛についている者かね?」
「見ればわかるだろ?」
何だこいつ? 俺に絡んでくるんじゃねぇよ。しかも何見下したようにニヤニヤしとんねん。手合わせどうこうとか言ってくるじゃねーぞ。
「冒険者ならさぞ体術にも自信があるのだろうと思ってな。どうだ? 私と組手の実演を…」
「死にたいのか?」
予想通りのことを言ってきたので5割程度の殺気を放つ。殺気を放つと驚いたのか二、3歩下がり震えて動かなくなった。尻餅をつかなかったことは評価できる。何歳かわからないがさすがに講師を務めるだけはあるかな。表情が怯えているのはなんとかならんかな。
「アキト。だめ。大人しくしなさい」
「………舐められるわけにもいかないからさ」
「気持ちは分かるけど、皆驚いてるから」
シエラに言われて殺気を出すのをやめて周りを見ると皆こっちを見ていた。何人かはすでに逃げ出していた。文句はこの講師に言ってくれ。俺は悪くない!
「アキト殿……抑えていただけませんか? 今は学園生たちの訓練中ですので」
「文句はこいつに言ってくれ。護衛を護衛対象から離そうとするのも問題だ。暗殺者の可能性もあるかもな」
「……申し訳ございません」
気まずそうに講師の男が騎士団長に頭を下げている。俺に下げるもんじゃね?
そんなトラブルがあったものの訓練はその後何も問題なく進んだ。
このまま終わるかと思っていたが、最後に騎士団長から俺に個人的な依頼が来た。その内容は息子と模擬戦をして欲しいとのこと。叱られただけでは納得出来ずに昨日俺に殴れられたのも不意打ちが原因だと納得していないらしい。不意打ちだから言い訳するのもどうかと思う。俺がナイフでも出していたら死んでいただろうしな。
「いろいろと突っ込みたいんだが?」
「仰ることももっともです。まさか私の息子があそこまで愚かだったとは思いませんでした。愚かゆえに口で言ってもわからないのです。金貨一0枚でいかがでしょう?」
「金持ちは金の使い方が違うねぇ」
「息子のためと思えば安いものですよ」
「金で教育するのもどうかと思うがね。まあ受けてやるよ。俺が
離れてもいざという時にはフェリスの結界がある。むしろ離れている間透明な結界を張ってもらうか……とっさの動きに対応するのが難しいからしなくていいかなぁ………俺もすぐ動けるしなぁ。
「ありがとうございます。では、皆の前でやってもらいたいので場を空けます」
「金貨一枚追加な。この場でとか後から条件追加すんな」
「……申し訳ない」
「どうやら父親のほうが原因らしいな。まあろくに教育もできん剣術バカだから当然っちゃ当然か。お前が何歳か知らんがまだ16のガキに言われることを恥と思え。わかったらとっとと準備させろ」
薄々気づいていたが、元々の原因はこいつの教育不足なんだよな。王族や貴族ってのは教育が下手くそなのかねぇ。と言っても俺は子供を育てたことなんてないから俺が言えたことではないが、姫さんやバカ王子とか、ヴィクトリアンの第二王子とか今から模擬戦する騎士団長の息子とか見てるとそう思ってしまう。どんな教育なのかわからないけど、もう少し何とかしたほうがいいんじゃないかと思う。
すぐに学園生たちが場を空けて模擬戦を出来る状態になった。フェリスにいざという時は結界を使って守るように指示を出しておく。結界という言葉を使うと誰かに聞かれるとまずいから結界という言葉は外では使わない。学園生には獣人もいるからどこで聞かれるかわからない。そういう風に打ち合わせしておいてよかった。
「アキト。手加減しないとダメよ?」
「いや……さすがに手加減するよ。そんな心配しないでよ」
「だってアキトってあーいう言うこと聞かない『子供』は嫌いでしょ?」
「まあガキは嫌いだけどさ。ちゃんと手加減するってば」
「ちゃんと手加減するのよ」
「シエラ、世話の焼ける弟に苦労するお姉ちゃんみたいよ?」
いつの間にか相手の準備は整っていたようですでに空いた場所に立っていた。なので相手の5メートルほど前に移動する。
「それでは、これより模擬戦を始める。両者準備はいいな?」
「いつでもかまいません」
「何時でも構わん。早く終わらせよう」
いつの間にか戻ってきていた講師が審判を務めるようだ。相手は訓練用の刃を潰した剣を構えていつでも戦えるといった様子だが、一方の俺は防具をつけただけの状態で刀は持っていない。手甲だけで十分だ。
「いや……剣は持たないのかね?」
「徒手空拳で十分だ」
「ふざけるな! 俺相手に剣は要らないというのか!?」
「そう言ってるだろ? やっぱりバカか。だから不意打ちされても言い訳するんだな。俺がナイフ持ってたら死んでただろうよ」
俺がヴィクトリアンの騎士にされたように避ければ別だが、こいつは普通に殴られてたからな。防具をつけれいればまた変わっただろうが防具すらつけていなかったしな。それにこいつ………多分
「貴様! どれだけ俺をコケにする気だ……」
「どれだけって言われると全部だな」
目の前にい騎士団長の息子は顔を真っ赤にして震えている。怒りで頭が爆発すんじゃなかろうか。ウケる。中指でも立ててやろうかな。
「きっ! 貴様! ………今ここで貴様に決闘を申し込む!」
「は?」
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