120話 姫さんの本性?
ダラけていると家の扉がノックされ、ミルファが出ると騎士団長だった。
午後からは
城の裏門となる北門に着いたので俺と
「じゃあそっちは任せるよ。何かあったらすぐ行く」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「まあ何か起こるとは思ってないけど一応ね」
言った後に気づいたが自分でフラグを立ててしまった気がするな……気のせいだと思おう。
さっそく
訓練で良い感じに交流しているのかなと思ったのだが、模擬戦をしている騎士たちを見るとヴィクトリアンの騎士がかなり押されている。しかもサンドリアスの騎士はかなり余裕がありそうだ。向こうの騎士が弱いんだろうか? あまりサンドリアスの騎士が強いイメージ無いんだよなぁ。昔姫さんを助けた時に盗賊にいいようにやられてたからなぁ。
「やっぱりサンドリアスの騎士は強いわね」
「そうなのか?」
「ええ。やっぱり年季が違うもの。種族の差はやっぱり大きいわ」
「ああ、そういうことね」
単純に騎士をやっている期間の差が出ているようだ。エルフや獣人は人族よりも圧倒的に寿命が長い。若い期間も長いから体を動かせる時期が長いからだろう。長命種はその間訓練を続けていたり、実戦を経験しているのだから差が出て当然か。言わば百戦錬磨と言ったところだろうか。昨日宰相に聞いた”見せつける”ことにこれも含まれてるんだろうな。
対して人族は若い期間が短い。体を全力で動かせるのは精々40歳くらいまでだろう。長くても30年間と言ったところか。俺のように頭のおかしい修行をしていない限り短期間で強くなどなれない。むしろあんな修行の仕方をやっていたら体が持たない。むしろ体の前に精神が壊れてしまうだろう。改めて思うが俺はよく耐えたと思う。師匠みたいに目の前に極上の人参をぶら下げ続けてヒモにでもしない限り耐えられないだろうな。もしくは俺がシエラたちにしている修行のように危険がないようにして、内容も現実的なものにして尚且つ目の前に人参をぶら下げてヒモにでもしない限り無理だろう。
それと修行の内容も重要だ。身体強化を寝る時以外使い続けるなんて誰も思いつかんだろう。一般的に魔力をほぼ空になるまで使い続ける魔法で時間も効果時間も短くて良くて二~3分、身体能力も良くて3~4倍程度だからな。垂直跳びを一メートル飛べるとしても3メートルだ。前世の感覚からしたら凄まじいが俺はもっと跳べるからな。しかも反動で疲労と魔力切れで動けなくなるからな。最終手段とも言える魔法を寝る時以外使い続けるといったことなど誰もやろうと思わないのだ。もっとも、師匠のやり方は魔力制御で全力を出さないやり方だから疲労と魔力切れは体力と魔力があれば起こさない内容だ。
「俺としちゃサンドリアスの騎士が圧倒してるのが不思議だ。サンドリアスの騎士が強いっていう印象がないんでな」
「それはアキトが強いからでしょ~。だってあの騎士団長のシルベルト殿を赤子扱いできるほどなんでしょ?」
「まあそうだが………強いと思わない理由もあってな。かくかくしかじか」
俺は姫さんを助けた時の状況を簡単に説明した。
「それは確かに……盗賊に圧倒される騎士って………でも盗賊が強かったんじゃない? だって王都の近くでそんなことできる盗賊でしょ? 強くないとできなくない?」
「言われてみるとそうだなぁ。強い盗賊だったのかなぁ。う~ん………」
「きっとそうよ。それより私たちも始めましょ。向こう空けてくれてるみたいだから」
「失礼します。騎士団長より話は伺っております。こちらの空いている場所を訓練にお使いください。ヴィクトリアン王国の方から魔導連接剣を預かっておりますので、すぐにお持ちいたします」
「ありがとう。お気遣いに感謝します」
話しかけてきた騎士に満面の王女スマイルを振る舞う
「なかなかの猫かぶりっぷりだな」
「王族は大変なのよ~」
「この国の姫さんは嘘泣きに関しては達人だぞ。王女ってのは自然とそういうの覚えるもんかね」
「…………ふ~ん。まあ…覚えるでしょうね」
何か変なことでも言っただろうか? どこか
「じゃあ始めるか。言っておくけど俺はこの間初めて魔導連接剣を触ったばっかりだからな。上手く教えられるかわからん。正直な話、手探り状態になると思う」
「初めてであれだけ使いこなせるのが異常なのよ。どんな風に魔力を制御して使ってるかを教えてくれればいいわ」
「まあとりあえずやってみるか。まず感覚としては鞭だな」
それから俺は
一つ一つの一節をそれぞれ別々に捉えて考えるのではなくまとめて考える。先端が伸びていくと伸びた距離に応じて一節ごとの距離も伸びていくようにと説明したのだがイマイチよくわかってないようなので実践して見せると理解したようだ。初めて使うものだから説明が難しいがこうやって見せながらやっていけば早いだろう。鞭のような感覚も使ったことがないのでわからないようだったので長めのロープでやって見せると理解したようだ。どちらかというと
「そうそう。ロープを振ってどう動くか感覚掴め。実際の魔導連接剣は魔力で浮いてるようなものだけど感覚は近いと思う」
「なんとなくわかるわ。アキトが使ってたみたいな感じを想像すればいいのね」
とりあえずロープを振らせまくって感覚をつかませる。慣れてきたみたいなので一緒に魔導連接剣を使って実践する。先に俺が振って真似をさせることを繰り返した。どうにも一節単体で考えるのがまだ抜けてないみたいで苦戦しているが少しずつではあるが出来るようになっていった。練習していると先ほどの騎士が来た。
「失礼いたします。そろそろ休憩されてはいかがでしょうか? こちらは差し入れでございます」
「ありがとう。お気遣いに感謝します」
魔力ポーションを渡して騎士は去っていった。やたらと気を遣ってくるが、やっぱり他国のとはいえ王族だからな。気を使うのが当たり前か。
「さっきと同じ台詞だったな」
「あれで大体は通るわ! ちょうど魔力も少なくなってきたし休憩しましょ」
そう言って訓練場の端にある木でできた椅子の方に歩いて行く
「座ればいいじゃない」
「ギリギリ俺ひとり分空いてるくらいじゃねぇか。俺が座ると狭いだろ」
「それもそうね」
魔力ポーションを飲み干して大きく息を吐く
「昨日夕食の時にアキト来てたじゃない。あの後なんだけどね~」
「肉はなかなか美味かったな」
「あの後アルフィーネ殿下がもの凄く機嫌悪かったのよね」
「ほ~ん」
「興味なさげね。パーティじゃアキト様アキト様ってうるさかったからきっとアキトのせいよ」
「俺の知ったことじゃねぇよ」
「まあそうよね~」
姫さんの話なんて降られても俺は答えられん。正直どうでもいいし近づきたくもないからな。すると
「……本当はこんなこと言っちゃいけないんだけど…ちょっと愚痴? 聞いてくれない?」
「まあ聞くくらいならいいぞ。共感できるかどうかは知らんが」
「アキトくらいにしか話せないから聞いてくれるだけでもいいわ」
俺くらいにしか話せないって一体何を話す気だろうか。王族嫌だーという愚痴でも言うんだろうか。確かに
「私ね~………アルフィーネ殿下……ここのお姫様嫌いだわ」
「俺も嫌いだ」
予想外にも全力で共感できる内容がきた。でも意外っちゃ意外だな。
「俺は二人は気合うと思ってたけど合わなかったのか?」
「ええ。向こうがどう思ってるかどうかはわからないけど私の方は全然合わないわ。上手く言えないけど…あざといって言えばいいかしら。素直で明るくて純粋無垢な汚れを知らない可愛い女の子で守ってあげたいっていう男心をくすぐる感じ、男にはひたすらその武器を惜しみなく使ってる。さらにそれに王族の権力が追加されてて手のつけようがないわ」
「なんとなくわかるな。嘘泣きも相当な達人だしな」
一回完璧に騙されたからなぁ。
「それはまだ見たことないからわかんないけど………見てて腹が立つのよね。うちの国でも猫被って男を誑かしてる貴族の女をたくさん見てきたからなんとなくわかるのよ。ただタチの悪いことにね……あれ多分無意識でやってるのよね」
「………そこまでわかるのか?」
「演技してると何となくわかるのよ。まあ女の勘よ。サンドリアスはどうか知らないけど向こうの貴族社会は相手の本質を察しないと足元掬われるからね。小さい頃から相手を見るってことを私は叩き込まれたせいか自然とわかるようになっちゃったのよ」
「……嫌なもんだな」
「パーティでルーカスと話してるの見てたんだけど意図してる感じが一切感じられないのよ。怪しいから他の男の人と話してるの見てたけど意図してる感じが一切感じられなくてね。見てて吐き気がしたと同時に恐ろしかったわ。こんな教育が出来るなんてってね」
「……よく見てるな」
正直
「まあほとんどが私の勘だから、どこまで本当かはわからないわ。だけど私には男を誑かすってことを無意識にやる黒い女にしか思えないのよ」
「なんというか……凄いな。よくそこまでこの短期間で見てたな」
「誰かを観察するのが癖みたいになってるの。アキトも大変よね。あんなお姫様に付きまとわれてるんだから。昨日は私がアキトと仲良くしてたからか睨まれたわ」
「手出すなってか? 睨んでくるってことは無意識じゃなくて意図してるんじゃないか?」
「それは私にもわからないわ。私の勘が無意識でやってるって言ってるだけだから。どっちにしてもあのお姫様相当腹黒いわよ」
「俺がそういう風に感じないだけかねぇ。俺の中じゃ姫さんは頭の中お花畑で素直で裏表のない性格って感じだったんだがなぁ」
「女と男じゃ感じ方は違うから仕方ないわよ」
「男女の差もあるかぁ」
確かに男と女では感じ方はまったく違う。だから俺にはわからないだけなのかもしれない。帰ったらシエラにも姫さんをどう感じるか聞いてみようかな。
男をいいように使おうと女もいれば尽くす女もいる。
「それで明日からの学園案内と体験が憂鬱なのよ。だって案内がアルフィーナ殿下なのよ。嫌悪感を表に出さないようにはするけど………はあ…行きたくないわ。露店商行けなかったから見て回りたいし、こっちの冒険者ギルドも行ってみたいし……観光させてくれないかしら…」
「俺も憂鬱だ。あの姫さんの近くにいないといけないんだからな。お互い我慢するっきゃねぇな………」
「……そうね。さすがにそこまでわがまま言うわけにもいかないわよね。駄々捏ねて観光の日増やしたんだし。謁見でも言ったけど、うちの堅苦しいのとずーっと一緒なんて嫌だったのよ。苦労したわ~ルーカスと一緒になんとかもぎ取ったの。もぎ取った甲斐は十分にあったわ」
休憩を終えて魔導連接剣の訓練中も愚痴等で話は盛り上がった。ほとんど
そういえば
「そりゃよかった。ところで
「何してるか知らないわ」
「一応こっちに来てる外交使節団? で一番偉いんじゃないのか?」
「私が一番偉いけど……興味ないもの。どうせ派閥争いに利用しようと思ってるでしょうから関わりたくないわ。面倒だし」
「派閥争いねぇ」
「ええ。私の知らないところで、私に関係ないようにやって欲しいわ。誰が王とか、今の私にはどうでもいいわ」
「将来苦労しそうだなぁ」
「いいの! ほら! そろそろ再開しましょ!」
その後も
「アキト。今日はもう終わりみたいよ」
「もうそんな時間か。そっちは何ともなかった」
「何もなさ過ぎてすごく眠かったです~」
「私は本読んでた」
「………護衛としてどうかと思うが、何ともなかったんならいいよ」
「貸切にしてもらえたんだ。だから彼女たちは暇だったんだよ」
まあ図書館で本読んでる奴の護衛なんて普通の図書館なら何もないはずだからな。それに貸切にしてもらえたんなら何も起きないよな。周りには国の護衛も配置されてただろうしなぁ。
「じゃあ訓練も今日はここまでね。ありがとうアキト。もっと練習するわ」
「はいよ。いろいろ自分で考えるんだぞ」
「わかってるわ。じゃあまた明日ね」
そう言って手を振りながら
「といっても………昨日と同じようなものでしたし、特にありません。むしろ問題は明日ですね」
「正直行きたくない。姫さんと一緒に居ないといけないし」
「まあそう言わずに。明日は私たちは学園内では護衛にはつきません。その代わりに学園生の何人かが代表で護衛に当たります」
「そういえばそうだった…さらに心配事が増えた」
「何か………あるでしょうか?」
サフィーががっくりと肩を落とした俺を見て声をかけてきた。騎士団長とサフィーは俺の実力を知っているからちゃんと接してくれるが学園生となるとなぁ……俺の見た目だけで判断しそうなんだよな。何しろ男なのに護衛対象の
「学園生が俺の見た目でどういう態度取ってくるかなってさ………髪と目が目立つうえに身長も
「ああ…そういうことですか。ふむ………私の方から伝えておくのも手ではありますが……いくら言われても実際に目にするのとでは違いますからね。ではこうしましょう。もしそういう者が居れば力を持って排除してもらって構いませんよ」
「楽でいいが……いいのか?」
「さすがに学園生にそれは……」
シエラも騎士団長の言うことが不安なようだ。俺でも不安になる程なのにいいのだろうか?
「構いません。上の者の言うことを信じなかった者が悪いのです。そういう者には見た目で判断するなということを学んでもらいましょう。それにエルフを見た目で判断するなど愚行ですから、それほど心配していません」
「そういうことならいいか」
「明日はアキト殿たちは基本的についていくだけです。見学が大半で授業体験もありますが少しだけですからね。あまり気負う必要はありません。では何もなければ今日はこのくらいにしましょう」
「明日の集合時間は今日と同じですか?」
「同じですよ。他には……内容ですので解散としましょう」
シエラも騎士団長には慣れてきたのか俺より先に時間を質問していた。特に緊張するような相手でもないからいい傾向かな。特にこれから接する機会が多くなるというわけではないが貴族慣れということでいいか。
その後俺たちは家に帰った。ミルファが晩飯の準備をしている間に
「おバカだけど腹黒よね」
「シエラから見てもそうなのかぁ」
「アキトに媚び売ってるようにしか見えないわ。
「シエラはいつ頃からそう思ったの?」
「前に”銀の宿り木”で会ったことがあったでしょう? あの時にはそう思ったわ」
「…姫さんって女性目線だとそういう風に見えるもんなの?」
「凄くわかりやすいと思うわよ?」
「あれは明らかに媚び売ってご主人様を狙ってますねー」
「そういうもんかぁ………」
どうやらレイも同じように思っていたようだ。女性目線から姫さんと俺を見るとそういう風に見えるようだ。いくら俺を王家に取り込みたいからってそこまでわかりやすくしなくてもいいだろうに。それに気づかなかった俺も俺だが………
「アキトの◯ン◯ンは私が守ってあげるから安心するといい」
そういって親指を立てるフェリス。やだ…イケメン……トゥンク………なんてときめいたりはしない。◯ン◯ンという単語がなければなぁ。
「アキト今日はわかってるよね?」
「はいはいわかってるよ」
朝に了承してしまった以上5回ヤラなければいけない。明日も護衛なんだけどなぁ………頑張るかぁ………。
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