119話 家に招待

 歩いて向かっている途中にガラの悪い冒険者風の輩に絡まれるということが発生。明らかに騎士の格好してるやつが二人いるのに何故絡んでくるのだろうか。明らかにシエラ狙いだったので俺の出番やな! と思っていたら騎士団長に先を越された。話そうとして前に出て行ったところを輩が殴りかかって騎士団長に返り討ちにあっていた。さすが騎士のトップだけあってそこらの輩など相手にならないみたいだ。輩はバツが悪そうに逃げていった。


「出番取られたなぁ」

「はははっ。それは申し訳ない。次はお任せしますよ」

「次あるんかねぇ。というか無くていいんじゃね?」

「無い方がいいわよ」


 シエラの言う通りだ。無駄手間など無い方がいい。雑談しながら歩いているうちに家に着いた。


「では我々は衛兵の詰め所で食事をとりますので、一時ごろを目安に迎えに来ます」

「時計塔が見えないからわかんねぇよ」

「あくまで目安ですよ。時間をしっかり決めての観光では無いのですから適当でいいですよ」

「騎士がそれでいいのかよ…」

「こういうのはどこで手を抜いて楽をするかも重要なんですよ。ではまた後ほど」


 そう言って騎士団長とサフィーは家の斜め前にある衛兵の詰め所に入っていった。その際にサフィーがこっちを見ていたが見なかったことにした。

 俺たちも家に入ろう。中ではミルファが飯の用意して待ってるだろうしな。


「ただいま~」

「「ただいま」」

「お邪魔するわ!」

「お邪魔します」

「ただいまでーす!」

「皆さんおかえりなさいませ。お客様もようこそ」


 順番に入り最後にレイが中に入り扉を閉める。まずは靴脱いでもらうことを説明しないとな。


「うちはちょっと変わっててな。靴を脱いで入ってくれ」

「変わってるわね~。ここで脱げばいいの?」

「この箱の前で脱いでくれ。長箱の先は土足厳禁だ」


 家は脱いで入る場所と靴を履いての場所を高さ40センチほどの長箱で区切っているためわかりやすいはずだ。今更だがスリッパ的なものも用意してもいいかもしれないな。冬とか足が冷たいからな。

 王女リリィ王子ルーカスが靴を脱いで箱をまたいだのでソファーの方に案内する。


「不思議な感じだ。靴を脱いで歩くのは違和感があるな」

「そう? 私は開放感が合っていいわ」


 それぞれ脱いで歩く感想を漏らしている。ソファーに座らせて雑談しながら料理を待つとしよう。ミルファに作ってもらうように指示を出さないとな。魔石コンロも一台出しておこう。


「ミルファー。準備出来てるよな? 王女リリィたちの分から作り始めてくれ」

「準備出来てますよ。スープが少し温めるのに時間が掛かるかもしれません」

「いいよ別に。じゃー頼んだよ」

「かしこまりました♪」


 ミルファは料理好きだからか楽しそうに料理するんだよな。苦にならないのならいいことだ。


「アキト。お茶は?」

「俺がそんなもん出すと思うか? 料理ができたら水は出してやる。うちにある魔石コンロは二台とも料理に使っているからどっちにしろ無理だな」

「アキトに持て成しなんて期待しちゃダメ。お姫様が来ても何も出さない」

「そらー姫さんはとっとと帰ってほしいからな」

「ぞんざいに扱われるのも新鮮ね…」

「それはいいが…サンドリアスの民家はどこも靴を脱いで入るのか?」

「うちだけだろうなぁ。クローもリーネも珍しがってた気がするしなぁ」

「そうなのね~。いい匂いがしてきたわね…音も…焼く音かしら」


 雑談しているとミルファがスープを温めている間にハンバーグを焼き始めたのかジュウウウと音が聞こえてきた。王族ならすぐそこで作ってるなんて状況はないだろうから気になるんだろうな。まだ少しかかりそうだな。今日はちょっと暑いし冷たい水でも出しておけば王女リリィから文句も出ないだろう。コップを出し水魔法で小さい氷と水を入れて出してやると予想外にも無詠唱の方に食いついてきやがった。そういえば魔法はまだ見せてなかった。だが教えるつもりは無い。手の内を晒すようなことはしないのだ。王女リリィがうるさかったが全て拒否だ。そういうやりとりをしていたらミルファが二人分のチーズ入りハンバーグとパンにサラダを配膳してきた。スープはもう少しかな。


「お待たせしました。スープはもう少しお待ちください」

「「………黒い」」

「皆そういう反応だったなぁ…」

「皆そうよねぇ……でも凄い美味しいのよね」

「知らない人が見るとそうなる」

「でも美味しいんですよ~」

「そう……じゃあ頂くわ。命を授けていただき感謝します」

「命を授けていただき感謝します」


 シエラたちにも同じ反応したなぁと思い出す。そこまで黒く無いと思うんだけどなぁ。せめて濃いめの茶色やん? まあ食べればわかる。ナイフとフォークを出してやると二人とも行儀のいい姿勢で恐る恐るといった感じでフォークでハンバーグを抑えナイフを入れる。ナイフを入れるとハンバーグが少し潰れて肉汁が中から溢れ出す。


「うわぁ~これお肉なのね。肉汁? が溢れてきたわ」

「姉上……これ絶対美味しいですよ……」

「楽しみね」


 そう言って二人はナイフで切ったハンバーグ一切れにかけてあるデミグラスソースをつけて口に運び咀嚼すると、昨日トンカツを食べた時と同じように目を見開いて驚いたように咀嚼を続けて飲み込んだ。


「何これ! 肉の暴力じゃないの!」

「噛むと肉汁が溢れて口のなかに肉の味が広がる。さらにこの濃厚な深みのある味のソースが合う」


 二人とも止まらないといった感じでさらにハンバーグにナイフを入れると、今度はトロトロに溶けたチーズが中から出てくる。これにもビビるはず。


「あれ? 白いのが出てきたわ。何かしら?」

「食って当ててみ?」

「それがいいわね!」


 早速チーズと一緒に口に運ぶ王女リリィ王子ルーカス。咀嚼し始めるとまた驚いたように目を見開いて食べている。この組み合わせは反則だよな。


「美味しい! 全っ然わかんないわ!」

「なんだこれは…………わからん」


 ついに王子ルーカスが食レポをやめた。食レポするタイプだったんだけどなぁ。というか師匠に教えて貰った作り方だけど……ここまでとはなぁ。洋食が専門って言ってたけど食べると皆凄まじい反応するんだよな。俺も最初はそうだったしなぁ。師匠が料理広めなかった原因ってこれかな。美味すぎるから広めなかったんだろうか………今じゃわからんけどそう思ってしまうな。


「それはチーズだ。お前らの国にもあるだろ?」

「チーズかぁ。ヴィクトリアンの王都だとワインの付け合わせ用くらいにしか使われない食べ物だ。熱するなんてことは無いから全然わからなかった」

「肉とチーズって美味しいのね! 帰ったら試してみるわ」


 チーズと肉の組み合わせくらいなら別に構わんだろう。レシピを全部教えるわけじゃないしな。

 二人はパンとサラダを食べずにハンバーグを食べ続けてスープが来た頃にはハンバーグはなくなっていた。予想通りおかわりを要求してきたのでミルファに作ってもらう。スープは温め終わったみたいだから魔石コンロが空くから俺も焼こう。俺たちの分の飯も必要だからな。


 その後は皆で食事をとり畳に横になったりしてダラけていた。王女リリィも横になってきて居心地良さそうにしていた。王子ルーカスに叱られていたがこういう風に周りを気にせずにダラけられることなんて自分の部屋だけだったそうで開放感に満ち溢れているそうだ。楽しんでもらえてるなら何よりだ。

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