118話 慣れてない店

 護衛二日目。昨日と同じ時間に城に来たのだが、なぜか王妃が護衛の女性騎士と一緒に俺たちの待っている部屋に来た。


「…珍しいやつが来たな」

「おはよう。挨拶くらいなさいな」

「「おはよう」」「おはようございます」「おはようございまーす!」

「で? 何の用だ?」

「あなたに用ではありません。そちらの魔法使いの子にです。こちらへ」

「ん? 私?」


 俺じゃなくてフェリスに用があるだろ? まさかフェリスの情報が漏れているというのか? 刀出しておくか。


「武器をしまいなさい。ちょっとした依頼をするだけです。別に断ってもらっても構いません」

「部屋の端ならいいはず。ちょっと聞いてくるね」

「レイ。全部聞き取れ」

「は~い」


 レイに全部聞き取るように言いつける。王妃とフェリスが部屋の端のほうでやりとりしている。ちくしょー…依頼内容を書いた紙用意してやがったか。フェリスに紙とペンを渡して読ませている。筆談するつもりだろうか。おのれ……レイの聴力対策されてやがる。

 何か筆談していたがフェリスが何度か顔を横に振っている。しばらくして交渉がまとまったのか戻ってきた。


「終わった」

「………どんな依頼だったんだよ」

「単純。あのお姫様をアキトに依頼中近づけないようにするだけ。アキトと同じ考え」

「あなたがフィーネを嫌っているのは知っています。あなたに会うたびに腕を組みに行くようですから、先にこちらも手を打っておいたのです」

「………意味あるか?」

「学園の案内があの子ですから。明日と明後日は嫌でもあの子と過ごすことになります。お目付役のようなものです。どうにもリーネだけでは弱いですから」

「急にやる気がなくなってきたな」


 衝撃の事実だ。明日と明後日は姫さんと一緒にいないといけないらしい。ウツダシノウ。死ぬわけにはいかないから我慢するしかないか。フェリスが頑張ってくれるだろう。


「本来ならアルスターが案内をする役でした。ですがあれは今回はもう関われませんので、フィーネが代理になりました」

「……どっちにしても嫌だな」

「我慢してもらうしかありません。では私はこれで」


 そう言い残して王妃は去っていった。

 王妃としては息子であるアルスターの失態を挽回しようとしての苦肉の策だ。何もしないよりはアキトに良い印象を与えられるだろうと思ってだ。ちなみにフェリスとの交渉の結果、報酬は精力剤となるオークの睾丸剤10個で話がついたことをアキトは知らない。


「まあいいか。フェリスには頑張って姫さんから守ってもらおう」

「その代わり私は護衛免除でお願い」

「王妃の依頼で護衛対象が増えるだけだ。それに了承したのはフェリスだぞ~?」

「む~………手間賃にチンチンを要求する! 5回!」

「帰ったらな!」

「おお! 期待する!」


 ただ単に次はフェリスの番というだけである。チョロいぜ。ん? 5回って………やらかした! ………一度了承してしまった以上やらねばならん。今度からは勢いで答えるのはやめよう。


 それから少し待っていると王女リリィたちが騎士団長とサフィーと一緒に来た。


「おはよう。今日もよろしくね」

「おはよう。今日もよろしくお願いする」

「「「おはよう」」」「おはようございまーす」

「さっそく行くか。あと昨日言ってた王子ルーカスが図書館行ってる時の間に魔導連接剣の使い方教えるは受けることにした。昼飯食ってから別れるってことでいいか?」

「ありがとう!」

「ああ。それでいいよ」

「騎士団長のほうは昼飯どうするんだ?」

「我々は前にある衛兵の詰め所で食事を取ります。図書館に向かう前にこちらから呼びに行きますよ」


 騎士団長はそう言ってるが横にいるサフィーは何か残念そうなんだよな。多分食べたかったんだろうな。知ったことじゃないからいいか。

 そんなこんなで出発し、まずは魔導具店を見たいと王子ルーカスからリクエストがあった。思えば魔導具店は行ったことないな。家買った時に必要なものは明かりを灯す魔道具くらいだったし商業ギルドで買った覚えがある。だから魔導具を扱ってる専門店は行ったことがないな。騎士団長に任せよう。と思って話したら御用達のお高い店に行くことになった。


「いかにも貴族御用達って感じの店だな」

「貴族向けの魔道具店ですからね。さあ入りましょう」


 着いたのは外観も綺麗で高級感漂う魔導具店だ。モダンなとでも言えばいいだろうか。場所も重荷貴族たちが住む第一区画の商業通りだ。アキトは一応この場所は知っていたがいかにも一見さんお断りな雰囲気の店ばかりであまり好きではなかった。平民が一人で店に入って覗くだけは出来そうになかったので来ないのだ。


「何か……落ち着かないわね…」

「俺たちはこんな店馴染みないからな」

「凄く場違い感があります」


 店に入るとシエラが普段来ない雰囲気の場所だからか店内をキョロキョロ見回している。王女リリィ王子ルーカスはさすがに王族なだけあって何ともなさそうだ。一方の俺たちはこんな高そうな店には来ない。せっかくだしルーカスと一緒に見てみよう。

 店に入って騎士団長が店の人と話していた。


「挨拶も済みましたから見ていきましょうか。何かあればこちらの店主に聞けばいいですよ」

「ようこそお越しくださいました。わからないことがあれば何でもお申し付けください」


 騎士団長と話していたのは店主だったようだ。自己紹介せずにくるのは俺としては高評価だなぁ。一応王女リリィたちは王族だから金持ってるからな。互いに詮索なしですよって言われてる感じがする。俺はその方が楽だ。


 ルーカスは魔導具を興味津々に見ていたので俺も見ていたのだが………使ってる素材や見た目が豪華なだけで一般の店で売ってるものとたいして変わらなくて全然面白くなかった。話を聞いてると中身の性能が違うみたいだけど、どれだけ違うのか店主に聞いても答えは返ってこなかった。生活を便利する魔導具だけど俺はこの店にあるもの全部自分で再現出来るしな。山の中で暮らして師匠に鍛えられた結果の副産物だけど、師匠はそういうのも想定して魔法を俺に教えてくれたのかなぁ。


 だがいくつか気になったのはあった。風呂用の魔道具と洗濯用の魔道具だ。風呂用のはお湯を出す魔道具なのだがやたらとデカい。縦横二メートル、高さ一メートルくらいはある。大きい魔道具は冷蔵庫の魔道具が俺の記憶の中では一番大きかった。冷蔵庫の使用用途を考えればでかくなるのはわかるのだが、なぜお湯を出す魔道具がこんなに大きいんだろうと疑問に思って店主に聞くと技術的な問題でこれが一番小さいそうだ。魔法陣がどうしても大きくなるのだそうだ。


 洗濯機の魔道具は水と洗濯物を入れて動かすみたいだがこれもデカくて風呂用の魔道具と同じくらいの大きさだった。これも魔法陣の関係でこの大きさになってしまうそうだ。


 魔法陣を学ぶのも面白そうだからいつか学んでみたいな。この大きさを考えるとまだまだ発展させられるだろうし、エルフの長い寿命を考えるとそういうのを研究するのもいいかもしれない。将来の目的が増えた。


 店に入ってから王子ルーカスはずっと興味津々に魔導具を見ている。やはり向こうの魔導具とは違うものが多いのかな。王女リリィも意外とおとなしく魔導具の説明を聞いたり質問したりしている。王女リリィのことだから退屈そうにしてそうだと思ったが違ったな。退屈そうにしていたのはうちのレイだった。レイは体動かす方が好きな性格だからな。魔道具は使えればいいという感覚だし、うちあんまり使わないからなぁ。シエラとフェリスはそこそこ興味を持ちつつといった感じだった。


 王子ルーカスは特に設置型の明かりを灯すランタンのような魔道具がかなり気に入ったようで買っていた。他にも扇風機のような風を出す魔道具と最新型の魔石コンロを買っていった。王族がコンロ使うのか気になるが本人が満足しているならいいだろう。


 特に食いついたのは大型の魔石コンロだ。といっても弱火で鍋を熱することでスープが冷めないようにするための物だ。大きな鉄板を熱することもできるので食事中に冷めにくくなるという点に食いついた。王女リリィも食いついてすぐに購入を決めていた。いつも温い飯ばっかりだもんな。


 王子ルーカスがいくつかお買い上げして店を出ることにはもう昼前くらいの時間になっていた。お買い上げした魔道具は俺のアイテムボックスの中だ。俺は荷物持ちも兼任なのだ。


「お腹空いたわ…」

「まさかこんな長い時間いるとは思わなかったな」

「ヴィクトリアン王国の魔導具とは違って珍しくてね。やはりサンドリアスの魔導具店のほうが質が良いものばかりだった。それに珍しいものも多かった」

「ありがとうございます。職人も喜びますよ」


 予想はしていたがやはり向こうの国よりかなり質が良いみたいだ。一応この国はドワーフの国でもあるからな。ドワーフは物作りが得意な種族だから自然とそうもなるだろう。


「じゃあ次は飯か?」

「ええ! ご飯にしましょう! お腹空いてるのよ!」

「アキトの家での食事は楽しみだ」

「では向かいましょうか」


 というわけで俺の家に向かうことになった。

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