106話 謁見前のコスプレ

 城での打ち合わせから三日。今日は隣国から王子と王女が着く予定だ。なので俺たちは朝から城にきて待機している。どうやらお昼くらいに付くそうだ。シエラとフェリスはソファーでのんびりしているが、レイは窓の外を見ている。城からの景色に興味津々のようだ。シエラとフェリスも見ていたが少しするとすぐにソファーに座っていた。


 その間にフェリスに護衛の際には結界は最終手段ということを話して決めた。使うタイミングは俺が言う。


 そして待っている間暇だと思っていたら宰相がモニカと来て謁見のことを話してきた。モニカは何か服を持っている。


「オヤジが宰相にどうかと聞くからそれに対して俺が目線でオヤジを見れば了承ってことだな」

「そういうことです。私を見ているふりをしてアキト殿を見ますので合図をお願いします」

「それじゃ宰相が俺のこと見えない気がするぞ」

「大丈夫です。陛下がそのあとに何を言うかで判断します」

「なるほどね。てことは俺の位置は宰相の横か・・・斜め前くらいか?」

「その通りです。一応向こう側には帯剣を許可しますので、何かあれば好きに動いていいですよ」

「突っ立ってるだけで済むことを祈ってるよ」

「ああ、あと二つほど。刀は手に持っていてください。陛下の護衛も兼ねますからね」

「注文が多いなぁ。わかったよ。もう一つは?」

「こちらの騎士服を着てください」


 モニカが何か服を持っていると思っていたら騎士服だったようだ。それも俺用の。


「え~……」

「形式上必要なのですよ。さすがに冒険者を横に置くわけにもいきませんので」

「……しかたねぇなぁ」


 宰相がいい笑顔で言ってくるが俺には腹黒い笑顔にしか見えなかった。


「いいじゃないアキト。結構似合うと思うわよ」

「騎士服着てるアキトは面白そう」


 シエラとフェリスも乗ってきて無理やり着せられた。その間に宰相はどこかへ行っていた。

 こういうキッチリとした服は動きにくいかと思ったが意外と動きやすい。騎士用の服だから動きやすいようにできるんだろうな。さすがに普段着慣れている服には劣るか。

 着替えてシエラとフェリスに揶揄われながら待っているとレイが声を上げた。


「ご主人様~来たみたいですよ~馬車いっぱい来ました」

「意外と早いな」

「待たなくて済むね」


 レイと一緒に城の門から入ってきている馬車を眺め終え、外をぼーっと見ていると宰相が部屋に来た。


「アキト殿。謁見の間に行きましょうか」

「すぐ謁見するんだな。休んだりしないのかよ」

「我々が準備している間が休憩時間ですよ」

「そんなに時間があるとは思えんがなぁ。じゃあ行ってくるよ。フェリス、レイ。バカ王子が来たら容赦なく排除していい。城を壊すことも許可する」

「わかった」「わっかりましたー!」

「さすがにそこまでしなくても…」


 あのバカ王子のことだから何してくるかわからんかな。念には念を入れて指示を出しておく。

 向かっている途中宰相に刀をもう出していて欲しいと改めて言われたので刀を左手に持っていく。


「何かあれば動いていいって言ってたけど、何か企んでるのか?」

「それはお楽しみですよ」

「はいはい。俺を取り込む策じゃなければいいよ。何かあれば暴れればいいしなぁ」

「この間の王子の件がありますからねぇ。さすがに何もしませんよ」


 話しながら歩いていると謁見の間に着いた。蹴破った時以来だ。宰相と一緒に謁見の間に入ると貴族たちがもう集まっていたようで、俺に気づくとざわつき出した。何これ? いくら俺が有名だからってじろじろ見られても嬉しくないぞ。ムカついたから殺気を飛ばすと静かになった。騎士団長はすでに玉座の横にいた。宰相と玉座の横にまで来て待っていると国王オヤジが王妃と姫さんと一緒に来た。


「おお! アキトよ。似合うではないか」

「お似合いです! アキト様!」

「意外と……このまま騎士になりなさいな」

「なるわけねぇだろ。俺は基本的に突っ立ってるだけでいいんだよな?」

「それで構わん。何かあれば動いていいからの」

「それが不安なんだよなぁ」


 いったい何を企んでいるのかわからんが、まあなかなか無い機会だから楽しむとしよう。立ってるだけだしな。しばらく雑談していると王子と王女が入ってくるそうだ。なので俺は静かに王子と王女を観察してよう。謁見の間が静かになると重厚な扉が開き、向こうの王子と王女らしき二人を先頭に一団が歩いてきた。

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