105話 おバカ兄妹

「はあ………スマンなアキトよ。息子の非礼を詫びよう。申し訳なかった」


 国王オヤジが頭を下げたからか宰相や騎士団長も頭を下げていた。姫さんはフェリスと取っ組み合っている。


「まあ………いろいろと考えさせられるよ。依頼は受けるって言っちまったから受けるけどよ。まあ一つ嫌味を言わせてもらうんならあいつがやろうとしたことは盗賊と一緒だ。暴力で奪うか権力で奪うかの違いしかない。使う力が違ってもやってることは同じだ。王子が盗賊やってるなんて大変だな」

「そう言われても仕方ないな。あやつにもそれは伝えておこう」

「まあ、切り替えてそっちの話しようぜ」

「そうか。感謝する。ちなみに息子はこの件には一切関わらせないことにした。その方が良かろう」

「そのほうがいいな。シエラが精神的に参っちまうからな」

「うむ。ところでパーティメンバー全員で参加ということだが…シエラは会ったことがあるからわかるのだが、横におる兎人族の子とあそこでフィーネと戯れておる娘もお主のパーティーメンバーでいいな?」

「合ってるよ。おーいフェリス。依頼の話するから姫さん放っておいてこっち来い」

「ふん!」

「あーーーーー! 痛いーーー!」


 フェリスは姫さんによくわからないプロレス技のようなものをかけていた。俺に声をかけられて強めたようだ。姫さんを放置してレイの横に座った。


「おお! 王様だ」

「名前はフェリスだ。こういう性格だから今回の依頼にはいいだろうよ。ちなみにこっちの兎人族はレイだ。奴隷だが問題ないな?」

「二人とも問題ない。では謁見当日の打ち合わせをしてしまおう」


 当日謁見中は城で待機、朝に城に来てもらう

 護衛することになったらそのあと顔合わせで次の日から城に来てから護衛開始

 基本的に案内は先方の意思を聞いて俺が場所を決める

 国からは騎士団長とサフィーが付く

 街中では私服で騎士たちが隠れて護衛

 学園内では騎士団長とサフィーは無し。代表の学園生が一緒に付く。


 とのことらしいが。


「なあ。思ったんだけどよ。向こうの国の騎士は付かないのか?」

「今のところ王子と王女は付かせる気はないらしいが、お主らが護衛と知って無理を言うかもしれんな。お主らは見た目がな」

「わからんでもない。そん時は実力で黙らせればいいか。シエラもレイも本気出せばそこらの騎士には負けん。シエラはむしろ圧倒するな」

「私も負けない」

「フェリスには近寄ることすらできねーよ。正面からやった場合だけどな」

「はっは。アキトがパーティを組んで鍛えておると聞いておるからの。別に心配はしとらんが、能力は気になるな。このあと騎士たちと模擬戦でもどうだ?」

「俺はフェリス抜きならいいと思うけど、シエラどうする?」

「別にいいわよ。アキト以外の人と模擬戦するのもいい経験だと思うし」

「私もいいでーす」

「手加減しろよ」

「む、私だけ仲間外れ」


 フェリスを外したのは単純に魔法使いだからと全適正オールエレメンタルだということを隠したいからだ。フェリスまで国に狙われかねん。


「フェリスは魔法使いだからいーの!」

「むう…」

「まあ構わん。模擬戦は後で騎士たちに頼むとして、アキトよ。当日の謁見だが、お主出てみんか?」


 国王オヤジがよくわからんことを言ってきた。謁見に出ろとか俺を取り込み策としか思えん。俺は露骨に嫌そうな顔をする。


「…俺を取り込む策か何かか?」

「政治的な思惑がないとは言えんがお主を取り込む策ではないな。むしろそんなことできんわい。暴れるお主の相手なんぞしたくないわい」

「じゃあ何なんだよ」

「お主が護衛と案内をするのだから相手を見ておいた方がいいのではないかとふと思ってな。謁見で見てお主が断るというのならそのまま断ろうと思う。どちらにせよ馬鹿げた内容だからな」

「………まあ面白そうではある。いいよ。俺も出よう。政治の思惑が何かは知らんが俺を巻き込まない、取り込もうとしないならいい」


 出るって言っても多分たくさんいる貴族に混じるだけで何もしなくてもいいだろう。紛れるなんてなかなか出来るもんじゃないしな。


「そうかそうか。感謝するぞ。謁見中にお主に聞くのも何だ。合図を当日に決めよう。では今日はこれくらいかの」

「では、模擬戦のために訓練場に行きましょうか!」


 話が終わったからか騎士団長が元気よく提案してきた。やっぱりこいつ脳筋だな。


 全員で行くのかと思ったがオヤジと宰相は執務があるとのことで来なかった。俺たちは訓練場へ行って模擬戦をした。何人かと模擬戦したが俺がやって有意義なのは騎士団長くらいかな。剣の腕前ではやはり向こうに部がある分やっててためになる。


 シエラも木剣を借りて何人かと模擬戦していたが騎士団長以外は圧倒していた。俺と模擬戦をしているのもあるが身体強化の熟練度が上がっているのもある。段階の切り替えも早いし相手の動きにも対応できている。見た感じ切り替えは出来ているけど加減がまだわからないって感じか。そこはまあおいおいやっていこう。レイも何人かは圧倒したがまだまだ課題ありといった感じだ。二人とも来年には騎士相手なら楽に勝てるだろう。






 一方国王オヤジ達はというと………


「打ち合わせは終わったぞ。まだやっとるのか?」

「ああ、終わったのですね。関係が崩れたりは?」

「まあ機嫌は悪かったが大丈夫だろう。護衛と案内もこちらの判断で受けてくれるそうだ。ただアルスターは盗賊と一緒だと言っていたな」

「盗賊…そう言われても仕方ありませんね。奪おうとしたのですから。関係が崩れなかっただけでも良しとしましょう。ですが、彼を取り込むのはもう絶望的ね。誰かのせいで」

「………申し訳ございません」


 王妃はずっと息子の愚行を叱っていた。王家に取り込もうと画策しているアキトの恋人を権力で奪い取ろうとしアキトを怒らせてしまったのだ。長期的なプランで取り込む策を考えていたが息子のせいで全てが水の泡ときした。今年の春に帰ってきて知らないとは言え散々アキトのことに関しては報告を受けさせ、今までのことをまとめた資料も渡していたはずなのにも関わらず愚行を犯したこと。恋人同士だということもその資料には書いてあった。今回のことも説明したし取り込む策も説明していた。にも関わらずあれである。


 さらに王妃は息子が性欲を満たすために権力を使ったことにも腹を立てていた。


「まったく。アルスターがそこまで性欲を貯めていたとは思いませんでした。久しぶりに母の胸に飛び込みますか?」

「それは………性欲を満たすためではなく…」

「黙りなさい! 結局行き着くところはベッドでしょうに」

「アルスターよ。さすがに今回はワシも助けてやれん。公の場でなかったことが救いか。あとアキト達には絶対に接触するな。これは父として言っているのではない。王として言っている。これは王命である」

「………は。わかりました………」

「不満もあろう。だがあやつはそれほど国にとって大きな存在だ。騎士団全員でかかっても勝てんだろうな。ワイバーンを一人で倒しレイスまで倒してくるような奴だ。王としてアルスターとアキトを天秤にかけるならワシはアキトを優先する。父としてなら別だがな」

「私も同じです。あなたはまだ王太子ではないのです。今のままではなれないと思いなさい。あなたの代わりはいるのですから」

「………はい」


 国王と王妃は国のことを優先するなら息子を切り捨てるとはっきり言ってのけた。二人の見立てではアキトが怒りに任せて暴れていたらすでに命はなかったとみているのだ。だからこそアキトを絶対に怒らせないようにしている。アキトはまだ若くいつ暴走するかわからないからだ。いつ爆発するかわからない不発弾の様なものだ。


 二人にはアルスターとアルフィーネの他にも子供が三人いる。男児が二人に女児が一人。三人とも優秀だ。アルスターは今23歳でエルフとしてはかなり若い。人族の国で考えるならばすでに結婚し、立太子していることだろう。だがサンドリアス王国は元々長命種のエルフとドワーフの国ですぐに王太子を決める必要はなく、じっくりと時間をかけて判断するのだ。


「権力にモノを言わせればいいというわけではないと理解するいい教訓になったであろうよ。まずは自分を律することから始めよ」

「それにしても、ヴィクトリアンの魔法大学に留学させたのは失敗でしたね。まさかここまで悪い影響を受けてくるとは」

「まあ今更言っても仕方ないわい。逆に考えれば悪い点を経験できたということだ」

「はあ………そうですね」


 そこへ部屋の扉を叩く音がする。


「お父様! お母様! よろしいでしょうか!? お兄様はいらっしゃいますか!?」

「居るぞ。入ってくるといい」


 娘のアルフィーネが扉を開けて入ってくる。このアルフィーネもアルスターに負けず劣らずの問題児だ。アルフィーネにも国王夫妻は頭を悩ませている。


「失礼します! お兄様! アキト様の恋人を権力にモノを言わせて奪おうとしたと聞きました! いったい何をしているんですか!」

「フィーネも叱ってやりなさい。妹にまで言われることを恥と知りなさい」

「……………」


 アルスターは肩を落とし下を向いている。さすがに妹にまで言われるとは思ってはいなかったからだ。

 一方のアルフィーネはフェリスと戯れていただけなのだがそれについては何もない。


「お兄様は馬鹿ですか! 報告も資料も渡されていたというのにいきなり手を出すとは何事ですか! 時間をかけないとダメでしょう!」

「「ん?」」


 国王夫妻は娘の言うことがどこかズレていることに疑問を抱いた。なぜ時間が関係するのか。アキトならいざ知らず、その恋人に時間をかけることに何があるというのか。


「私がアキト様を時間をかけて落としているのですから邪魔しないでください! その恋人も時間をかけて意識をお兄様に向けさせないとダメです! 長い目で見て最終的に私の隣にアキト様、お兄様の隣にシエラさんというふうにするんです! いきなり理想通りなんていくわけがないでしょう!」

「「はあ~~~………」」


 国王夫妻は娘も叱らないといけないことに頭を抱えるのだった。

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