101話 また奴隷

 遺跡調査から約一月ほどたった。あの依頼で結構な額を稼いだがまだまだレイの戦鎚を作る金は足りない。急いでもいないからコツコツ貯めていくつもりだ。


 なんでもティルとヒルダは魔鉄製のナイフを買ったそうだ。金欠だと言っていたのは魔鉄のナイフを買う金を貯めていたからだそうだ。もう少しでBランクだというのは思っていた様で装備をいいものに変えたかったそうだ。高ランクの冒険者は魔鉄製の武器を持つのが一般的なようで持っていないと舐められたりもするらしい。


 今日も俺達は依頼を無事に終えて家に帰ってきた。俺は畳に置いてある座布団の上にうつ伏せになった。


「ああ…疲れたぁ。体力には自信あったんだけどなぁ」

「今回は疲れたわねぇ。ずっと山の中だったもの。アキトでも疲れるわよ」

「うん。ずっと山の中歩いてたもんね」

「疲れましたねぇ」


 山の中での珍しい薬草の採取依頼だったのだが、これがなかなか見つからなかった。というか見つけられなかった。だから無事に終わったわけではない。依頼には失敗し帰ってきた。幸い見つけられるかわからないと前提にあり違約金は発生しなかった。


「もうああいう依頼は受けねぇ」

「そうねぇ。ああいうのはやめましょう」

「それよりもアキト。ご飯。お腹空いた」

「お腹空きましたねぇ」


 フェリスが俺の上に跨り揺らしてご飯をねだっている。家では食事を作るのは俺なのだ。俺は疲れているのでアイテムボックスから作り置きのサンドイッチを出した。


「ほい」

「むう………おでん作って」

「明日な」

「おでん~!」


 フェリスは俺の上で暴れている。あんまりにも暴れるので起きてフェリスを押し倒して大人しくさせる。


「少し休んだら作ってやるから。もうちょっと待っててくれ」

「重い。乗るのはベッドの上にして」

「フェリス。ダメよ。アキトも疲れてるんだから無理させちゃダメ」

「むう………ごめん。いい子いい子」


 フェリスはシエラの言うことは素直に聞くんだよな。そしてたまにやたらお姉さんぶる。今も俺の頭を撫でている。


「でもこういうのが続くとご主人様の負担が大きいですよね~」

「そうなのよ。食事を作るのはアキトが担当だから帰ってくるといつもそうなるのよね。だから作り置きで対応してるんでしょうけど」

「作り置きのサンドイッチじゃなくておでんとかシチュー食べたい」

「それは私もわかるんだけどねぇ。疲れて帰ってきて美味しいシチューとか食べたいわよね。家があるのは宿代がかからないけど、宿と違ってご飯が出てくるわけじゃないのよね」


 一般的な冒険者は宿に泊まっている。そのため金さえ払えば食事は勝手に出てくるのだ。拠点を持っている冒険者達もいるが、そういう冒険者は妻子持ちか高ランクの冒険者でパーティで大きな屋敷に使用人がいたりするの普通だ。Eランクで拠点を持っているアキトが異常なのだ。そういう選択を選んだのはアキトだ。

 今まで作り置きで何とかしてきたのだが、二人の言うこともわかる。俺も帰ってきて美味しい食事を食べたい。なら自分で作るしかない。自分で料理を作るのが一番美味しい。あの師匠に教わったのだから当然だ。


「メイドさんでも雇います~?」


 そこにレイが解決案を出してきた。


「「それだ!」」

「う~ん………」


 俺とフェリスは天啓が降りてきたかの様に反応したがシエラはあまり乗り気ではなさそうだ。


「雇うのはちょっと…ね………私達には秘密が多すぎるじゃない。アイテムボックスにしても無詠唱にしても身体強化にしてもね。あとアキトが作るご飯の作り方にしても美味しいから大儲けできる内容だからちょっとね…」

「じゃあ奴隷ですね~」

「「それだ!」」


 またしてもレイは一言で解決策を出した。再び俺とフェリスは天啓を得たかのように反応する。


「解決策が出て元気が出てきたな! 待ってろよーおでんはまた今度だ。今日はレイの好きなカツ丼だ!」

「やったー!」

「おでん!」

「アキト。本当に奴隷買うの? ちょっと落ち着きましょうよ」


 俺は解決策が決まって元気になった。シエラは俺を止めるために声を出す。


「ハッハッハ。今度からは帰ってきたら美味しいスープとか飲めるぞ!」

「もう…明日落ち着いてちゃんと考えるのよ」

「おう!」


 元気にカツ丼を作り食事にする。フェリスはおでんじゃなくて不満そうだったがしっかり完食していた。なんだかんだでフェリスもカツ丼は好きなのだ。


 翌朝。俺は奴隷を買うか凄く悩んでいた。悩んでいるとシエラが怖い笑顔で近づいてきた。勢いで決めちゃダメと叱られた。もし依頼中に勢いで決めようとしたら止めたけど今回は家だったから止めなかったようだ。さらに時間もあったからとのこと。


「ちなみに買うの?」

「今のところは………買おうと思ってる。シエラ達も楽できるでしょ?」

「それはそうだけど………レイの武器作るのにお金貯めてるんでしょ?」

「まあそれは狩りの分を貯めていけばいいかなって思ってるよ。焦ってもないからね。それに急いで作ってもまだ身体強化使えないから使いこなせないと思う」

「大分魔力は増えてきたけどね~。魔力の操作も結構上手だし、量の調整も少しできるようになってきたのよね」


 かなりスパルタで鍛えているからかレイの魔力量はかなり増えてきている。だがまだ一日中身体強化を使えるまでにはなっていない。魔法2、3発で魔力切れを起こしてた時に比べれば十分だ。魔力制御も練習中でまだ練習が必要だ。戦鎚は総魔鉄で作るからかなり重くなるだろう。レイの身体能力を持ってしても重くて使いこなせないと予想している。なので焦って作る必要はない。


「まだ必要ないからね。今は生活を豊かにするために奴隷にお金を使うよ」

「アキトと生活しているとどんどん贅沢に慣れちゃうわ」

「アキトは贅沢の権化」

「私はいい生活できるので大歓迎でーす!」

「快適に暮らすためなら金は惜しまん」


 というわけで再び奴隷商にやってきた。家を出る前にシエラに


「可愛い女の子お願いね♪」


 と言われた。すでに食うつもりである。俺もハーレムに関しては開き直って突き進むことにした。3人いるのに一人や二人増えたところで変わりゃせん。


 奴隷商に行くと会長が俺のことを覚えていたみたいで話しかけてきた。


「しばらくぶりですね。レイは元気にやってますか?」

「覚えてたか。レイは買って正解だった」

「それはもう覚えますよ。お客様の見た目は特徴がありますし、レイを買っていただきましたからね。して、今日はどんな奴隷をお求めでしょうか?」

「メイドが欲しい。種族は出来ればエルフ。元冒険者とかだと尚よし」

「難しいですなぁ。純血のエルフは滅多に来ませんからな。ハーフやクォーターでもよろしいですか?」

「それでいいよ」

「かしこまりました。ではこちらの部屋でしばらくお待ちください」


 何故エルフかというと寿命の関係だ。どうせなら長く居て欲しいしな。俺もシエラもフェリスもレイも皆が長命種だ。でレイは獣人だからエルフより短いが長命だ。俺もスリークォーターで純血のエルフよりは少し短いが長命だ。すぐいなくなられても困る。


 職員が持ってきたお茶を飲みながら待っていると商会長が戻ってきた。


「お待たせいたしました。こちらの3名を勧めさせていただきます。こちらが資料になります」


 商会長は3人のハーフエルフらしき女性を三人連れてきた。全員薄い緑色の髪をしており髪は肩くらいまでだ。エルフの血が入っているからか全員容姿は整っている。二人は身長が155センチくらいで俺より少し大きいくらいだ。一人はシエラと同じくらいの165センチくらいだ。戦闘力バストは85に84に98か。

 資料を見る。


 名前:マール

 種族:ハーフエルフ(人間×エルフ)

 年齢:29

 備考:非処女 性交渉可 借金を払いきれず奴隷落ち

 戦闘力バスト85


 名前:エリーゼ

 種族:ハーフエルフ(ドワーフ×エルフ)

 年齢:53

 備考:非処女 性交渉可 元貴族家使用人。横領が発覚し奴隷落ち

 戦闘力バスト84


 名前:ミルファ

 種族:ハーフエルフ(人間×エルフ)

 年齢:34

 備考:元Dランク冒険者 非処女 性交渉可 飲食店を経営。経営が軌道に乗らず借金を払いきれず奴隷落ち

 戦闘力バスト98


 う~ん………一択ですねぇ。戦闘力バスト的にも………横領するやつとかいらんよ。入ってきた順番的に一番背が高いのがミルファかな? うちでメイドするなら火と水の適正欲しいんだよな。ていうかエルフの血が濃いのか美人だけどキツい顔してんなぁ。


「えーっと。ミルファは…一番背が高いのがそうか?」

「ええ。そうです」

「魔法適正を聞きたい。火と水に適正はあるか? 初級でいい」

「お応えして差し上げなさい」


 前来た時もそうだったが自分からは喋らないらしい。


「はい。魔法適正は火、水、風が初級で、土に中級の適正があります」

「ミルファを買う。いくらだ?」

「随分決断が早いですな。ミルファは金貨120枚になります」

「はいよ」

「………よろしいので?」


 アイテムボックスから金貨を出していると商会長が確認してきた。今回は即断だから不安に思ったのだろう。


「何がだ?」

「随分早く決めましたが…以前は奴隷から質問を受け付けていたので……今回は受けないのかなと」

「この3人ならミルファ一択だった。他に勧めたいやつでもいるのか?」

「いえ、この3人がお勧めできる3人です。メイドが出来るものなら他にも何人かはいますが人族ですので」

「ならミルファで決定だ。ほらよ。金貨120枚」

「確認いたします」


 商会長が金貨を確認し終え、ミルファを一旦下がらせ準備に行った。しばらく待っているとカバンを持ったミルファと商会長が戻ってきた。以前と同じように主人の俺が奴隷となるミルファに左手首を左手で持つ。そして商会長が詠唱を開始し、しばらくすると終わった。俺の手首の内側には奴隷のいる印が一つ増えている。


「へえ。複数奴隷がいると印が増えるんだな」

「そうです。奴隷の数だけ増えます」

「ふうん。じゃあ行こうか。俺はアキトだ。よろしくな」

「よろしくお願いいたします。ご主人様」

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