88話 パーティーメンバーと奴隷

 依頼を受け始めて1ヶ月ほどがたった。遠くへの採取依頼や、討伐依頼等受けていた。実力があっても経験がないので意外と苦戦する。戦闘に関しては何ともないが討伐依頼だと見つけるまで大変だ。気配を読めても何かまではわからない。修行時代に何度も追いかけられた黒い虎とかならともかく、初めて察する気配は何かはわからない。ベルベット商会からも月に1度くらいで護衛依頼をお願いされるのはありがたい。ギルバート達という先輩冒険者がいるので経験不足を補ってくれる。いろいろ教えてくれたりもするしな。


 今月の護衛依頼では盗賊が出てフェリスが魔法で殺していたが何ともないようでケロッとしていた。人を殺すのは初めてだったらしいが別に何ともないようだ。やはりこの世界では命が軽い。未だに自分が適応できていないように思える。


 今日は休みの日。シエラからここ一月の反省会をしようという話が出て今はその反省会の最中だ。シエラがこういったことにかなり真面目なので助かっている面もある。俺はどうしても修行時代に1人で何でもやっていた感覚が抜けていないようなのでパーティとしての経験不足で足りないところがあるからこうやってどんどん復習して今後に繋げていこうと思う。


「野営は3人になって随分楽になったわね。2人体制の見張りは楽だわ」

「でも1人休んで交代だと真ん中だときつい」

「それはまあ仕方ないだろうなぁ。長く外出るときは順番で対処するしかないんじゃないか?」

「もしくは休む時間を長くするとかかしらね」


 気になった点を話していき改善点等を話していく。


「こんなところかしらねー二人とも他に何か気になることある?」

「う~ん…外だとチ○チ○を我慢しないといけないのが…」

「「それはどうしようもない」」

「むう………」


 最近はかなり我慢できるようになってきたので助かってる。外で行為に至るわけにはいかない。その間に襲われたらひとたまりもない。誰にも邪魔されず互いに自由に快楽を求めてなんというか救われてなきゃあダメなんだ。二人で静かで時に激しく豊かで………


「俺はそうだなー…必要ってわけじゃないんだけど前衛がもう一人いてもいいのかなって思う。さらに獣人で」

「今はアキト一人が前衛をしてるものね。魔物に近づかれても大丈夫なように模擬戦もしてるけどねぇ」

「連携はまあ時間がかかるとして、索敵の意味でも欲しいなって思うんだよね。獣人は嗅覚や音に敏感だからさ。あとやっぱり後衛過多な感がねー」

「あ~確かに索敵は多くてもいいわよね。フェリスが火力あるし私は一点集中って感じだけど…アキトも魔法使えるから3人後衛みたいなものでもあるわよねぇ」

「アキトは万能型って感じ。接近戦も魔法も出来る。私たちは後衛専門だから前衛専門が居てもいいかも。野営も楽」

「4人だと楽にはなるよなぁ。幸いお金は大丈夫そうだしな」


 ここ一月はアイテムボックスに買いだめしてある分を極力使わない食事をしている。一月の支出と収入を見たかったがある程度余裕がある。依頼分の報酬だけでなく素材を余すことなく持って帰っているのでそれなりに稼げるのだ。


「わかるけど、都合よく良い子なんていないのよね~。居てもどこかパーティに入ってるだろうし」

「そうなんだよなぁ。まあぼちぼちだなぁ。いたら誘うって感じだな」


 人材というのは手に入れようと思ってもすぐには手に入らないのだ。前世もそうだったが即戦力なんてまずいない。ギルドには募集を掲示板に張り出すこともできるがうちはなぁ。秘密が多かったり、美人が二人いたりと変なのが来そうな要因ばっかりだから出せないんだよな。


「じゃあさ。奴隷は?」

「奴隷? ああ。それなら確かに。アキトはお金持ってるしね」

「奴隷ねぇ………」


 サンドリアス王国では奴隷制度が認められている。奴隷商もあるくらいだ。奴隷の扱いなど法で決められているそうだが怪しいものだ。以前ラウンズフィールに行く途中でバカに奴隷を押し付けられそうになったが怪しくて断ったしな。それに前世のある俺には心情的にどうにも奴隷というものが受け入れ難い。奴隷なんていない時代に生きていたのだから。隷属魔法とやらで命令を聞かせ反抗できなくするらしいが、もし自分が奴隷を持ったときに自分の中の何かが崩れ、ひどいことをしてしまうんじゃないかというのも怖い。


「たまに首輪みたいなの付けてるの見かけるけど…何かなぁ」

「アキト的には奴隷はあまり好きじゃないのね」

「うん。魔法で従わせるとかしたくないんだよ」

「じゃあそういうのはしなければいいんだよ。私のおじいちゃんにも一人奴隷いたけどおじいちゃん全然命令なんてしてなかったよ。ただの使用人って感じだったよ」


 フェリスは王都に来る前、祖父が亡くなってからも1年ほどはその奴隷と一緒に過ごしていたそうだ。契約主が死ぬと契約はなくなるらしいがそれでもフェリスの要望を聞いて1年ほど世話してくれて王都まで一緒に来てくれたそうだ。なので本人の性格もあるかもしれないが扱い方によっては普通に使用人として信頼を得ることもできるのだろう。


「う~ん。まあそうなんだよなぁ。俺がそういう扱いしなければいいだけなんだよな」

「アキトがその子に変なことしそうになったら私が止めてあげる。私はそういうの嫌い」

「フェリスがそうしてくれるんなら安心ねぇ」

「なんだかもう買うような流れになってるけど決めてないからな」


 流れで買わされそうだ。でも案としては悪くないのかもしれない。奴隷なら言うことを聞かせられるし秘密も守れる。


「でも、案としてはいいわよね。ちゃんと秘密は守れるし。うちはいろいろ秘密が多いもの」

「うん。それに見に行くだけならタダだし」

「なんか…もう奴隷商行くことになってない?」

「行かないの? フェリスが言う通り見るだけならタダよ」

「気まずかったら欲しい子がいないって帰って来ればいい」

「買うんなら女の子の獣人よね」

「うん。女の子じゃないとダメだね」

「何故に女ってもう決まってるの!?」


 何故だ? 別に男でもいいじゃないか。男同士でアホなこと話したりもしたいし、男同士でしか話せないこともあるんだぞ。


「だってねぇ。アキトは私達と体の関係があるじゃない」

「うん。それを男の子に聞かせてずっと我慢させるのは酷」

「だから女の子にして、その子もアキトの女にしちゃえばいいのよ♪」

「ええ~………」


 何故この二人は示し合わせたように俺にハーレムを勧めてくるのだろうか? 確かに言うことはもっともなのだが…ここに住むことになるだろうし男だとひたすら我慢を強いることになる。俺なら確実にキレる。女の子で俺の女にしてしまえば順番になるから気にしなくていいってことなんだろうけど……シエラもフェリス以外の女の子を抱けるし………これが狙いか? ………さすがにないか。


「それに男の子だとねぇ。私達も気を使っちゃうのよね。アキトだから安心できるし気を使わなくてもいいんだけど…」

「裸で歩いてもいいもんね」

「裸で歩くのはどうかと思うが、確かに二人に気を使わせたくはないなぁ」

「だから女の子なのよ」

「う~ん………」


 まあ正直フェリスが増えた時点で女は何人でもいいやと思ったりしないでもないんだが………性欲に身を任せようか………いやそれなら二人で十分すぎるくらいなんだよなぁ。エルフ種で二人とも美人だし良い体してるし………ぐだぐだ考えるのはやめよう。パーティとしてどうかで考えよう。それなら男女に関わらず居てもらったほうが先々楽になるだろう。


「はあ…パーティとしての活動を考えればいたほうがいいから、奴隷商行ってくるよ。なんか危なそうだから一人で行ってくる」

「可愛い女の子がいたら買ってきてね♪」


 やはりフェリス以外の女の子を抱きたいというのがシエラの本音なのでは?


「ていうか奴隷っていくらくらいだろ? 金貨300枚くらいで買えるのかな?」

「わかんない。けど足りなかったら帰って来ればいい。無理に買う必要はない」

「まあ行ってみてだな」


 というわけで奴隷商に行ってみることにした。何か流れで行くことになったがまあ気にしないでおこう。パーティのことを考えてだ! これはパーティのことを考えてのことだ! 決して新しい女が欲しいわけではない!


 大通りに向けて歩いていたのだが奴隷商がどこにあるか知らない。ギルドなら教えてくれるかな?






 アキトが出かけてからの自宅ではシエラとフェリスがのんびりと過ごしていた。


「ねーシエラー。アキトどんな娘買ってくるかな?」

「そうねぇ。大人しい娘じゃないかしら? でもまだ買ってこない気がするけどね。アキト結構警戒心強いし慎重だから悩んだ末に買わないってなりそうだわ」

「私はね。一つだけわかってることがあるよ。わかる?」


 シエラは上を向いて少し考えるがわからないのでフェリスに聞き返す。


「わからないわ。何なのわかってることって?」

「絶対におっぱい大きい娘を買ってくるはず」

「あ~…確かにね」


 シエラはそう言われて納得する。アキトの好みからすると納得せざるを得なかったのだった。







 ギルドで奴隷商の場所をエルナさんに聞いたらジト目で見られた。悪いが俺はそういう目で見られて喜ぶ趣味はないんだ。パーティメンバーを探してるということを伝えるとギルドで募集できるとも言ってくれたがロクなのが来そうにないから断る。渋々教えてくれたが変なことはしないようにと言われてしまった。エルナさんの中で俺は一体どういう扱いなんだろうか。おばちゃんといいエルナさんといい変な扱いするんだよなあ。


 教えてもらった北区の奴隷商に来たのだが…


「ここは金の持ってないガキの来る場所じゃねーぞ! 金貨50枚は必要だからな! とっとと帰りな!」

「あ゛あ゛?」


 舐めた態度の人族の男店員が絡んできたので胸ぐらを掴み無理やり倒し、アイテムボックスから白金貨を見せて殺気をぶつける。この白金貨はこの前狩りに行って城で買取してもらった時に「白金貨見たことないからそれで頼む」とオヤジに言ったら出してくれた。使いにくいからヘソクリになると思ったんだ。


「ヒッ……す・すまなかった! ゆ…許してくれ!」

「お前じゃ話にならん。上の奴呼んでこい」


 男は慌てて後ろに走って行った。走って行ってから思う。


(金貨50枚で買えるのか………)


 単純に人が金貨50枚で買えるなんて前世の感覚からするとありえない。この世界ではそういうものなんだろうと思い無理やり自分を納得させる。

 待っていると人族と思しき初老の男性が現れた。耳が少し長い気がするがおそらくこの老け方は人族だろう。


「うちの者が大変失礼いたしました。ここからは商会長の私が対応させていただきます」

「買うことになったらその分安くしてくれればいい」

「ほっほ。強かですな。少しくらいでしたら可能ですよ。ではこちらにどうぞ」


 案内された部屋に入ると足の短いテーブルを挟んでソファーが二つあるので片方に座る。


「では、さっそくですが今日はどういった奴隷をご所望でしょうか?」

「俺は冒険者をやっててな。前衛をできるやつを探してる。希望は獣人の女」

「ふむふむ。それなら何人かお勧めの者を連れて参りますのでお待ちいただけますかな?」

「それは元冒険者とかか?」

「ええ。そういった者たちでございます。依頼に失敗して違約金を払えなかった者達が多いですな」

「そうか………じゃあそれに追加で冒険者活動が出来そうな奴も含めてくれ。狩りとかの経験のあるようなやつだな」

「それだと少し調べるのに時間がかかりそうですがよろしいですかな?」

「構わんよ。というか奴隷商を利用するのも初めてなんだ。奴隷についてもちょっと教えて欲しい」

「畏まりました。では探している間に私からご説明させていただきましょう。おい、この条件で奴隷を調べてきなさい」

「わかりました」


 奴隷について説明を受けるがざっくり説明するとこんな感じ


 国が認めた者しか使えない隷属魔法を使い『命令』することができる者にする。

 契約によって主人と奴隷を決めて、奴隷は主人を害することはできなくなる。

 奴隷は主人の所有物となる。

 主人は奴隷の生活環境を整える義務がある。

 主人は奴隷に給金を与える義務がある。

 奴隷は自分を買われた金額で買い戻すことができる。

 主人が使用する『命令』は基本的には拒否不可能。強制される。

 奴隷にも権利が認められており、奴隷になる者との相談によって契約内容を決め命令を拒否できる内容を決める。(例:戦闘や性交渉等)

 奴隷を虐待等してはいけない。発覚した場合は高額の罰金、もしくは奴隷になり鉱山等で複数年強制労働。

 殺した場合は普通の殺人罪が適用され、国の法によって裁かれる。

 その他特殊な条件の奴隷もいる。(元貴族等)


 いっぱい抜け穴がありそうな気がするな。バレなけりゃいいって隠れて色々やってる奴とかいそうだなぁ。俺は酷いことをするつもりはないからあまり関係はないか。俺にとっちゃ安い金で使える従業員みたいなもんだな。


「失礼します。準備が整いましたので、確認をお願いします」

「わかった。では、もうしばらくお待ちください」


 商会長が奴隷達を確認に行った。いよいよご対面である。なんだろうこのソ○プで嬢に会う前のような感覚は。ちょっとそわそわしてしまうじゃないか。女って指定しちまったからかな。

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