87話 貴族の間では有名らしい
翌日朝食を食べてシンドール家へ。着くと昨日と同じ門番が挨拶してきた。
「おはよう。今日からよろしく頼むな! そっちはパーティメンバーか。美人2人と一緒で羨ましいな!」
「おはよう。そうだよ。教えてからやるから時間かかるかも」
「俺はわからんから頑張ってくれ」
中に入ってとりあえずやってみせる。これは一度見せたほうが早いだろう
「おお!」
「すごいわね。一気に綺麗になったわ」
「まあこんな感じの結果が得られるわけさ。水の勢いで汚れを飛ばすんだ。小さい穴から水を物凄い勢いで出す要領でアクアショットを撃つんだ。まずは小さい穴から出す要領の一点集中で出来るようになってから幅を広げよう。俺の見ながらでもいいからやってみて」
「わかったわ」「わかった」
シエラとフェリスが揃ってアクアショットを使い始める。さすがにすぐはできないだろうから俺は汚れを落としていく。やはり2人ともうまくいかずに苦戦しているようだ。2人が近くに来て見に来た。
「………汚れが落ちていくのを見てると爽快ね」
「うん。すごく気分爽快」
「気持ちはわかるけど、アクアショットの出し方とか見てね?」
綺麗になっていくのを見ると気分爽快だから夢中になるんだよなこれ。その後30分ほど俺はやっていたら魔力が感覚で1割を切ったので休憩する。意外と魔力は持った方だと思う。だが距離は全然稼げてない。綺麗にやろうと思うと細かいところまで気にしてしまうし、花壇と通路を分けているレンガを見てるとキリがない。もっと雑でいいかもしれないな。まだ20メートルほどだし先は長い。屋敷から門まででも50メートルはある。その間に庭への通路がいくつかあるし、はじからはじまで100メートルはあるんじゃなかろうか? さらに屋敷の反対側もあるしなぁ。
シエラもフェリスもまだ出来ていない。シエラは魔力がなくなったのか休憩していた。
「どうシエラ? できそう?」
「ちょっとだけ汚れが落ちたのよ。もうちょっとかしらね」
「フェリスは?」
「全然落ちない」
「水を出す勢いが大事だぞ」
休憩と掃除を繰り返しその日は終わった。終わり間際にシエラが出来たようで喜んでいた。フェリスはちょっとだけ汚れを落とせたようだ。
2日目。昨日よりは雑にやって距離を稼ごうと思う。正直丁寧にやっても雑にやっても大して変わらないのは昨日確認済みだ。それに今日からはシエラも参戦するから距離を稼げるはず。だが見ているとまだ幅が狭い。
「シエラ。もうちょっとアクアショット出す幅広げてみようか」
「魔力消費が激しくなっちゃうわよ」
「もっと雑でいいんだよ。綺麗にやっても大して変わらないと思うから」
「そうなの? ………あら? 本当ね。でもどっちにしても魔力消費は激しいわね」
今日も休憩を挟み進めていくが、夕方くらいになってもフェリスが出来る気配がない。もともと制御が苦手なのもあるが、魔力制御の修行をしている期間がシエラに比べて半分以下なのもあるだろう。まだ早かったかもしれない。
「………できない」
「フェリス。落ち込んじゃダメよ。ほら。昨日よりも落ちてるじゃない。ちゃんと上達してる証拠よ」
「うん………頑張る」
出来なくてシエラに慰められてもかなり落ち込んでいるようだ。いかんなぁ。これはフェリスが自信をなくしてしまいかねん。また何か下ネタにでも例えてできるようになったりしないだろうか。う~ん勢い良く出る…勢い良く出る…勢い良く出る………あれか。
「フェリスいいか~?」
「うん………」
反応はあるが下を向いたままだ。これはかなり落ち込んでる。うまくいかなかったらチ○チ○に頼ろう。
「フェリスにとってわかりやすい例えがないか考えたんだけどな。チ○チ○がフェリスの【自主規制】に【自主規制】を繰り返すとチ○チ○がフェリスの【自主規制】で勢い良く【自主規制】されるだろ?」
「…………………………………ハッ!」
何かピンと来るものがあったのかさっそくアクアショットを勢い良く撃ち出し汚れを落としていった。さらに広げて範囲を広げていた。
「出来た! むふ~ん♪」
両手を上げて喜んでいる。ダメ元だったんだけどなぁ。まさかこれで出来るようになるとは…まあ結果が良ければいいか…
「アキト。ご褒美にチ○チ○を要求する!」
「またシエラに怒られるぞ?」
3日目。3人とも出来るようになり、一番魔力の多いフェリスがいるからかなり効率は上がるはずだ。屋敷について始める前に執事のブルーノが来た。
「おはようございます。進み具合はどうでしょうか? 綺麗になっているところは増えてきてはいますが…」
「おはよう。今日の進み次第で判断つけようと思う」
「わかりました。こちらは差し入れでございます」
そういってブルーノは中級魔力ポーションを3本出してきた。ありがたく受け取り作業を開始する。そういえば使用人達がまったく来ないな。ブルーノが手を回して邪魔しないように言ってくれてるのかな。
「今日は大分進んだなぁ」
「そうねぇ。やっぱりフェリスは魔力量が多いからたくさんできるわね」
「むふー」
「この分だとあと3日か4日くらいで全部終わりそうだな」
「見えるところだけでいうとそうかしらねー」
「それはよかった」
ちょうどブルーノが来た。そのまま続けて欲しいそうだ。報酬はかなり弾んでくれるそうだが、最終的にはシンドール伯爵次第だそうだ。最近事業で儲かってるらしいからかなり羽振りはいいらしい。
翌日も順調に汚れを落とし終わりが見えてきた。アキト達が帰った後のシンドール家ではシンドール伯爵が結果に満足していた。
「ブルーノ。報告を聞いたときは嘘かと思ったが凄いな。汚れていたのがあんなに綺麗になるとはな。驚いたよ」
「はい。私も驚きました。あそこまで綺麗なるとは思いませんでした。お嬢様の誕生日パーティーには間に合いそうです」
「ああ。これは報酬を弾まんとな。ちなみに依頼を受けてくれた冒険者の名前はわかるか?」
「はい。Eランク冒険者のアキト様です」
「アキト………ああ、彼か」
「ご存知でしたか」
「ああ。”陛下のお気に入り”だ。あとは王女殿下の意中の人でもあるな」
「それはまた…凄い方が掃除に来てくれていたのですね」
シンドール伯は普段城で働いているため嫌でもそういう情報は入ってくる。本当ならば取り込んでしまおうと思ったがさすがに陛下が相手では分が悪い。むしろ陛下から手を出すなと王命が下っているからすぐに諦めがついた。
「明日はできるだけ早く帰ってきて礼をしようと思う。彼らはどのくらいに帰るんだ?」
「日が沈む前、ここから時計塔が見えますので、5時くらいには帰ってしまいますね」
「5時か…頑張ろう」
伯爵も暇ではない。むしろ忙しい方だ。どうやって仕事を早く済ませようか悩む伯爵だった。アキトの気性も知っているので無理に待たせるなどはできない。
5日目も順調に汚れを落としていくのだがシエラがとあることに気づいた。
「ねぇアキト。順調に汚れを落としていけてるのはいいんだけど…」
「ん~? 何かある?」
「ええ。下は綺麗になってるでしょ? 綺麗になったレンガを見てから建物を見るとね」
「………あ~。そういうことね。別にいいんじゃない?」
地面に敷き詰められてるレンガは綺麗になると今度は建物の汚れが目立って見えてしまうのだ。だが依頼は地面なのだから別にいいだろう。作業を再開し、夕方になったので今日は帰ろうと思ったら高そうな服を着たエルフの男が近づいてきた。
「やあ。ご苦労様。綺麗にしてくれて感謝するよ。私は当主のレナルド・ディ・シンドールだ」
「あー伯爵さんね」
「聞いていた通りだな。さすがは”陛下のお気に入り”だ」
「俺貴族の間じゃそんな風に呼ばれてんの?」
「ああ。有名だよ。さすがに謁見をぶち壊してたら有名にもなるさ。私もあの謁見にはいたからね」
「あー確かに」
貴族達の間では俺はオヤジのお気に入りで有名なのは初耳だ。正直どうでもいいがこのおっさんは何をしに来たんだろう。
「それで様子でも見に来たのか?」
「それもあるが、報酬は弾ませてもらうつもりだがそれだけというのも何か味気ないと思ってね。最新型の魔石コンロなどいらないかね? うちの領地は魔道具を多く作っていてね。融通できるんだ」
「それは魅力的だな」
随分魅力的な提案をしてきた。意外と魔石コンロは高くて手が出しにくいのだ。安いもので金貨10枚ほどだが火力の調整はできなかったりする。今使ってるのは師匠が使っていたものだ。火力の調整を5段階くらいでできる。
「今使ってるのはこれなんだが、もう一つ欲しいなと思っていたんだよ」
「ほお。随分古い型の魔法コンロだね。おそらく100年位前の物じゃないかな? 大事に使えばこれだけ綺麗に持つんだなぁ」
伯爵がアイテムボックスから出した魔石コンロを興味深そうに見ている。今使ってる魔石コンロを随分古いものだったらしい。師匠が持ってたやつだからいつのかは知らなかったけど100年も前とはなぁ。俺や師匠やアカリといった転生者のアイテムボックスは時間が止まるから実際はそんなに時間経ってないだろうな。
「良ければこれを引き取って新しい物を2台渡すこともできるが…」
「いや、それは断る。大事な物なんだ。これは師匠の形見でもあるんだ」
「そうか…すまない。では最新の魔石コンロ一台を報酬を渡す時に一緒に渡すよう手配しておくよ。引き続きよろしく頼むよ」
「わかった。ありがとう」
伯爵は戻っていった。魔法コンロをもらえるのは非常にありがたい。次の日でほぼすべて終わり、もう1日で確認をした。執事のブルーノに報告するとかなり嬉しそうに報酬を持ってきた。なんと金貨50枚もあった。いささか多すぎだと思ったが今後も考えているそうなのでこの額だとか。貴族ってのは繋がりを重要視するなと改めて思った。
今回の依頼でフェリスにはまだ細かい魔力制御はまだ難しいとわかった。やはり段階を踏まないといけないのだ。下ネタに例えるのも大変だしな。しばらくは魔法を覚えさせよう。7属性もあるから少しずつになるが焦っても仕方ない。
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