86話 水遊び
オーク集落討伐戦でフェリスに自信をつけてもらってから今度は魔力制御の練習を一月ほどしている。シエラは大分身体強化に慣れてきたので10段階の調整から倍の20段階に調整できるように魔力制御の練習をしてもらっている。フェリスも同じ内容だ。早い気もするが元々魔力量の調節が苦手だから段階調整の練習はちょうどよかった。一月ほど三日修行して1日休みを繰り返した。修行三日のうち1日は半日で終わり図書館に行ってフェリスに魔法書を読ませている。7属性すべて使えるから覚えるのも一苦労だ。本人は本が好きなので苦痛ではないようだ。だが他の部分でフェリスから文句が出た。
「ふん! ふん!」
「なんだよ~一昨日シただろー」
「そうじゃないの!」
休みの日に朝食を食べてからシエラに膝枕してもらって癒されていたらフェリスがおっぱいを顔に押し付けてくるのだ。これはこれで男としてとても嬉しいのだが今はシエラになでなでされて癒されてるんだよ俺。邪魔されたくないのよ。一回り大きくなって
「飽きた! 同じ修行ばっかりで飽きたの!」
「確かにねーここ一月ずーっと同じ内容よね~。しかも細かくて難しいのばっかり」
「………そういう修行なんだから仕方ないだろ~」
「私達二人とも魔力制御は前よりうまくなったけど………やっぱり飽きるのよねぇフェリス~」
「うん! アキトは狩り行ってきて楽しんでたのに!」
言われてみると確かに俺だけ気分転換してきたような感じだなぁ。結構儲かったんだぞー金貨200枚くらい…苦戦したんだぞ~………これ言うとさらに文句言われそうだからやめとこう。
「ごめん………気分転換の依頼受けるの忘れてた。何か依頼受けよう。ていうかそろそろ依頼受け始めよう」
「あら? 修行止めるの?」
「いんや続けるよ。毎日やるのは身体強化を使い続けるだけ。依頼受けたら3日空けてからまた依頼受ける。その3日の内、2日目はガッツリ修行。3日目は軽くするって感じ。理由は食い扶持が1人増えていつものゴブリン狩りや薬草集めとか角ウサギ狩りじゃ赤字になってきたから」
「私は悪くない」
「うん…まあ、悪くないな」
フェリスが来る前までは冬の間以外はちょうど食材費と収入が同じくらいか少し赤字くらいだったのだが、フェリスが来てからは赤字になってしまった。出来るなら俺の狩りの稼ぎ抜きで生活を成り立たせたい。アイテムボックスに大量に米などがあるから出来ているが、なければずっと赤字続きだ。
「だから依頼受けていくことにした」
「リーダーのアキトがそう言うならそうしましょう。そろそろ冒険者としてちゃんとやっていかないとね」
「ついでに修行できる依頼がいいな。さっそくギルド行って依頼見てくる」
「アキト。今日は休む日だよ?」
「別に今日出発しないといけないわけじゃないからなぁ。まあ見てくるだけだ」
そう言って俺は家を出てギルドに来て依頼が貼ってある掲示板を眺めている。今はFランクのところを見ている。やはり朝早い時間帯じゃないと良い依頼は取られているのか報酬が安いものばかりだ。少し報酬が良いのを読んでも割に合いそうにないのが多い。一つだけ報酬欄が”出来高報酬”と書かれているのを見つけた。内容は簡単に言うと庭の掃除だ。どうやら貴族の屋敷でかなり広いようだ。というか掃除ってどんな内容の掃除だ? 箒で掃くだけならこんな報酬にならんだろうしなぁ。書いておけよなぁ。
「アキトくーん。良い依頼あった~?」
「あーエルナさん。これなんだけどさ。掃除ってどんなことするかわかる?」
「ああこれねー伯爵様のお屋敷の庭と入り口までの道なんだけどねー。道がレンガなんだよねー」
「あーもう察した。あの黒ずんだりしてるアレね。ていうか大通りにも使われてるアレね」
「そうそう。アレ。しかも伯爵様のお屋敷にいっぱい使ってるんだよね。アキト君何とかできる? 伯爵様結構困ってるっぽいんだよねぇ」
正直貴族なら金に物言わせて人海戦術でレンガ掃除すればいいだろと思うがそんなに落ちないもんかね?
「これ見に行ってから受けるか決めちゃダメかなぁ? ご丁寧に地図も依頼書に書いてあるし」
「いいと思うよ。結構長い間貼ってあって皆お手上げ状態みたいだし」
「じゃあ見てくるよ。場所は西区の…シンドール家。この場所はあの馬鹿でかい庭があるところかなぁ」
何かシンドールという名前は聞いた覚えがあるような気がするが思い出せん。
歩いている途中に思ったがレンガの汚れが落とせないというのもよくよく考えると納得である。前世の感覚で行くと硬いブラシや金たわしで擦ったりすればいいだろ思ったがこの世界にはまだそういうのはないんだよなぁ。あるのかもしれないが量産してたくさんはないんだろうな。あったらあんな依頼は出さないだろうしなぁ。綺麗なところもあるから俺が知らないだけで綺麗にする方法もあるのかもしれない。
考えてるとシンドール家に着いた。門から見ても地面のレンガは大通りよりも汚いのが分かる。これ落とせるかな…
「君、シンドール家に何か用かね?」
「ん? ああ、ギルドで掃除の依頼見てさ。汚れ落とせそうか見に来たんだ」
見ていると門番の獣人族に話しかけられた。多分ティル達と同じ狼人族だろう。
「あの依頼かぁ。受けてくれてもなかなか汚れを落とせなくてなぁ。うちの旦那様も困り果ててるんだ。君何とかできそうかい?」
「う~ん………見た感じ出来そうにないなぁ。でもちょっと試してみるか」
門から少し中に入り、しゃがんで近くて見てみる。うろ覚えだけど苔とかじゃなかったっけかなぁ。燃やすか………やめとこう。どうなるかわからんし綺麗になるかもわからん。アイテムボックスからナイフを出してガリガリすると落ちるが効率が悪すぎるしナイフが持ちそうにない。う~ん………
しばらく悩んでいると門番の男性が声をかけてくる。
「やっぱり難しいよなぁ。さっきナイフでガリガリやってたが、人を集めて金属で削るのが早いのかもしれないなぁ」
それだと金がかかるんだよなぁ。一緒に悩んでくれるのはいいんだが、失敗を多く見てきたからか半分諦めてるようにも感じる。アクアショットで高圧洗浄機みたいなことできないかなぁ。理屈としては出来るはずなんだけど試したことはないんだよな。物は試しだ。やってみよう。小さい穴から高い水圧で水が出るようにアクアショットを出す必要があるか。地面を指差すようにしてアクアショットを使う。
ブシャアアアアアアアア!
「お! ちょっと落ちるな」
「本当か!? おお! 綺麗になってるな」
「でも効率悪いな」
一点集中でアクアショットを撃つと打った箇所の汚れが落ちて綺麗になった。だが指先から細く勢いよく出す一点集中でやるから範囲が狭いんだ。点じゃなくて線で出せばいい。指を二本にしてその間からアクアショットを出すようにする。線になることでさらに勢いが求められるので魔力量を多くして水量と勢いを足す。
「お! お! これはいいかもしれん」
「おおおおおおお! いいじゃないか! 凄いな君! 是非あの依頼を受けてくれ!」
「ちょっと待ってくれ。これすっごい魔力消費する。1日じゃ無理だ」
レンガの汚れを水圧で綺麗に落として一目瞭然の結果が得られたが魔力の消費が激しすぎる。俺でも激しいと思うほどだ。この広さをとても1日で出来るとは思えん。シエラ達に教えて出来るようになったとしても広すぎて1日じゃ無理だ。魔力がどれだけ持つかもわからんしなぁ。まだちょっとやって消費激しいってことしかわかってないしな。
「わかった。ちょっと待っててくれるか? ここの執事を呼んでくる。お茶会とかの予定もあるからな。どこを綺麗にして欲しいとかあるかもしれん。先にそっちだけとかになるもしれんからな」
「わかったよ」
シエラ達にどう説明したものか悩んでいるとさっきの門番の男が燕尾服を着たエルフの男を連れてきた。エルフだから年齢はわからないが燕尾服がよく似合っている。
「失礼。私シンドール家の執事を務めておりますブルーノと申します。この度はシンドール家からの依頼を受けていただけると伺っております」
「冒険者のアキトだ。ランクはE。このレンガのところの掃除だよな? さっき魔法で掃除したところはそこだな」
さきほど綺麗にした部分を指差し、執事に見せると綺麗になっていたことに驚いたのか声をあげた。
「おお! これは凄いですね。是非依頼を受けてください。1日では厳しいとも伺っております。元々1日にしたのはできるかの確認のためなのです。何日くらいかかりそうでしょうか?」
「悪い。正直わからん。こんなの初めてだし魔力がどれだけ持つかもわからないんだ。庭も広すぎるしな。あと明日からでいいか?」
「ふむ。なるほど………では、10日を目安にしましょう。2、3日やってみてから綺麗にする優先箇所を決めたいと思います。実は12日後にお嬢様の誕生日パーティーがありましてね。今は遠方にいまして、パーティーに合わせて帰ってくる予定なのです。それまでに綺麗にできればいいので、全部が無理の場合は場所を絞りましょう」
「じゃあそれで行こう。明日からになるけどいいよな?」
「ええ。構いません。ではこれから冒険者ギルドに行きましょう。あの依頼は期限を1日にしていたので変更が必要です」
「わかった。じゃあ行こうか」
その後ギルドで内容を変更された依頼を受けた。エルナさんにこういうのは本来ダメと言われたが大目に見てくれたようだ。ブルーノも口添えしてくれたしな。
帰って明日からの依頼内容を2人に説明する。
「レンガの汚れ落しねぇ。アクアショットでやるって言うけど、難しい?」
「難しいっちゃ難しいかなぁ。魔力消費はすっごい激しいな」
「アキトでも消費が激しいなら私はあんまり持ちそうにないわね」
「だから10日見てもらってるよ。1日で終わりそうにないからさ。服は濡れてもいい服着ていかないとな。水しぶきが飛ぶからね」
「外套とか持って行ったほうがいいかしらね」
シエラは何も問題なさそうだな。フェリスはというと…
「むううう。また細かい魔力制御………チ○チ○を要求する!」
「………仕方ねぇなぁ」
「おお! アキトが私の要求に応えてくれる!」
「じゃないと文句言うんだろお!」
「フェリス。ダメ。次は私」
シエラが怖い笑顔でフェリスに近づいていった。フェリスは驚いたのかソファーに飛び乗った。シエラはフェリスを追うようにソファーに飛び乗りフェリスを捕まえ体を撫で回している。
「むううううう」
「ちゃ~んと私が鎮めてあげるからね~♪」
何も言うまい。シエラの楽しみを奪うわけにもいかないからな。フェリスも嫌がってる感じじゃないし。
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